第17話 傲慢
10月3日 月曜日(続)
90分、14㎞のランニングを終えて洸一は部屋に戻ってきたら、陽一が朝食を食べ終えて食器を洗っていた。もう仕事に行く準備もできているようだ。
陽一は洸一が走りに出た後に30分ほど走ってきたのだろう。
「おはよう洸一」
「おはよ」
気分が滅入っていた口を開くのもおっくうだ。
「きょうは長かったね。ロングだね」
陽一の問いかけにも答えず、洸一はシャワーにいく。陽一が出勤するのは毎朝7:30なので、顔を合わせるのを避けるため長めにシャワーを使う。
洸一は毎週月曜にプロジェクトの定例ミーティングがある。未明に見た夢がまだ鮮烈に記憶に残り、注意力散漫な中参加するが、幸いにも今日は混み入った内容でもなく、洸一が報告をする事項もなかった。
会社にいる間ずっと、夢で見た、自分の方が複製かもしれないという考えに完全に囚われてしまっていた。
暗い気分を振り払うことができないまま、会社の帰り、居酒屋に寄って夕飯代わりにビールを飲みながら鶏の唐揚げや枝豆をつまみ、部屋に戻ったときには21:00を過ぎていた。
「洸一おかえりー。おそかったね」
「ただいま。少し吞んできた」
「なんか顔色よくないね。会社でなにかあったの」
さすがの陽一でも洸一が今朝どんな夢をみたのか、そしてその結果何を思い悩んでいるかはわからないらしい。まぁそこまでわかったら怖い。
洸一は単刀直入に切り出した。
「ぼくが複製で陽一がオリジナルかもしれない」
陽一は一瞬とまどった表情をみせたが、すぐに切り返してきた」
「そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない。でもどっちでもいいじゃないか。美術品じゃあるまいし、レプリカの方がはるかに価値が低いなんてことはない。ぼくたちはれっきとした人間なんだ」
洸一ははっとした。陽一はおだやかな口調で続けた。
「自分はオリジナルだから価値が高いとかもし思っていたなら、それはぼくを低く見ているってことじゃないかな」
陽一はすでに複製であることを(そう言われているのだが)完全に認知し受容しているのだ。
洸一は激しい自責の念に駆られた。自分が傲慢であったこと。そして陽一を傷つけるようなことを考え、言ってしまったことを。
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