第6話 エアメール。

 窓口にみえるお姉さんはルミーナさん。


 一見おっとりとした感じに見えるんだけどどんな冒険者さん相手でも怯んだりもしないしチャチャっとテキパキ捌いていくところなんかほんとすごいと感心する。


 まだ二十代前半? まきまきのウエーブかかった金髪でメガネをかけてる。


 冒険者さんの間では結構人気の受付さんなのだ。


 忙しい時間帯だと3つくらい窓口開いてたりするけど今はもうお昼過ぎ、皆出払ってギルドも閑散としてる時間だからか窓口は一つしか開いてなかった。


 待合酒場で呑んでたのもドルトンさんほか数人だったしね。


「すみませーん」


「どうしました? シズカさん」


 ポーターとしての働き口が専属で決まってからはほとんど用が無かったしね? 不思議そうな顔をするルミーナさん。


「あはは。お仕事クビになっちゃって。次のお仕事が無いか相談に来たんです……」


「ああそういう事ですか。炎の竜さんから男性のポーターが居ないかって引き合いがありましたけどてっきりもう一人ポーターを増やすのかと思っていました。っていうかクビになっただなんて何かあったんです?」


 はう。何か落ち度があったのかって聞いてる? もしかして。


「たぶんこの間すごく強い敵と遭遇したせいだと思います……。ポーターももっと強くなきゃとかもっと身体の大きい人が良いとか……」


「そうでしたかー。冒険者引退してポーターしてるような人が良いとは聞きましたけどそういう事だったんですね。確かにあまり危険なところにか弱い女の子を連れて行きたくは無いかもですよねー」


 はうあう。そういう意味合い?


「まあポーターをするのは若い初級冒険者さんの方が多いので実力のある大人のポーターは少なくて。その分若いポーター複数連れて行くパーティーも多いんですけどね」


 そんなことを話しながらペラペラと手元の紙を捲るルミーナ。


「うーん。やはり今日のところは他にポーターの引き合いは無いですねぇ。逆にポーターの仕事があったら紹介して欲しいっていう待ちは数人みえますけど」


 はうう。


「シズカさんも薬草採集とかなら常時依頼でありますから、そちらをお願いできません?」


「はい……。わかりました。そしたらあたしもその待ちに入れてもらって良いですか?」


「では引き合いがあったらエアメールをお送りしますので受け取ったらお返事くださいね。返信用の魔紙、渡しておきます」


「ありがとうございます」


 あたしはギルドに返信できる魔具、エアメールの魔紙を受け取ってとりあえず今日は宿に帰る事にした。


 外に出るとなんだか雲行きが怪しい。今夜は雨かな。


 気分はもう最低だ。


 足取りも重くなる。商店街を通ると美味しそうなソーセージを焼くにおいがしてきたけど今日は買い食いする気分にもならなくて。


 とぼとぼと帰路についたのだった。




 エアメール。


 子供の遊びでよくある紙を折って飛ばす紙飛行機。


 空を飛ぶ魔具である飛行機を模してるのでそう呼ばれるんだけど。


 エアメールは特殊な魔紙をそんな紙飛行機に折って飛ばすのだ。


 人の魔力には個々人を判別できる魔力紋というものが存在する。


 魔力の出口、ゲートを通る時の魔力の波、それが個々人それぞれ違うのだ。


 ギルドの登録にも本人であると言う認証のために使ってるそれを頼りに飛ぶのがエアメール。


 魔紙に連絡事項を書いて飛ばすのだけど、まあ一応有効範囲はこの街の中くらい。丸一日かけて本人に渡らなければ灰になって消えるそんな魔紙でできている。


 返信用のそれはギルドの窓口まで飛ぶよう設定されている。


 勝手に他には転用できないけどね。




 部屋に辿り着いて。


 憂鬱な気分で窓の外を見た時、ふわふわとこちらにむかって飛んでくる紙飛行機が見えた。


 やった。早速? 嬉しい。


 そう思ってその紙飛行機を受け取り、中を開いたあたしは愕然としてその場に立ち尽くした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る