第9話 コミュニケーションしてみよう

「普通の【回復魔法】じゃねぇのは確かだが……なんだ? この欠片……」

 そうか、こういう紙はこの世界にはないのか。


「これは俺の故郷のもので、こちらにはないですかね?」

「ねぇな……見たことねぇ」

「これに文字を書いて、治せるんですよ」


 ……とりあえず、これで治すことができるってことだけにしておこう。

 物品が出せるとか、マズイ気がするし。


「そうか! 【付与魔法】か!」

 知らない言葉が出てきたぞ?


「付与……魔法?」

「物に呪文を書いて、魔力を発動させる魔法のことだ。知らねぇのか?」

「そう、言うんですか、この魔法……」

「成人の時に神官に教わらなかったか? ……おまえ、成人……してないか」

「成人ですよ! ……でも、故郷では、そういう言い方していなかったので……」


 二十八歳は、充分成人だよな?

 この世界の成人が、三十歳とかってことはないよな?

 あ、俺が童顔なせいか?

 東洋人は童顔に見えるっていうしなー。

 ガイハックさんは欧米人っぽい顔だし、見慣れていないのかも。


「おまえの故郷では……皆が、こんな魔法使えるのか?」

「いえ、そういうわけではなかったと思いますが……俺はずっとひとりだったから、知らないだけかも知れませんけど」

「あ、ああ、そうか……うん、そうだったな」


 しまった、また空気を重くしてしまった。

 こちらでは家族っていうのは、俺が考えている以上に重要なことなのかもしれん。


「俺、本当にものを知らなくて……世間に疎いっていうか、全然解らないことだらけで」

 愛想笑いをしてみるが、ガイハックさんのしんみりした顔はあまり変わらない。

「……帰る所は、あるのか?」


 あ……『帰る所』……

 ひとりだったし、確かにもう誰も家族はいない。

 でも、俺はあの世界が嫌いじゃなかった。

 書道教室の子供達のことも、カルチャースクールに来るおばさん達も。


「帰る……所は……ない、です。もう……」

 もう、帰れないのかもしれない。

 やばい、なんか涙が出て……


「そっか、うん……頑張ったな、もう、大丈夫だぞ」

 頭をポンポンと優しく叩かれ、なでられた。


 ガイハックさん、絶対に俺のこと子供だと思ってるよ。

 でも、なんかキモチイイから子供のふりしとこう。


「タクト、今日はうちに来い。泊めてやる」

「でも……」

「断っても連れていくからな。うちは食堂もやってるし、空いてる部屋もある」

「……いいんですか?」

「ああ! ここにいられて、明日死体を運び出すよりよっぽどいい」

 え……?

 ここってそんなにヤバイの?


「今の時期くらいから夜になるとこいつや、もっとデカイ奴がこの辺をウロウロするんだぞ。人がいたら、確実に襲ってくる」

「ありがとうございます。お世話になります」


 ソッコーで甘えることに決定。

 ガイハックさんがいい人で良かった……!

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