第20話

俺の無実を証明するより、三人だけでも退学阻止を施策した方が希望あると考えている。

良い方法が何も見つからない。

第一、なぜ桑原はそこまでリスクを冒して鍵を盗み、解答を俺のロッカーに入れたのか。鍵か解答かどちらかを俺に擦りつければ良かった話だ。

ロッカーは鍵をかけ寮内、自分の部屋の前にあるわけだが、生徒が頻繁に出入りするため見つかる可能性も高い。

Dグループの奴が2階まで来て、ロッカーを弄っていれば怪しまれるのは当然。Eグループの制服を持っている可能性も低い。

どうしたって鍵を盗み俺のせいにすれば良かったものを。

「だいじょーぶ?」

「...あ、ああ」

「今度は私が何とかする。事実を証明する」

「助かる」

糢糊とした心情は消えることなく、教室に戻ると同時にチャイムが鳴り始める。いつもと同じ音なのに、闇中に引き摺り込まれることを示唆してるかのように感じてしまう。

尤ももう授業を受ける必要も無いはずだ。

どちらにせよ恙無く授業は進められる。

樫谷の姿は見られないのは予想内。意外なことに藍水も顔を出していた。

ただ座っているだけで碌に受けても居なさそうな面持ちが見てとれる。

授業を受けるのは殊勝なことではあるが意味もなく面倒くさいなら帰れば良いと諭してやりたい。

受けないなら受けないで自室に居たところでやる事もなく暇なのかもしれない。

何か変化があるわけでもなくいたずらに授業を終え昼になると、更に気分は鉛が重くのしかかってくるようだった。

周りの視線が鋭い。きっと伝わっているのだろう、俺が起こしたことを。

視線を浴びながらいつもの場所でいつものように木陰に座り息を一つ。

幸いなことに周りはいつものように二人しか居らず景色も変わらないが、パンを齧っても頬中に積み上げれていくだけ。

うまく嚥下できない。

剰え、藤桜も姿を見せなかった。

いや被害者のように言ったが、俺が来ないように伝えたのだ。

俺と一緒に食べていると、藤桜にも信憑性の無い言葉が蔓延り攻撃されるかもしれない。

ここならそのような心配も融けていく感覚に浸ることができた。

気休めに風に体を預けるようにあちらこちら見渡していると、例の女子生徒と目が合ってしまった。

普段は意識もしないし横顔しか確認できないが、真正面に坐ら髪を梳く様子は神秘的な雰囲気を漂わせる。

目を逸らしたくても、離せば襲われるような対峙は続き相手が睨みつけるように目を覗いてくる。

その表情も一切変わらない様子に、吹き付ける風がやたらと冷たく感じた。

言葉も交わすことなく、校舎に入って行った。

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