転生世界で能力を創造しろと言われたので防御特化にしてみた。そんな俺にできることは、その防御結界能力で仲間を英雄にすることしかなかったけど、そんな彼女たちには俺はそんな彼女たちの英雄のようだ。

Mです。

序章-学園編

異世界転生

 少なくてもこれは……俺が自分で選んだ人生の筈だ。

 誰にも文句を言えるはずも無かった……


 いわゆるオタク趣味……運動能力も知力も人並みかそれ以下……

 俺の青春時代と言えば……オタクなど悪の象徴だ。

 今がどうなのか……詳しくしらないが、


 オタクなんてタグをつけた人種は、クラスメイト、自称正当な人類の者からすれば、イジメの格好の餌食だ。

 そんな自分の趣味を隠すように生きて、教室の隅で隠れるように生きて……

 逃げるように生きてきた。


 やがて……就職した。

 適当に働いて、いやいやでも生活費を稼ぎ……ひっそり自分の趣味を楽しめればいい……それくらいに思っていた。


 そして、今日もそんな未来を楽観視していた自分が会社の外に出る。

 無駄に天を仰ぎ……空を見る。


 今年で何年目になるだろうか……。

 学生時代に染み付いた人間不信など消える訳がない。

 染み付いた逃げ癖が解消される訳がない。


 やっと終えた……地獄。

 解放されても……脳裏を支配するのは、また明日始まる地獄が思い浮かぶ。


 最初は自分の無能もそれほど気にならなかった。

 でも……自分の後ろから現れた後輩……

 そんな奴らにまで後ろからその背中を蹴りつけられているような……

 そんな風に感じる日々が続くようになり……


 あぁ……ここから逃げ出したい……

 そんな……毎日。


 

 あれ……?

 こんな場所に店なんかあったか?


 帰りなれた道……の筈だったが……


 「道を間違えたか……?」

 見知らぬ通りに出て、思わずそう独り言を漏らす。



 「転職屋……?」

 看板を見てそう呟く。


 ハローワークとは、別モノなのだろうか?

 そう思いながらも……まだ営業中と思われる胡散臭い店舗に目がいく。


 再度……店の看板を眺めた。


 「ん……転生……屋?」

 改めて見ると確かに看板にはそう書かれている。

 ……余計に胡散臭いその店舗……

 だが……今の精神状態の俺にはその文言は逆に興味を引いた。



 「興味がありますか?」

 背筋が凍りつく。

 店の中をドアのガラス越しに覗いていると不意に後ろから声をかけられた。


 「あ……えっと……ここって何の店なのかなって?」

 そう思わず話しかけられた女性に答える。



 「……どうぞ、中に丁度、転生者を求める者と転生者になりたいと思う者がマッチングしたんです」

 女性はそう言って、俺を店の中に誘導する。

 小さな事務所……


 「さて、それではさっそくあなたが新しい世界での能力値と特殊能力の設定に入りましょう」

 女性が唐突に話を勧める。


 「いや……何がなんだか、わからないんだけど……ここは何処であなたは誰で、今からなんの設定をするって?」

 一人パニックの俺はそう女に質問をするが……


 「看板……見たでしょ?ここは……転生したい人と転生者を求める世界を結ぶ場所で、ここはそこを結ぶための境界線のような場所で、私はそこの管理を任されている、あなたがたの世界で言うなら神様?みたいな存在になるんでしょうか?」

 女性は平然とそう言って……


 「それで、貴方の助けを求める人のいる世界であなたはその世界で生きるための能力を備わるわけなんだけど、あなたがこれから行く世界では魔力的なものが存在していてね、今からその魔力の構成をしようってことなの」

 ……このへんから、あぁ……俺は覚えていないだけで家に辿り着いたのだと思った。

 それで、疲れて……すぐに寝てしまった。

 そして、夢を見ているのだと。


 「で、魔力の構成だけど、主に100ある数値をどう振り分けるか……あなたは特別でチート能力が備わるなんて甘い事考えないようにね」

 女性は意地悪そうに笑う。


 「攻守、サポート、回復……それらに魔力の数値を振り分けて、その振り分けた魔力をどのように特殊能力と発揮するのか……イメージしてくれる?それが……そのまま新しい世界での貴方の能力になる」

 そう女性に告げられる。


 「あと……年齢は転生者を召喚した者の年齢と同じ年齢で転生するから……そのあたりは了承お願いね」

 そう付け足す。


 ……逃げ根性……それが俺。

 この世界でいつも逃げ続けた。

 誰よりも護りを固め、傷つかないように生きてきた。

 そのはずなのに……


 新しい世界……夢の世界でくらいは傷つかないで生きたい。

 鉄壁の防御が欲しい。

 魔力は守備に全振りしよう……

 その魔力の具現化の仕方……そうだな……


 そのイメージが固まると世界が真っ白な輝きに包まれて……


 夢の終わりを予感する。

 結構楽しい夢だったのに……もう少しどんな夢か続きが見たかったな。


 そんな事を考えながら、引き戻された意識で目を開く。



 「…………ん?あぁ?」

 頭の中に?が広がる。


 見知らぬ部屋……

 ファンタジーちっくな部屋……しかも女性の部屋っぽい感じの場所。


 水色の髪の女性が、目をぱちくりしながら……俺を覗き込むように見ている。


 「ん……と……えと……?」

 完全に頭がパニックだ。 



 「……あなたが、異世界の英雄?」

 完全にパニックの俺に異国の女性が告げる。


 「……夢の続きか?」

 俺はそう呟くと……右手で自分の頬をつねってみる。


 「……何してるの?」

 そう言って、彼女は右手で俺の逆の頬をつねってくる。


 「……いひゃい……」

 痛い……。

 どうなっている……


 俺の夢では……ない?

 となると……


 「……い、いひゃぁい」

 ……。

 となれば、この水色の髪の女の夢……ではないか?

 そんな仮説を立てて女性の頬をつねってみたが……


 「にゃ……んひゃほ?」

 これは……いったい誰の見ている夢なのか……

 少し涙目でなにすると問う水色の髪の女性。


 とりあえず……この不気味な夢ともう少し付き合ってみようと思う。



 「えっと……ここは何処だ?あんたは……?」

 取り敢えず……浮かんだ疑問を言葉にする。


 「私はレイン……あなたをこの世界に引き込んだ張本人よ」

 腰に手を当て偉そうに抜かす。


 「私がこの世界、このアクア家で兄様に並び恥じぬ英雄となる為、力を貸しなさいっ」

 劣等感……そういった感情には敏感だ。

 強がる彼女の表情とは別にその瞳は何処か不安そうで……


 「……力を貸せって言われてもなぁ……」

 つい先ほど、はいどうぞと言わんばかりに渡された魔力とやら……

 全く持って、まだその力を理解していない。

 それに、俺はその魔力の全てを防御の数値に割り当てた。


 

 レインと名乗った女性に連れられ、部屋の外に出る。

 割と立派な屋敷……だろうか?

 メイドのような女性が数人いて、忙しそうに廊下の掃除などをしている。


 そんな様子を珍しそうに眺めていると、

 レインに誘導され、中庭のような場所に連れて来られた。



 「さぁ……あなたの能力を見せて頂戴」

 人型の案山子……が立っている。


 「リヴァー、測定お願いね」

 そう言われお辞儀をする別の女性。

 メイド服に身を包んでいる。


 「リヴァーはサーチ能力に優れているの、彼女にあなたが私に相応しい人間かどうかを見極めてもらうわ」

 そう告げる。


 「いや……見極めるも何も……」

 本当に俺に能力が備わっていた……としても、その能力は……


 「……俺にこの案山子をどうにかする能力はないぞ?」

 その台詞に……レインは目を点にして……


 「ど……どういうことっ、私はリスクを犯してまで貴方をっ」

 そのリスクの意味するところは知らないが……


 「……お嬢様、たぶん、彼の言っていることは本当です……彼から攻撃的な魔力の根源を感じることができません」

 そうリヴァーと呼ばれた女性が変わりに答える。



 「……なっ、えっ……そんなぁ」

 明らかに悲しそうな表情のお嬢様と呼ばれた女性に申し訳なく思いながらも……



 「レイン……ここに居たのか」

 不意に後ろから声がした。


 ぞくりと……殺気のような……鋭い感覚。


 「あ……あ…に様……」

 少し怯えるような声でレインが言う。


 兄……?随分と……冷めた目。

 まるで……殺人鬼だ。

 そんな感想を持ちながらも少し離れた場所でその会話を眺める。


 「……家宝である、召喚石を貴様が持ち出したと聞いた、あれはお前がイタズラ半分で遊ぶ玩具ではない、さっさと返すんだ」

 そう冷たい目がレインを突き刺すように見つめる。


 「……兄様……それが……」

 ……そんな大事な物を無断で使って……俺なんかを呼び出しちまったというのか?

 

 「……ごめんなさい」

 深く頭を下げるレイン……

 怒られてもしかたないよな……

 ……は?


 興味無さそうに目を反らそうとした顔を再び二人に向ける。


 振り上げた拳が、レインの頬を捉え後方に弾き飛ぶ。


 「お辞めくださいっ!スコール様っ!」

 リヴァーがそう現れた男に告げるが……


 「……出来損ないの恥晒しの兄妹の教育だ、邪魔をするな」

 そう男が告げ……レインに近づくと右手に青白い光が灯る。

 あれが魔力……その魔力で実の妹に手をあげようって言うのか?


 「……!?」

 容赦なく振り下ろそうとした手が途中で止まる。


 「……誰だ?」

 振り下ろした手を止めたスコールと呼ばれた男は恐らく俺に向けて言っている。


 初めてのぶっつけ本番ではあったが……多分上手くいったのだろう。

 彼女の前に防御結界をはってその攻撃を防ごうとした。



 「何のつもりだ……?」

 ぞくりとするような鋭い目は俺に向かっていた。


 夢だか異世界だか……よくわからないが……馬鹿な俺でも知っている……

 それは、どこの世界だろうと変わらない。


 「……男の力は、女に力を振るうためにあるんじゃない」

 そう呟くように言う。


 「……兄としてその力も、妹を守るべき力だ……そんな使い方するんじゃない」

 そう続けて呟く。


 「……」

 目の前の男は無言で……気がつくと自分の目の前に立っていた。


 「……あぶねっ」

 咄嗟に魔力を右腕に集中させると、繰り出された回し蹴りをその腕で防ぐ。


 「!?」

 その一撃を防がれたのが予想外なのか、スコールという男とリヴァーとレインが信じられないというように見ている。


 さらにスコールは攻撃の手を緩めず、魔力が篭った攻撃をしかけてくるが……それらを魔力結界を両手にまとわせるように張り巡らせ、その攻撃を防ぐ。

 反撃の意思があるかは、微妙だが……防戦に徹する。

 というか……防ぐしかできないというのが現実だ。


 「何者だ……貴様っ」

 未だ、自分の攻撃が防がれている事が信じられないというように男が言う。

 


 名前か……空を見上げる。

 その青を象徴するかのように……その存在を主張する、彼、彼女たち。


 俺といえば……何色にもなれない無色。

 色無き存在。


 「……レス」

 俺は……この世界でそう名乗る事にした。

 


 

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