第59話 ブランドを作る?

「だからさぁ、タクトぉ、何個かでいいからぁ」

「嫌です。なんでタセリームさんを儲けさせるために、作りたくないもん作らなきゃいけないんですか」

 忙しいって言ってたくせに、昼食後に工房のカウンターでタセリームさんがしつこく勧誘してくる。


 あのケースペンダントを、作れと言うのだ。

 地味に落ち込んだ後だったので、そんな気になれないんだよっ!


「なー! 頼むよぅ、タクトが作ったのがいいんだってぇ」

「しつこいぞ、タセリーム」

「だってあんなに綺麗な……ん? んんんっ! ガイハックさん、あんたのもタクトが作ったやつかい?」

「へっへっへっ、いいだろ?」

 父さん、自慢したくて態と見せて近寄ったな?


「これもいい……この意匠なら、男だって持ちたくなる……」

「タクトはよ、こう……知的な感性ってのがあるからよ」

「うん、うん、これすごくいいよー」

「でな? これをよ、こうずらしてだな……透かすと……」

「あーっ、なんですか、これっ! これ、これスゴイですよっ!」


 透かし文字って、そんなに凄くないでしょ?

 大袈裟に褒めて父さんを味方につける気だなー。

 悪徳商人めぇー!


「タクト、本気で頼む。ちゃんと契約書も作って仕事として。魔法師組合も通す!」

「全部作るのは……お断りしますが、意匠の使用なら認めますよ」

「君が作った、という証がないと! そこが重要なんだよ!」


 ブランド展開を狙っていると?

 俺なんかがブランドになるとは思えない……

 大コケしても責任取らないからな!


「解りました……じゃあ、この作り方を何人かの石工職人さん達に教えます。必ずその人達が作って、俺が最後に壊れにくいように魔法を付与する」

「うん、うん! 君の名前を、ちゃんと入れてくれよ?」

「な……名前は、ちょっと……ああ、俺の印を考えます。その印で魔法を付与してあることが俺の意匠証明……って事でいいですか?」

「判った! それで充分だよ!」


「石工さんが作った物が著しく意匠から外れていたり、質が悪かったら、俺は認証しないって事もありますけどいいですね?」

「勿論だ。我が商会の威信にかけて、品質は保証するよ」

「それと、販売はシュリィイーレのタセリームさんの店だけ」

「絶対に他になんて渡すものか! 全部うちで売りきってみせるよ!」

「じゃあ、魔法師組合に指名依頼で出してください。……善処します」

「ありがとうっ! これで懸案事項だった女性客も取り込めるぞーっ!」


 女性客……そりゃ、タセリームさんの店のラインナップだとそうだろうな。

 へんてこなものが多すぎなんだよ、この人の店。

 でも、俺のブランドで女の子が買うとは……自分でも思えないのが哀しいぜ……


 その日の夕方、魔法師組合から指名依頼の連絡が来た。

 あの後すぐに出したんだろうな……タセリームさん。




 翌朝、タセリームさんの所に行くことになった。

 その前に魔法師組合に寄ってからだ。

【加工魔法】のことを聞きたいしね。


 魔法師組合の受付でコーゼスさんに、依頼内容説明してもらった。

 思っていたより、高額依頼だった……

 儲からなかったらどうするんだろう……こわい。


「指名依頼なんてすごいねー」

「あの人、結構強引なんですよ。俺じゃなくたっていいと思うんだけど」

「いやいや、タクトじゃないと絶対駄目って言っていたよ? タセリームさん、君のこと信頼してるんだよ」

「それは……嬉しいですけどね」


 依頼承諾の署名をして、【加工魔法】について教えてもらった。

 どうやら素材を性質を変えずに、加工できる魔法のことらしい。

 うん、ケースペンダントの時にさんざんやった奴だ。

 組成分解とかも【加工魔法】なんだろうな。


「タクト……君、石工と鍛冶の職人になったりしないよねぇ?」

「え? しませんよ。俺は文字魔法師ですって」

「まさか【加工魔法】まで使えるようになっちゃってるなんてさー。石でも金属でも自分で加工できたら、この町ではそっちの方が儲かるしー」

 そうなのか。

 知らなかった。


「大金が欲しい訳じゃ無いし、好きなことしかしたくないワガママ者なので魔法師がいいです」

「よかった。安心したよー」

 ……魔法師組合、人材不足なのか?

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