それぞれ

【優李】第1話:合格発表

 俺は奏に告白をして、ついに恋人同士になった。

 しかし、俺たちは大学受験を間近に控えた受験生だ。

 なので、恋人っぽい行為は大学合格してからにしようと約束をした。


 俺たちは毎日一緒にいたが、本当に勉強以外何もしていなかった。

 その甲斐もあって、奏の成績は夏休み前はC評価くらいだったのに、直近の模擬試験ではA評価になっていた。ちなみに俺と田貫さんは、以前からA評価で、今回も成績を落とすことはなかった。そして悟はというと、直近の成績ではB評価であと一歩というところだ。だけど、あいつには田貫さんがいるから、サボりさえしなければ大丈夫だろう。


 そして俺たちは受験まで遊ぶことなく、必死になって勉強をし続けた。




 -




「うぅ〜緊張するよぉ。これから大学受験の本番とかツライよぉ……」


「どうした奏! ここで折れてる場合じゃないぞ! 一緒の大学に行くんだろ? 花のキャンパスライフを一緒に過ごすんだろ?」


「はっ! そうだった! しっかりしないとゆーくんと一緒に花のキャンパスライフが送れないじゃないか! 私が悪かったよ、ゆーくん。もう弱音なんて吐かないよ!」


「そうだ! よし、気合い入れるぞ!」


「おぉ〜〜!」



 受験当日に、こんな馬鹿なやり取りをしているのは、2人ともあまりにも緊張していたため、変なテンションになってしまったからだ。



「緊張はやっぱりするけど、隣にゆーくんがいてくれて良かったよ。これ、一人だったらプレッシャーに押し潰されてるよ、私」


「それはこっちのセリフだよ。奏がいてくれて良かった。今日は頑張ろうな」



 俺は奏の手を握り、そのまま手を繋いだまま大学の試験会場へ向かった。




 -




 試験会場の入り口まで行くと、悟と田貫さんが2人で俺たちを待っていた。



「おっす! 昨日はちゃんと寝れたか?」


「なんとか寝れたけど、やり残しがないか気になって仕方なくてさ、梢に電話したら『今更悪足掻きして寝不足になったら危険だよ。だからもう寝てください!』って怒られちゃったんだよ」


「それは田貫さんに感謝しないとな」


「あぁ、本当だよ」



 そうして俺たち4人は円陣を組んで、「みんなで合格して楽しいキャンパスライフを過ごそうな!」「おぉ!」なんて青春っぽいことをしてそれぞれの試験会場へ向かった。




 -




「終わった……」



 試験が終わり校門の前で合流するや否や、悟が大きな溜息と共に小さな声で絶望を溢していた。



「え? 悟、ひょっとして手応えなかったのかな?」



 心配そうに声を掛けたのは、悟の恋人である田貫さんだった。心配するのも無理はない。恋人と一緒にキャンパスライフを送ることを楽しみにしている気持ちは、俺や奏にもよく分かるからだ。



「それなりには多分解けていたと思う」


「そうなの? じゃあなんでそんなに落ち込んでるの?」


「だってさ、俺が感じる“それなり”だよ? 他に人なんてもっと解けてると思うんだよ。眼鏡率相当高かったし」



 それを聞いた田貫さんは大きな溜息をついてから、悟の頬を両手で挟んで自分の顔の前に持っていった。



「悟は大丈夫だよ。絶対に合格してるよ。だって、私がみっちり教えたんだもん。それなのに落ちるわけがないよ。悟の頑張りも、実力も私が一番理解しているんだから」



 田貫さんの言葉を聞いた悟は目をウルウルとさせて、「梢カッコよすぎだろ、ありがとな……」と呟いて抱きしめた。それを見ていた俺は、なんだかとても微笑ましい気持ちになって、この4人でこの大学に通いたいと心から思った。

 そして俺は隣にいる奏を見てみる。



「それで奏はどうだったんだ?」


「私は結構自信あるかも! なんか試験始まる頃には緊張しなくなってたしね」



 手応えを感じているようで安心した。俺も奏と同様に手応えは感じているし、恐らく田貫さんも大丈夫だろう。

 全員がそれなりの手応えを感じていることに安堵した俺たちは、今までの受験のストレスを吹き飛ばそうということでカラオケに行くことになった。


 全員が謎のハイテンションになっていたため、歌っては笑い、タンバリンを叩いては笑いというカオスな感じになり、最終的に全員がヘトヘトの状態になったのでそのまま解散することになった。




 -




 そして合格発表の日がやってきた。

 今ではネットで家からでも合格発表を知ることができるが、それだと味気ないので俺たちは大学まで行って直接発表を見に行くことにした。みんな声には出さないが、もし万が一があったときを想像すると怖くて仕方がない。


 構内に入ると多くの制服姿の男女が目に入ってきた。目的地は俺たちと一緒だろう。

 掲示板の前まで到着すると、歓喜を爆発させている人や、涙を流してい失意に暮れている人がいたりと様々だった。俺は涙を流している人を見ると、とても不安な気持ちになってきてしまった。

 それは隣を歩いている奏も同様だったらしく、少し震える手で俺の小指を握って来る。


 俺たちは無言で掲示板に向かって歩みを進めた。

 俺と奏の2人と悟と田貫さんの2人に別れると、まずは俺の受験番号があるか探しに行くことにした。俺の受験番号は『409』だ。


 403、406、408…………409


 あった!

 俺の番号を見つけると、奏が「おめでとう!」と言って抱きついてきた。俺はまだ全力で喜ぶことができなかったので、「ありがとう」と一言だけ伝えて、抱擁もそこそこに奏の受験番号があるか探しに行く。

 奏の番号がある掲示板の前につくと、奏は目をギュッと閉じて、俺の洋服の裾を弱々しく掴んでいた。俺は奏のことを抱き寄せて、「頑張って」と一言伝えると意を決したように目を開いて掲示板を見つめる。

 奏の番号は『1036』だった。


 1031、1032………1036


 番号を見つけると、奏は大きく見開いた瞳から、大粒の涙を溢した。



「ゆーくん。あった。私の番号があったよ」


「うん。あったな。おめでとう。本当におめでとう」


「これで一緒の大学に通えるね。本当は怖かった。私怖かったの」



 俺の胸に顔を埋めて泣いてしまう奏をそっと抱きしめて、他の人の邪魔にならないように掲示板の前から離れる。俺は奏の頭を撫でながら周りを見渡すと、同じく号泣している悟の頭を撫でている田貫さんと目があった。

 俺と田貫さんはお互いに苦笑いしながらも、その雰囲気から全員が合格できたことを理解した。



 奏と悟が落ち着くと、俺たちは両親と学校にそれぞれ報告する。両親はもちろん、先生も喜んでくれた。そして、華花から聞いたのか、好ちゃんからも「おめでとうございます! 私もそこの大学目指すんでまた後輩になったら仲良くしてくださいね!」ってメッセージが届いた。その内容が好ちゃんらしくて、俺はスマホ見ながら微笑んでしまった。

 それを隣で見ていた奏が、「んん〜? 彼女が隣にいるのにどういうことかな?」と言いながら頬を膨らませていたので、そのほっぺたを指先で突っついてやった。




 -




 大学を出ると俺たちはそのままファミレスに行って、これまでの高校生活の思い出をたくさん振り返るように、時間を忘れてたくさんの言葉を交わした。一時期は絶望に暮れていた時もあったが、目の前にいる仲間と隣に座っている彼女を見ていると、最高に幸せな高校生活だったなと思えてくる。


 俺は隣に座っている奏の手を、テーブルの下から恋人繋ぎすると、奏はギュッと握り返してくれた。


 俺は本当に幸運な男だと思う。

 羽月と光輝に裏切られたときに、奏が側にいてくれなかったら俺はどうなっていたか分からない。絶望して学校に行けなくなっていたかも知れないし、人のことを信用することができなくなっていたかも知れない。俺がそうならなかったのは、隣でずっと支えてくれていた奏がいたからだ。


 俺は、この先もずっと奏のことを裏切らずに、一生大切にしていこうと心に誓ったのだった。




***後書き***

第三章が始まりました。

全13話です。

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