昔語り(2)
3年前の私たちの姿がそこにある……
そんな3人の関係を仲良しと呼べるものなのか……
今の私にはわからないけれど……
守りたかった……風景がそこにあって……
「あれ……お母さんは?」
先に稽古小屋を訪れていた私の後からヨウマとツキヨが現れ、
ヨウマは今日も姿を見せない自分の母の所在を尋ねる。
「……さぁ……」
……悪い……予感はしていたんだ……
あの日のあの会話を盗み聞いた時から……
稽古部屋に大切に飾られていた妖刀が消えていて……
師はほぼ、私たちの前に姿を見せなくなった……
そんな数日が過ぎて……
師に代わり、自分を含め3人の稽古内容を考え実施していた最中……
「たのもーう」
いつの間にか部屋の入り口に見知らぬ男が立っている。
背中には重そうに大量の刀を背負っている……
人を小ばかにするようなにやけた面で、こちらを威圧的に睨み付けている。
「だれぇ……?」
不思議そうに小首を傾げるヨウマ……
「道場破り……?」
ぼそりとクレイが呟く。
「名刀を集める事がこの俺の生きがいでな……ここに誰も使いこなせねぇ妖刀があるって聞いてな……引き取りに来てやったぜ」
そう男は背負っていた刀を床にばら撒き……
「さて……今日はこいつにすっかぁ」
そのうちの一本を手に取る。
「俺の名はユーキ=クサナギ……糞ガキを刈る趣味はねぇ……ここの師範をよびな」
男は自分の肩を刀の裏側で叩きながらそう名乗る。
・
・
・
クレイ……ツキヨ……ヨウマの3人は……男の前に立ちひざをつきぐったりとしている……
相手は大人……しかもわざわざ各地を周り道場破りをしているような奴を相手に……
「……ちっ……話が違うな……」
男は置いてあった妖刀二本を見ながら……
「確かにどちらもたいした代物のようだが……」
男はその一本を手に持ちながら、頭を後ろに向けクレイを睨みつける。
「あんだろ……まだ……てめぇらじゃ扱えない一級品……いやそれ以上の上物がよぉ」
そう刀をクレイに突きつけ、脅すように……
「
いつの間にか別の誰かが部屋の入り口に立っていた……
「お母さん……」
ヨウマがその相手の名を呼ぶ。
「そいつだ、ちゃんとあんじゃねーか」
男は嬉しそうにそれを眺める。
「私がこの勝負に妖刀をかけるに辺り、貴方は私に何を与えてくれるのかしら?」
そうフウマがユーキに問う。
「そこに転がっている刀全部くれてやる」
そうフウマに告げる。
「……まぁ、興味はないけど……それ以外にもあなたから貰いたいものも無さそうだからね」
そうフウマは返す。
フウマはいつもの愛用する刀を抜く……
ユーキが狂気に満ちた笑顔で対峙する……
勝敗は余りにも呆気ないほどに……
「所詮……カスミ流など……聞かぬ名だったという訳か……」
膝をつくフウマは……
「……コ……ン……ジャ……オワ……ナイ」
ぶつぶつと何かを呟いている。
「あぁん?気でも狂ったか?いいや……こいつはもらってく……」
ぜと妖刀に手にしようとしたユーキより先に……
「なんのつもりだ?」
妖刀に手をかけるフウマ……
「勝負はあった……その
そうユーキが睨み付けるが……
「カスミ……ウハ……オマエ……ナンカニ……マ……ナイ」
そうフウマは妖刀ダリアの鞘に手をかける。
「……馬鹿か、とてもてめぇに扱える代物じゃねーよ」
今、手合わせした相手……それが妖刀に相応しいかどうか知っている。
「てめぇの能力以上の
そうユーキはフウマを蔑むように言い捨てる。
「……だったら……糧を外せ……私がそれに相応しい……能力者……に値するまで……その妖刀に宿す障りごと私を取り込め……
そうフウマが鞘からそれを引き抜く。
「なっ!?どうなってやがる……自分の魔力以上の武器など扱えるはずが……人が産まれつき備わっている魔力の
ユーキが思わずフウマから距離をとる……。
黒い瘴気がフウマを覆い隠すと……真っ暗な影に姿を変えた。
そのシルエットだけが……元のフウマだった事を理解させる。
「……おかあ……さん?」
「……し…しょう?」
その異様な光景に……
「ちっ」
ユーキがその黒い影に斬りかかるが……
ブンっと黒い影が同化したような黒い刀を振るうと……
「くっ……」
ユーキが手にした刀が粉々に砕け散る。
ユーキは再び距離を取ると自分が床に散りばめた刀のそばに膝をつき陣をとる。
「目には目を……ってな」
自分が所持していた妖刀……
「紅桜……抜刀」
そう鞘からそれを抜き取る。
「我が血を啜り、その力を示せ……」
そう左の手のひらを刃を握り刃を動かす。
刃が紅く染まっていく……
「睡れ……睡閃」
そう黒い影が刀をその場で振るう。
「ちっ」
ユーキは紅桜の刃でそれを受け止めるがそのまま壁に叩きつけられるように吹き飛ばされる。
「人の課せられている糧を外し……ようやく……私は手に入れた……」
そうフウマが嬉しそうに……
「お……かあ……さん」
当然……自分の母の変わり果てた姿に……
「師……だめだ……」
クレイもそう呼びかける……
きっとそれ以上は……
「ア……アァ……ウゥ……」
黒い瘴気が刀から溢れ出す……その瘴気が次々とフウマにまとわりつき……
「障り落ち……」
ユーキがそのフウマの行き着いた先を呟く。
そうなってしまえば……手遅れ……二度と元には戻らない。
瘴気に囚われ苦しんでいるフウマにユーキは一気に距離を縮め紅桜で斬りつける。
…が、その一撃はあっさりとフウマの振るう刃で再び壁に叩きつけられ……
紅桜も粉々に砕け落ちる……
誰もが絶望し……恐怖をし……死さえ覚悟する……
一人を除いて……
「咲けっ初桜っ!!」
「やめろっ戻れっ……ツキヨ」
そうその名を叫ぶ
「……このままじゃ、どっちにしても皆殺される……だったら……戦うしかない」
そうツキヨが返す。
「!?」
振るわれた妖刀ダリアの剣風が容赦なくツキヨを捕らえ、ユーキ同様に壁に向かい飛ばされる。
「ツキヨちゃんっ」
ヨウマが咄嗟にその身体を受け止めるが二人一緒に壁に叩きつけられる。
「くそっ」
ユーキが自分の刀を物色するが……すでにフウマの障りの力で壊れたもの……そうでないものでもそこから
「これを使えっ」
クレイが学園が置いていった妖刀の一つをユーキに投げ渡す。
「……抜刀……
そうユーキがその刀を引き抜く。
「抜刀……無名刀……」
クレイも刀を引き抜く……
なんの取り得もない……刀……
名もない……刀……
それでも……だからこそ……
もちろん……私の
これまでもあいつを
だから……これからも……
そんな私に相応しい能力で……
今の私に相応しい……刀を……
粉々に砕け散った男の刀を見る……
刃を左のてのひらで掴む。
「……その名を叫べっ、紅桜っ!」
そうクレイが刃を握った掌から刃を引き抜く。
紅色に染め上がる刃……
「なっ……なんだ……てめぇのその
驚いたように男がその刀を見ている……
「
全く信じられないというように……
「今はそんなことはどうでもいい……おっさん、二人で目の前の
そうユーキに呼びかける。
「おっさん……俺の事か?……ふざけんな、俺はまだ24だぞ……」
そう男がクレイに返す。
「今はそんなことはどうでもいい……このままじゃ本当に皆殺される」
そうユーキに再び繰り返す。
「しゃーねぇ……さすがに障り落ちしたバケモンは俺一人ではどうしようもねぇーな……」
目の前のばけものを共闘し退治することを承諾する。
無視して逃げ帰ることもできる……それでもその男はそれをしない……
彼もまた戦闘狂なのかもしれない……
「まぁ……おそらくは俺が招いた
そう自分に言い聞かせる。
「1、2の……」
3…のタイミングで二人同時に動く。
左右から挟みこむようにフウマを捕らえる……
振るった刃がユーキの鬼丸国綱とぶつかり合い、その威力に負かされたユーキの身体が後方に弾き飛ばされる。
が……逆に周りこんだクレイの紅桜がフウマを捕らえる。
余り通用していないかのように……今度はフウマの刃がクレイを襲う。
その間に小さな身体が入り込む。
「ツキヨっ!?」
その一撃を初桜で受けるがユーキ同様に後方に吹き飛ばされる。
「……」
この
冷静にツキヨは考える……
吹き飛ばされた先……
学園が用いたもう一本の妖刀……
手を伸ばす……
「やめろっ……ツキヨっ」
お前にはまだ……その
それでも……この中で……それを扱える者が居るのなら……
3人の中でその領域に辿り着ける人物が居るのなら……
「抜刀……まさむねっ」
そうその妖刀の刃の半分を鞘から抜き取る。
黒い瘴気がツキヨを取り巻く。
……瘴気がダリアほどじゃないにしろ……
それでも……
さすがに嫉妬もするだろう……
妖刀はその姿を消していて……
ツキヨは初桜を鞘に収める。
「呪えっ……まさむねっ!」
そう再び鞘から刀を引き抜く。
ツキヨの綺麗な黒い瞳が赤く染まっていく……
再びツキヨがフウマとの距離を縮める。
フウマの妖刀ダリアとまさむねがぶつかり合う。
鍔迫り合い……
あのユーキという男も私も成せなかった事を、
こうも簡単にこの女は成している……
妖刀を手にし……
私が二人の代わりに立つはずべき……
そう誓った場所に……
結果……ツキヨが競り負ける形で後方に飛びのく。
同時にその隙をつくように、ユーキの鬼丸国綱の一撃がフウマを捕らえる。
さすがはその名を名乗る妖刀……クレイの紅桜の時より深いダメージを追っているようだった。
「アァァッ!!」
障り落ちしたフウマが怒り狂うように、手にする妖刀ダリアが今度はユーキの右腕を捕らえる。
「くはぁっ!?」
ユーキの苦痛の声が響き渡り……
鬼丸国綱が粉々に砕け散り……
天井にぶつかる勢いでユーキの右腕が床に転がった。
斬撃は衝撃に変換される……
だが……もし……それが変換できないだけの魔力を含んだ斬撃は……
ユーキは左腕があった場所を押さえながら……
「洒落になんねーだろ……簡単な
苦しそうに汗をにじませながらユーキが言う。
そでの部分を硬く結び傷口を押せつける。
その同時に……
黒く染まった右腕……妖刀ダリアを握った右腕が宙を舞う……
全体重を乗せたツキヨの妖刀まさむねがそれと同時に地面に突き刺さる。
「……全くたいした奴だよ……」
そう……思わず目の前の……才能の
今の私には……
それでも……その役目は私によこせ……
「その名を語り……
そう……自分の首に刀を宛て……その血を啜らせる……
「舞い散れっ……
目の前の
自分の師を手にかけた……
私が憎いだろ……ヨウマ……
そして……その罪から逃れるように……
あんたを裏切るように立ち去った私が……憎いだろ……ツキヨ……
その……呪いを……
その……障りを……
黒い瘴気が晴れて……いつの間にか
それを拾い上げる……
その
私が背負うよ……
この目の前の死に損ないの
あんたたちを
目の前の男を軽く手当てする……。
右腕を失う程の負傷……死してもおかしくはない……
それでも、目の前の男は何とか生き延びている。
放って置けば……
生かすことは……二人にとって裏切りなのだろうか……
そして、それ以上に……私は彼女たちを裏切る……
「なぁ……今日から私をあんたの弟子にしてくれ」
そう……右腕の無い男に乞う。
私たちが恨むべき相手……
それは、同時に私も……母を師を殺し……そして……
その
そう……あんたたちを
私は何でも利用する……
・
・
・
あの日……あの時のように……
3本の妖刀が……
あの日……あの時のように……
守る……はずだったのに……
どうして
わかりきっている……
私を
「……最後まで……偽れよ……
そう自分に言い聞かせる……。
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