第27話 幸福

2022年10月22日 土曜日


きょうは先週約束したブレスト(ブレインストーミング)2回目の日。


洸一と陽一がそれぞれ脳を覚醒させるとはどういうことかというテーマについて考えたことをぶつけ合って議論するのだ。


いつもどおり4時に起きていつもどおりランニング・・・と思ったがあいにくの雨。小雨なら走りに行くところだが、気温も低い予報なのでやんだら走りに行くことに決めた。


いつものとおりコーヒーを淹れて目覚めてきたところで一服しながら(洸一と陽一は実は喫煙者なのだ。電子タバコだけど)、陽一が切り出した。


「洸一、さっそくブレストやろうよ。なんかきょうは頭が冴えてる」


「いいね。ぼくは今週、最高の知性について考えてみた。陽一は?」


「ぼくは予知能力」


「予知能力か。おもしろそうだ」


「ぼくからいいかな。最高の知性って、大きな組織を動かせることだと思うんだ。会社でもプロジェクトでも、あるいは政治でも」


「洸一は前から経営者に興味あったよね。もちろんぼくもだけどさ。で、最高の経営者の知性って何だろう」


「デジタルツールをフルに拡張して知識や知恵を総動員する能力を拡張できる能力だと思うんだ」


「あっ、それはぼくの考える予知能力と共通するかも。デジタルネイティブというか」


「もう一つ、感情をコントロールする力。いくら情報を瞬時に収集してすばやく分析できる能力があっても、怒りや不安に駆られている状態では処理能力が低下するし、なにより人を動かすことはできない」


「そうだね。現時点でAIには感情がないと言われているし、原始時代のように常に命を脅かされるわけじゃないから、不安は不要だ」


「ただ、平均的な人間には見えない、気づかないことでも、知性の高い人には見えたり気づいてしまったりする。漠然とした不安ではなく、多くの可能性が見えてしまうから不安のタネが増えるとも思う」


「そうかな。さらに高い知性があれば、そのすべての可能性に対して、合理的に対応方法を思いつき、すべての可能性の確からしさも評価出来て、対応の優先順位もつけられるから頭はクリアになるし不安もなくなるんじゃないかな」


「陽一、それだね。それって陽一が考える予知能力?」


「かなり近いね。ていうか洸一と話していてより自分の考えが具体的になったよ」


「よかった。で、思ったんだけど、最高の知性でも予知能力でもいいんだけど、そんな能力を手にしたら我々は幸せになるのかな」


「うーん。どうだろう。ぼくらは成長することに幸せを感じているから、もうこれ以上成長できないとおもった時点でいま感じている幸福感はなくなっちゃうね。でもそんな心配はいらないんじゃないかな。最高の知性に上限はみえないし、いまのところ。その時はその時で別の景色が見えているよ」


「陽一はいつもぼくより楽観的だな」


「そんなことないよ。話の展開がそうだからだよ。逆のこともいままであったじゃん。一人の人間には様々な側面があっていい」


「そうだね。結論はでてないけど、考えが進化出来てよかった。また来週やろう。あっ雨が上がったみたいだし走りに行こう」


短時間のブレストだったが、二人は小さな達成感を感じていた。

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