交流戦

 「……しかし、何で俺なんかをパートナーに……」

 アクア家に帰宅すると、俺は部屋を訪れて来た、レインとリヴァーに尋ねる。

 3名とも……俺なんかより強くて相性の良いパートナーは居るだろう。


 「……なぜはぐれ者なんて呼ばれているのか、初めから誰かと足並みを揃えられる人たちなら、あのクラスに振り分けられているはずはないのです」

 リヴァーが言う。


 「……不器用な乱暴者、言葉で意思を伝えるのが苦手な無鉄砲の正義の少女、兄と比較され自分を受け入れられないお嬢様……あのクラスの人間は皆……何かを抱え互いを寄せ付けない、そんな存在」

 ……思い出す。

 確かに……納得してしまう何かがあるかもしれない。



 「……レス様、貴方ならもしかしたらあのクラスをまとめあげる、そんな事も成してしまうのかもしれませんね」

 そうリヴァーが告げる。


 その後、他愛の無い会話を少し続け……2人は部屋を退室する。

 ベッドに倒れこみ考え事をする。



 「……転入して一週間も立たない男にクラスの命運を託すとか……正気かよ」

 そう愚痴をこぼす。

 俺のこの力で……護るだけのこの力で……

 あいつらを支えてやれるのだろうか……


 「A組……ハイト=クロックタイムとか言ったか……」

 急に現れ喧嘩を売られた男。

 後に名前を聞いた。

 これまで、目立った行動は無かったようだが……

 彼を知る者間では、この学園最強に成りうるとさえ言われているようだ。


 教室の光景を思い出す。

 一瞬意識が飛ぶような感覚……

 気がつくと突きつけられていたナイフ……


 一つの仮説……もしそれが正しければ……

 そんな能力が許されると言うのなら……

 奴が学園最強と呼ばれる日が来るのも実際に起こりうるかもしれない。


 そんな能力にどう立ち向かう?

 防御特化の能力……どう立ち向かえばいい……


 ……ダブルス戦……俺は俺の出来る事を考えろ……

 お前が目立つ必要は無い……

 俺はサポートし、あいつらを勝たせればいい……


 俺にそれができるのだろうか……




 ・・・



 交流戦初日……

 この学園にこんな場所があったのかと……


 大きなドームに状の室内。

 ドーナツ状の廊下を抜けると再び室外に出る。


 そして広がる大きなリング。


 バトル漫画やアニメで見る分にはテンションが上がるが、実際に自分があがる事になると思うと少しだけ気が重い。

 簡単な開催式のようなものが行われ、2学年、3学年と思われる生徒がその様子を見に2階、3階の観戦席に一人、また一人と席に座っていく。


 開催の挨拶が終わると、1学年も試合の無いものは割り当てられた席に座るため観戦席へと移る、自分もそれに習おうとするが……



 「おい、レス……何処行く」

 そうヴァニに止められる。


 「記念すべきA組との第一試合は……俺たちだぜ!」

 そうヴァニはリングに留まり、俺もそこに残るよう指示する。

 ずらずらとリングを降りる生徒の中……A組も二人が残る。


 「ハイト=クロックタイム……」

 ぼそりとその名を呟く。



 「交流戦……僕がこの学園のトップに立つための最初の舞台だ、壮大に引き立て役になってくれよ?」

 ハイトが蔑むような目で薄笑いを浮かべながら俺とヴァニに向かい言う。


 「なぁ……ヴァニ、何か対策はあるのか?」

 そう俺がヴァニに尋ねる。

 ……あの能力、あれを目の前にして引かず俺とA組ハイトとの対戦を自ら望んだ。


 「あぁ……対策?殴ってブッ飛ばす、そんだけだろ……」

 そうヴァニが返す。

 

 「……だよな」

 期待はしていなかった……が。

 多分……攻守というところでは、間違いなくこちらに分がある。

 対処しなくてはならないのは……ハイトの能力……



 「……言っておく、僕の支配の能力……対策ができるなんて思うな?」

 そうハイトが俺の思考を読むかのように言う。

 

 向こうのパートナーを見てみる……

 見た目での判断するのは申し訳無いが……なぜあの男がパートナーなのか。

 さほど、高い魔力を感じられない。

 少なくとも彼以上の魔力の脅威を感じたものは他にいた。


 そんな中彼をパートナーに選ぶ。

 考える……導き出す……


 例え、奴の能力が一番最悪の推測が当たっていたとすれば……

 その出すぎた能力は、パートナーを選べないと言うのなら……

 綻びがそこにあると言うのなら……

 付け入る隙は……きっとそこにあるのだろう。



 「それでは、さっそく第一回戦、さっそくはじめちゃうよーー」

 うさ耳をつけた女子生徒……マイクを右手にリングの中央で叫ぶ。


 「司会はわたくし、2学年A組……ラビ=ホストがつとめさせて頂きます」

 ウサ耳の女子生徒が元気よく進行する。


 「ウサ耳先輩、ちょっとマイク貸してよ」

 そうハイトが司会のラビと名乗った女生徒に告げる。


 「だめ、だめーー、これはあたしの仕事道具、貸してあげられないよーーー」

 そうラビが言う。


 「そんじゃ、ちゃっちゃかはじめ………」

 意識の飛ぶような感じ……ここに居る全員がその感覚を受けたであろう……


 「……るよ?……あれ?」

 マイクを通していたはずの声……目の前の男に奪いとられている。



 「あ、あーーー、1学年A組ハイト=クロックタイムです……明日にはこの学園のトップに登りつめます……今、僕の動きが見えた人、この中に居ますか?居ないですよね?……ねぇ、トップ3と呼ばれる先輩方と言えど……誰にも僕の力にはついてこれない……すでにこの学園は僕の支配下だ」

 壮大に学園全体のヘイトを買う。

 それだけの自信……己の能力を自分自身で評価しているのだろう。


 ポンとマイクをラビに投げて返す。


 「にゃあっ!?」

 慌ててマイクを受け取る。

 兎なのにその鳴き声は駄目だろと……謎に心の中で突っ込む。


 「さぁ……僕の力を理解できぬまま……この僕にひれ伏し、この僕がこの学園を支配するための最初の礎となれ」

 そうハイトが俺とヴァニへ言う。



 「それじゃ、改め、第1試合はじめーーーーっ!」

 開始の合図と共に、ヴァニは魔力全快で右腕に手甲をまとう。


 「おいっ……てめぇはすみで僕の魔力を増幅していろ」

 そうハイトは自分のパートナーに告げる。


 「……やっぱり、サポート能力か、魔力の増幅させる能力……」

 あいつが一方的動くような能力で……やはり自分以外の仲間もそれは不可能だということだ。


 とりあえず防御結界を全体的に俺とヴァニの周囲に展開する。


 意識が飛ぶような感覚……


 「……ぐぁっ」

 勢いよく飛びかかったはずのヴァニがハイトの前に立ち膝をついている。

 いつの間にか手にしている棒……パートナーの魔力で攻撃力を増幅されているようだ。


 誰も、その棒でヴァニが攻撃される光景を見ていないが……

 明らかに一撃を喰らった様子でヴァニが悔しそうにハイトを見上げている。

 俺の結界である程度ダメージは防げているが、サポートで攻撃力が上がっていて、

 どんな攻撃か読めなかったため、自分とヴァニに雑に防御結界をはっただけだ。

 

 ……再び意識が飛ぶような感覚……俺は慌てて魔力をまとうと右手を振り上げる。

 そこで……意識が途切れ……


 再び意識が戻る……振り上げた右手とは逆……左の頬に衝撃が走る。

 衝撃で2、3歩後ろに下がり、がくりとよろめきヴァニ同様に膝をつく……



 「……時間凍結能力、5秒から10秒というところか……」

 俺がそうハイトへ尋ねる。


 「……だが、時間凍結その能力化の中で動けるのは己自信……時間凍結中でも魔力能力だけは生きている……だからサポートの恩恵も受けられる」

 だから、俺の防御能力も少なくとも機能している……

 だが、止まった時の中……あいつは俺の防御の薄い場所を見つけ攻撃を入れてくる。

 

 時間凍結……それ以外に……攻守のステータスは恐らく並以下……

 それを補うため、ステータスサポートのあるあのパートナーを選んでいるのだろう。


 

 ・・・



 観戦席……金髪の女性……青い髪の男……騎士の格好に身を包む茶髪の男……

 学園のトップ3と呼ばれる者たち……

 

 ルンライト=ブレイブ……通称ライト

 生徒会長も務める、レインの兄……スコール=アクア

 白銀の鎧を身にまとうナイツ=マッドガイア


 そして、そこに並ぶように……アストリア=フォースがその様子を眺めている。


 「……時を止める能力か……トリア、さすがにお前の推しのあの男ではどうにもならないのではないか?」

 そうスコールが言う。

 一瞬、一瞬でハイトという男が姿をけし、見下ろすリング上でレスとヴァニが弄ばれるようにその手に持つ棒でいたぶられる様子が見える。

 だが、レスの防御魔法も有り、今も2人は倒れる事無く戦闘が継続している。


 「昨日……あの1学年のガキに言った通りだ」

 トリアがそう返す。


 「……どういう意味だ?」

 そうスコールが返す。


 「……あいつはその持った能力を使って勝つだけを考えている」

 そう当然の事を当然に言う。


 「……レス、あいつは自分の能力をどう使えば……その能力に対抗できるのかを考えられる人間だと……そう私は奴をかっている」

 そうトリアがスコールに告げる。


 「会って間もない奴に……少し買い被りすぎていると思うが……」

 そうスコールが返す。


 「黙って見ていろ、そろそろ面白いものが見られそうだぞ」

 そうトリアがにやりと笑う。



 つまらなそうに目を閉じていたライトは目を開き、ワイン色の瞳でじっとレスの姿を追った。





 ・・・




 「くそぉーーーーっ」

 諦めずに魔力全快でハイトに殴りかかるヴァニだが……その直前にまた意識が飛ぶような感覚と共に、意識を取り戻すと同時に一撃を喰らう。


 「すまない……レス、お前が防いでくれてなかったら……すでに俺は場外負けか、立ち上がる体力も残ってねぇかもしれない」

 そう隣あったヴァニが俺に言う。


 「5秒から10秒……動きを止める……」

 俺はぶつぶつとそう言葉に出し、現状を整理する。


 「恐らく、次の能力の発動までに空く時間……それも5秒くらいの感覚……」

 ……考える。


 「狙えるのは……一瞬……その隙をどうやってつく……」

 考えろ……

 奴がこの場に持ち込んだ綻び……


 奴のパートナーを見る。

 

 「サポートは受けられる……防御魔法は……残っている……」

 ぶつぶつと言葉にする。


 「……俺……にできること……俺だから……できること……」

 そうぶつぶつと繰り返す。



 「……チャンスは一度だ」

 そうヴァニに告げる。


 「なに……何か思いついたのか?俺はどうしたらいいっ!!」

 ボロボロになりながらも、そうヴァニが俺に尋ねる。

 お互いさまだろうが……


 「お前は……今まで通り、いや……今まで以上の一撃であいつをブッ飛ばすつもりで突っ込め」

 その言葉にさすがに?を浮かべるヴァニ。


 「……信じろ、あいつに突っ込んだ10秒後、俺がお前を今回の交流戦初日の記念すべき英雄にしてやるっ」

 そうヴァニへと注げる。



 「なに……ぶつくさ言っている……さすがに飽きた、そろそろ終わりにするぞ」

 ハイトもこちらに追い討ちをかけるべくパートナーに全魔力を自分に送らせる。



 「よくわかんねーーけどっ、てめぇを信じるぜ相棒ッ!!」

 今までにない魔力を……渾身の魔力をこの一撃に託す。

 

 会場の空気が変わる……

 それでも……やはり……

 ヴァニ以外の者……ハイトもその勝利を疑わない。


 意識が飛ぶ感覚……

 時間凍結……

 10秒間……世界はハイトという男の者に落ちる。



 ・・・

 

 時が止まった灰色の世界……

 僕の世界だ……僕はこの世界を支配している……誰も僕に抗うことなどできない…


 10秒間……僕は文字通り世界を支配する。

 今までよりも本気……どうした、転入生……最後は防御魔法が雑だな……

 渾身の一撃を込め突進するヴァニ……目の前でその拳を突き出し停止している。

 今までよりも、防御魔法がかかっていないがら空きの身体に最後の一撃を……

 入れれば終わる……そして、この学園を支配する僕の物語が始まるのだ……



 「あ……れ……?」

 停止する世界……そんな彼だけの世界で……ハイトが間抜けな声をあげた。


 棒を持った逆の手を目の前にかざす……

 透明な壁が進路を塞いでいる。

 

 目の前のヴァニと自分の間を遮断するように……一枚の透明な壁……

 それでもその頑丈な結界は……ハイトに10秒で破壊することは不可能……右に身体をずらそうとするが……


 「えっ……?」

 右にも透明な頑丈な結界……


 「まさか……」

 左にも頑丈な結界がはられている……


 ヤバイ……数秒後には僕の支配能力は解けてしまう……

 目の前に迫っているヴァニの拳……

 ひとまず逃げなくては……本能がそう告げ、後退する……


 「えっ……」

 どんと見えない壁に背中がくっついた。

 

 「……そんな」

 灰色の世界が色を取り戻していく……



 ・・・



 意識を取り戻す瞬間……即座に結界を解除する。

 

 ヴァニの全力の拳……俺の防御結界にさえぎられる事無く、

 その一撃がハイトの右の頬を捉えた。



 リングの外……観戦席の城壁に突き刺さるようにそのハイトの身体は吹き飛んでいった。



 「……こ、降参します」

 ハイトの場外を見た、彼のパートナーは両手をあげそう宣言する。




 「しゃーーーーーーーーっ!!!」

 右手を天にかざし、ヴァニが勝利の雄叫びを上げる。



 「……勝者っ、ヴァーニング&レス選手!!」

 そうラビが自分の仕事を思い出したかのように叫ぶ。



 ワーーーーーという歓声がひろがる。

 何が起きたのかはほとんどの者が理解していない。


 ほとんどの生徒からは、よくわからないが……あのヴァニの渾身の一撃がハイトに届いた。

 そう映っている。


 会場がヴァニを称える歓声で包まれていた。



 ・・・




 「………」

 トップ3と言えど、ハイトの能力の中……その様子を見ることなど不可能。

 正直……スコールも少し驚ろくようにその結果を見下ろしている。


 「……トリア」

 普段見せない……ライトの少し驚いた表情。


 「……あの男、レスと言ったな?」

 そう意味深にレスの名をトリアに確認した。



 「あぁ……表に立たぬ英雄だ、最高に魅力的だろ?」

 そうトリアがライトに得意げに言った。

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