宴会、乙女、プレゼント

 全く持ってこのまま学園に通うのが軽くトラウマになりそうな……経験だよな。


 誘拐に……裏生徒会。


 

 「苦い……こんな飲み物が好みなのか、レス?」

 ルンライト=ブレイブが自立し住む家に招かれている。

 俺が所望したあわ立つ黄色の飲み物を飲みながら……ライトが難しい顔をしながら液体を眺めている。


 「……まぁ、本来、誰かに勧めるような飲み物でもないから……無理に飲まない方がいいぞ?」

 俺はライトに頼んで経路は知らないが取り寄せてもらったビールを飲みながら言う。

 未成年だが……そもそもビールというものが存在しないこの世界なら許されるだろうか?


 「……美味いっ、お前の世界にはこんな美味い飲み物がありふれていると言うのかっ」

 アストリアが一気に飲み干すと、勝手におかわりをしている。

 ……あんたは似合いすぎだ。

 そう胸の中で突っ込んでおく。


 「……これは、不思議な水だな」

 俺の隣で日本酒を飲むツキヨ……


 「何よりもこのおでんという食べ物によく合うな」

 珍しい4人組で食卓を囲んでいる。


 「それに、何ゆえ、私とレスの家に貴様らがいる」

 ライトがアストリアとツキヨをにらむように均等に見つめる。


 「学園の闇の動きがここ最近になって目立つようだからな……協力は必要であろう?」

 そうアストリアが笑みを浮かべ言う。


 「……不服ですが、この男の護衛ですよ……引き受けてしまいましたので」

 そうツキヨも言う。


 「聞いていない……護衛が必要ならなぜ、私に真っ先に相談をしてくれないのだ」

 ライトはそう少し拗ねた顔を俺に向ける。


 「小僧のことだ、表向きにそう理由をつけて、そこの眼鏡の小娘を学園の闇から守ってやろうって魂胆なのだろうな」

 そうアストリアが見透かすような目で俺を見る。


 「不服ですが……助言をするなら、トリア先輩の意見に同意します」

 そうツキヨが返す。

 少し納得いかないような表情でライトはため息をつく。



 「……しかしながら、てきに女性が多いのが気がかりだな、どうにも小僧のような優男には性別の壁は大きいようだ」

 そうアストリアが俺を眺め……


 「……確かに今回の事件も、レス……君があのスコールを倒した時のように本気で立ち向かっていれば結果はずいぶんと違っていただろうな」

 そうライトも続く。


 「買いかぶり過ぎだ……俺は、俺ひとりでは何もできないんだ」

 そう返す。



 「レス……」

 両肩に手を置き、ツキヨが俺を強制的に自分の方に向かせる。


 「あんたは私が守る……ライト先輩でもトリア先輩でもない、あんたを護衛するのはこの私だっ」

 そういつにない真剣な表情に一瞬ドキリとするが……


 「……ツキヨ、あんた酔ってるか?」

 顔が赤く……目線が少し空ろだ。


 その瞬間、ツキヨが俺の身体に向かい体を倒してくる。


 「レスぅ……君のコップが空ではないか」

 そうライトも空ろな目で俺のコップに酒を注ぎならが……


 「私はこんなにも君を求めているのに……なぜ、君は私を求めない」

 今度はライトが俺に顔を近づける。


 「何が……不服だ、何が足りない、言ってくれっ!」

 そう少し怒った表情で俺に言う。

 むしろ……完璧過ぎなんだけどな。

 少し、子供じみた我侭なところはあるが……


 「レス……私のモノになれ……そのためなら……」

 そう台詞の途中で、ツキヨ同様に俺に身体を預けてくる。


 「もてる男は大変だな、小僧」

 そうアストリアは一人、酒を楽しむように体内に補給していく。



 ・

 ・

 ・



 「決闘を申し込む」

 翌日、学校の昇降口……

 ツキヨとわかれる直前の所で、


 前日、裏生徒会と名乗った3名のうちの一人に決闘を申し込まれる。


 「……勘弁してくれ」

 そう……俺は素直に許しを請うが……


 ゆっくりと側の白い球体が降りてくる。


 「……受理されました」

 ……だよな。

 

 なんとなく……気になっていたが……


 髪の色は赤茶色……容姿も似ている訳でも無いが、


 知的にかけた眼鏡、どこかツキヨと似た雰囲気を感じていた。



 「決闘は……明日の正午となります」

 そう……球体は二人に告げる。


 「二対ニの一試合……互いにパートナーを一人決めてください」

 そう球体は告げ、元の場所に戻っていく。



 「……ツキヨの姉御と……パートナーは俺ってことでいいのか?」

 そう尋ねてみる。


 「そもそも、決闘を挑まれたのはあんたじゃないのか?……てか、姉御って呼ぶなと言ってるだろ」

 そうツキヨが返す。



 「随分と野蛮な口調に変わったなツキヨ、昔はあんなに乙女だったのに」

 そう蔑むような笑みでツキヨを見る。


 なんとなく因縁のありそうな二人だとは思ったが……


 「お蔭様で……クレイ=ブラッド先輩」

 そう、ツキヨが目の前の女に返す。



 「私を尊敬して……女らしさを捨ててしまったんだ、悪いことしたな」

 そう蔑むようにツキヨを見る。


 「……お陰で、今は……軽蔑しかしていませんが」

 そう冷たい目でクレイを睨み付ける。


 「……まぁ、あんたの成長を決闘で楽しみにしてる」

 そうクレイは最後まで見下したような目で立ち去った。



 この間は、ライトとレイフィスの二人の最強のせいで、

 影が薄くなってしまったが……彼女もまた凶悪な一人なのだろう。


 

 ・

 ・

 ・



 放課後……

 ツキヨと共に、リヴァーさんに頼まれた買い物を街で済ませていた。


 とある、店のひとつでツキヨの動きが止まる。


 「どうし……」

 た?と尋ねようとした口が止まる。


 彼女のイメージとは似つかない可愛らしい縫いぐるみがずらりと並んでいる。

 多分……俺のことなんかすっかり頭の片隅にすら残っていない。

 そんな……ツキヨワールドが広がっているだろう彼女の目線。


 昔は……乙女だった……か。


 今朝の女の言葉を思い出す。



 「何か……買ってくか?」

 そうツキヨに尋ねる。

 買い物するのに渡された金だが……一体くらい買えそうなキャッシュは残っている。

 それに……今後、何かしらバイト的なことでもしようとは思っていたところだ。

 それで、返せばいい。



 「い……いや、私はこんなものに興味は……」

 そう言いつつも……目線が吸い込まれるようにツキヨワールドに引き戻されていく。


 「……い、妹に……プレゼントを……」

 そう……言って、一体のぬいぐるみを手にする。


 「……へぇ、妹いたのか?」

 そう……俺が尋ねると……目線が泳ぎはじめる。


 「い……いや、クロハに……あ、あいつは妹みたいなものだから……」

 嘘はつけないタイプらしい。


 ツキヨが自分のキャッシュで買い物を済ませた途端



 「レスーーーー」

 ぼふっと背中にタックルと同時に何者かがしがみつく。


 「レス……見つけた」

 クロハがいつの間にか俺の身体にまとわりついている。


 「あ……姉御も……いた」

 そうクロハがツキヨを見る。

 ……余りにもタイミングが悪すぎるだろクロハ。



 「……可愛い……どうしたの……それ?」

 ツキヨが手にするぬいぐるみを見て、クロハが尋ねる。


 「ぷ……プレゼントだ」

 そう言ってツキヨはクロハにそれを渡すと、

 何故か肩を落としとぼとぼと立ち去っていった。


 「あ、有難う……姉御」

 そうクロハが訳もわからず御礼を言う。


 ツキヨは振り返らず、返事をするように右手をすこしあげた。


 「レス、さっさと帰るぞ」

 そう俺に軽い八つ当たりをするように言う。


 「あぁ……すぐ行く」

 そうツキヨに返し、ツキヨが視界から消えるのを確認すると……


 「それじゃ……レス……また」

 そう言って、クロハも立ち去ろうとするが……


 「クロハ……ちょっとだけ待ってくれ」

 そう言って……俺は再びぬいぐるみ屋に向きなおす。

 さすが、野郎一人にしないでくれ。




 ・

 ・

 ・



 アクア邸……与えられた自室。

 ツキヨが先にシャワーを浴びて戻ってくる。


 自分の顔くらいある大きさのそいつを両手で持ち上げ、

 顔の前にそいつの背が来るように持ち上げる。


 「おっす、ボク、レスベェ、ボクと契約して友達になってよ」

 やってから、顔から火が出そうなくらい後悔する。



 「……な、なにしてるの、あんた」

 しかも、ふつうに引かれた。


 「い……いや、俺もレインに何か……と思ったんだけど、そんなんいらないって言われてな……まぁ、よかったらもらってくれ」

 そう、ぽんっとツキヨの胸元をめがけ放り投げる。


 「わっ……」

 ちょっと驚いたようにそれを受け取る。



 何やら返答に困っているようだ。

 少しだけ気まずくなる。



 「それじゃ、俺……シャワー浴びてくるから先寝ててくれ」

 そう言って、部屋から退出する。


 ツキヨはいつもの様に、床に座りレスのベットを背にする。

 手にするぬいぐるみを本をひろげるように持ち、対面する。



 「……宜しく、レスベェ、契約成立だ」

 そう言ってぬいぐるみをぎゅっと抱きしめたところで……


 ドアを半開きで見ていた俺と目が合った。


 「な……な……ななな、あんたシャワーに行くって……」

 ……顔真っ赤に……動揺するツキヨ。


 「……いや、きちんとお休みを……言ってなかったと……挨拶は大事だろ」

 そう……気まずい雰囲気の中返す。


 「な……な……ななな……」

 言葉が出ないように、どんどん顔が真っ赤になりうっすら涙目になっている。


 「お休み……レスベェ、俺とも……契約……」

 俺のベットから枕を抜き取るとおもいっきり俺をめがけぶん投げられる。


 「さっさと、シャワー浴びて、死んで来いっ!!」

 咄嗟にドアを閉めて一撃を防ぐが……

 随分とご立腹そうだ……。


 

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