もう一人の私

 私は宮城県のとある大学に通う学生だ。

 1年生の時に、不思議な体験をしたことがある。


 一人暮らしと大学生活にも慣れ、余裕が出てきた私は居酒屋のアルバイトを始めた。

 自分の給与明細の額と仕送りを比べると、自分がこんなに一生懸命働いて稼いでるのと同じくらいの額を毎月送ってくれる親に申し訳なくなり、さらに頑張ろうと思い、シフトを増やした。

 そのことも祟ったのか、吐く息が白くなってきた頃に風邪をひいて学校を休んでしまった。

 携帯も触れないくらいひどい風邪で、意識が朦朧としながらも布団で寝込み、翌々日には学校に行くことが出来た。

 

 友達に、休んだ分のノートを写させてもらおうと話しかけた時だった。


 「おはよ、環境化学論のノート貸してくんない?」

 「え?お前いなかったっけ?居眠りでもしてたんか」

 「は?俺休んでたんだけど」

 「いや、講義終わった後学食行って4人で飯まで食ったやん、なあ?」


 友達が問いかけると、他の友達も同意していた。


 「じゃあ昨日俺たちが一緒に飯食ったお前ってドッペルゲンガーじゃん」

 「ウケる」


 友達は笑っていたが、私は全然笑えなかった。

 私が寝込んでいる間、もう一人の私が講義を受け、友達と食事までしている。

 しかも、友達も昨日の私を一切疑っていない。

 私は昨日、家で横になっているのと同時に、大学に行っていたのだ。


 それ以降は何の問題もなく過ごしているが、その時の私は何をしているのだろうか。

 そして、私は確かに私なのだろうか。



  

 

 

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