学園編-闇

休日、悪夢、また誘拐

 「あれ……?えっと……ここは?」

 何処か視界の端が真っ白で少しだけ眩しい幻想的な世界。

 見覚えのある一室に俺は居て。


 「似合ってるよ」

 青い髪、同性の俺からしても、王子様という言葉が似合う男。

 いつの間にか、そこにある俺を映す姿見に……

 俺の両肩に手を置き、俺の横から顔を覗かせる。


 なぜか、背筋に寒気が走る。



 「……なっ……え?俺はなんで……ここに?」

 俺はいつの間にか、女性用のドレスを着ている。

 情報の整理が追いつかない。


 「……俺が、レス……お前に似合う服を選んであげていたところだろ?」

 初期の出会いのころでは想像できない甘い声……


 「……見立て通りだ、お前にはその青のドレスがよく似合う」

 ……まて、まて……何が?


 どんと背中を押されると……俺はいつの間にかベッドに横たわっている。


 「……待て、何を」

 本気で人に恐怖をしたのは初めてかもしれない。



 「……いい加減、俺の前では、お前の得意なけっかいは解除してくれ」

 そう……壁ドンならぬ床ドン状態で、スコールの顔が迫る。





 「うわっ!!!!」

 俺は思わずそう叫ぶと……

 がばりとベッドから起き上がる。


 「……夢オチか」

 そう……呟くと。



 「……大丈夫か、レス……随分うなされていた、悪い夢を見たか?」

 声がした方を向く。



 「うわっ!!!!」

 思わずその青い髪のイケメンに向かい失礼な声をあげる。

 そして、自分の服を確認するが……

 いつものリヴァーに用意してもらった服を着ている。



 「どうした?」

 まさか、顔を見て悲鳴をあげられるとは思わなかっただろうスコールは少し戸惑いながら俺を見る。



 「わ……悪い、夢と現実の区別が一瞬できなくなった」

 ……そう返すと、内容はわからないがとスコールは安心しろとやさしく微笑む。

 

 「それよりも、レス……お前にその……あらためて、話が……」

 そう、スコールがずいっと顔を近づける。


 「わっ!!!……わ、悪い……ちょっと、俺用事がっ!!!」

 夢のスコールの顔がフラッシュバックし……俺はそう叫ぶと、

 着替えを済まし、外に逃げ出していた。


 祝日……学校は休みだ。


 久々に予定が無い……

 たまには、一人街をさまよって見るのも悪くないかもしれない。


  

 というか、まだ……そのくらいの場所しかしらないんだけど。

 俺はその街をあらためてぶらぶらとしていると……


 ドンと背中に何かがぶつかる。



 「レス……見つけた」

 黒髪の少女……クロハが俺を見上げるように背中にしがみついていた。


 「あぁ、クロハか……一人か?」

 なんとなくそう尋ねると、

 クロハの右手がすっと誰かを指す。


 「姉御……と一緒」

 そう指す先を見る。


 「……姉御?」

 俺はそう疑問の声をあげる。


 「その呼び方はやめろと、言っているだろ」

 額に手をあてながら、対処に困ったという顔をしている。

 同じく黒髪のポニーテールの知的な眼鏡娘。


 「ツキヨ……?」

 俺がそう呼ぶが……


 「貴様は……先輩くらいつけろっ」

 そう額にあてていた手の指先を俺につきつける。



 「……悪い、気をつける」

 俺はそう返すが……


 「……まぁ、いい……あの生徒会長にすらそんな感じみたいだからな」

 そう……ツキヨは若干諦めたように返す。


 「……助かる」

 そう、普通に感謝する。


 「こうして、あんたと話すのは初めてだけど……なんとなくだけど、わかるよ」

 そうツキヨは眼鏡の奥の瞳で俺をじっと見て……


 「……年齢も外見も……それそうなのに、どっかおっさんというか……変な落ち着きというか……どこか頼りたくなるような、居てくれると安心できるような……そんな感じになる、あんた、何者だ?」

 そう……少しツキヨは俺を怪しむように見る。



 「身を守る事しか能のない、落ちこぼれの臆病者だよ」

 俺はそう返すと、ツキヨもそれほど突っ込む気もないように、ため息一つつくと目線を反らした。


 「そんな……事ない……レス……は優秀……勇敢」

 そうクロハが俺に言う。


 「……相変わらずの人気ぶりだな、小僧」

 休日の休み……こうして見知った者に出会うのも必然だろうか。


 「トリア先輩」

 そうツキヨが現れたアストリアの名を呼ぶ。


 「スノウ家の命で、つまらん買出しをさせられていたが、思わぬ収穫だな」

 そう、アストリアは俺を見る。



 「……学園が少しずつ、動いてきているようだ、気をつけろ小僧」

 そうアストリアが言う。

 マネードル家との決闘を思い返す。


 「あいつら……A組は何かペナルティがあるのか?」

 そうアストリアに問う。



 「……ペナルティは小僧、お前が放棄したのだろう」

 そうアストリアは俺に返し、

 「……目に見えるペナルティなどないさ……」

 そうアストリアは笑い……

 「あるとすれば、マネードル家がお前に屈したという結果だろう」

 そう……薄紫色の瞳が俺を捉える。


 「……学園は彼女たちを利用して何をしようとしたんだ?」

 そう俺は再度問う。


 「……邪魔者を学園から排除したいのさ、小僧、貴様の転入を認めて奴らはいまさらながら後悔しているだろうな、話は貴様の担任からなんとなしには聞いているのだろう?」

 そうアストリアが俺に返す。


 ……担任……フレアを学園から追放……?


 「……別に学園は小僧、貴様の担任を追い出したい訳ではない……自分らに都合の悪い者を学園から消したいだけだ」

 そうアストリアは返す。


 「……自分らの都合のいいように生徒を育成し、うまく洗脳した生徒を量産したいのさ」

 そうアストリアは言う。


 「……なんの意味が?」

 ……能力者を利用して……


 「さぁな……世界でも侵略したいのではないか?自分らの洗脳した最強の生徒で身を固め、政権でも奪いたいのだろうが……それを止めようとして学園にもぐりこんだ者……その協力者は、どうにか排除したいのだろうな」

 

 「……なんのために、そんな回りくどいこと……」

 学園の権限でどうにでもなりそうだが……


 「……どんな事にも理由は必要だ、それがどんな理不尽であってもな」

 そうアストリアは返し……


 「……どこで、関係者が聞いているかわからない、話はここまでだ」

 そうアストリアは返すと、俺の横を通り過ぎる。



 「……あまり、一人で出歩くな、前回の誘拐相手が安全ライトであっただけだ……」

 そうぼそりとアストリアは俺に告げ、スノウ家に頼まれた買い物に戻った。


 いや……戦闘においては、彼女以上の危険ライトな相手を知らない。


 「……今更な話だな……」

 そうツキヨはくいっと眼鏡をあげる。


 「……学園には思っている以上に学園の味方をするものはいないさ」

 確かに……こうして周りを見ても……その闇の部分の正体はわからないが、

 洗脳されているような連中は今のところ出会っていない気がする。


 「それじゃ、わたしたちも失礼する」


 「レス……また明日」

 

 「あぁ」


 そう言って、ツキヨとクロハと別れる。




 急に天気が悪くなったかと思った。

 しまった……と思った時にはすでに遅かった。


 忠告された矢先だ。


 迂闊に二人と別れるべきではなかったのかもしれない。



 「ひひっひひひ」

 奇妙な女の笑い声。


 周囲が闇に取り込まれる。


 「……ミスト=ダーク?」

 俺の声が闇の中に響き……


 





 離れた場所……


 ツキヨが俺の居た場所を振り返る。



 「……姉御……どうしたの?」

 そうクロハがツキヨに尋ねる。


 「クロハ、あんたは誰か助っ人を呼んで来い……」

 そう……先ほど、レスの居た場所を眺め……


 「なに……どういう意味?」

 そうクロハが尋ねる……


 「……あんたらの王子様、救いたいなら黙って言うことを聞きな」

 そう言って、ツキヨは一人何処かめがけ走り出した。




 

 ・

 

 ・


 ・




 目を覚ます……


 学園の椅子に縛り付けられている。



 真っ暗だ。


 今は何時だろうか。



 3人……なれた目でうっすらと映る人の姿……


 男が二人……女が一人といったところだろう。



 顔はよく見えないが……うっすらと見える学生服でそう把握する。



 「……ここは?」

 できるだけ、冷静に……そう尋ねる。




 「評判は聞いているよ転入生……交流戦で生徒会を打ち破り、決闘ではあのナイツを打ち破った……」

 嫌味含みのような拍手をしながら、3人のうちの1人が俺に言う。


 「そんな事を言うために……こんな真似を?」

 俺はそうその男に問う。


 「……俺たちなりのあんたの歓迎の仕方さ」

 そう相変わらずの嫌味まじりに言う。


 「……どんな歓迎をしたいのか知らないが、丁重に扱ってくれよ」

 そう返す。


 「丁重か手荒になるかは、あんたの返答しだいだ」

 そう目の前の男は言う。


 「……転入生、おれたちに協力しろ……」

 そう告げられる。


 ……この状況で断ればどうなるのか、


 「いやだと言ったら……?」

 その問いに、明らかに教室の雰囲気が変わり……


 同時にどこかの教室の一室だろう、教室のドアが何者かに蹴破られる音。


 「……わたしがあんたを助けるさ」

 その俺の問いに変わりに答える。

 黒髪のポニーテールの知的な眼鏡の女性が入ってくる。


 「助っ人が来るのを待っていたが……」

 そんな時間も無いか……と少しだるそうに教室の中に入ってくる。


 「……なぜ、ここが……ミスト、お前の力でこの場所に人が認識できなくなっていたんじゃないのか」

 そう隣の女に言う。


 「ひひひっ……この女に能力の開放を目撃されていた……能力の開放の瞬間を見られた奴には効果が無い」

 そうミストと呼ばれた女が言う。


 「だけど……この女は一人で中に来た……仲間にはこの場所はわからない」

 そうミストが言い、殺気をツキヨに向ける。


 「なるほど……そいつを消せばいい、そういう訳か」

 そう物騒なことを言う。


 「……悪いな、助けに入るのが少し遅くなった」

 そうツキヨは俺に向かって言う。


 「いや……素直に助かった」

 俺はそうツキヨに返す。


 「舐めるなよ……あんた一人でどうにかなるとでも?」

 そう男はツキヨにはき捨てる。


 「ひひひっ……今までのようなバトルびじゃない……」

 ミストがそうツキヨにはき捨てる。


 「あぁ……だから、私も手加減あそびなしで本気でお前らを斬っていいんだよな?」

 暗闇できらりと眼鏡が光る。


 3名の殺気を受けつつも、たった1人の気迫はその殺気と均衡している。

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