第45話

12月31日(金)


𖤣𖥧𖥣。𖤣𖥧𖥣。


暗く途絶えた意識の中、美妃奈を探す。

汗ばんだ手で必死にまとわりつく闇を引き剥がしながら。

いた……!

そう思った瞬間、掴んだ手は空を切り、美妃奈はニコッと微笑んで口を動かす。

聞こえはしなかったけど。

またね、と


「ピー」

不規則な音が頭の中で鳴り響く。

まさしく悪夢だった。

ハァ……ハァと肩で荒い息をして、気持ちを切り替えるため、顔を洗いに行く。

前みたいにドアが開いてるなんてことなくて無表情で鏡の中をのぞき込む。

涙が、溢れていた。

もう何も感じないのに。

だめだ……この部屋は。

どうしようもなく美妃奈のことを思い出してしまう。

引っ越そうと思っているのに、染み付いた思い出の香りに依存してしまう。

美妃奈がいなくなったのは一週間前。

それから毎日と言っていいほどこの夢を見ている。

どこかでまだ生きているのではないかと希望を抱いている自分のせいだろう。

今日は美妃奈とのお別れの日なのに。

この一週間ずっと考え続けた。

後悔し続けた。

そんな自分を必死に正常化する思考に苛立ち、自分の頬を強く殴る。

目元にできた深いくまのように真っ青なあざが、またひとつ増えた。

こんな自分と決別しないまま美妃奈とお別れなんて出来なくて、何より受け止めきれなくて。

出席はしないことにしている。



「ドンドンドン」



壁が叩かれる。

不思議に思ってインターホンで確認してみると海翔達だった。

「海翔と久留野さん……どうして?」

とりあえず鍵は開けたが約束もしていないのに来る理由がわからない。

「どうしてって何度もインターホン鳴らしただろ?てか、心配になってきてみたらまだこの有様かよ」

まだ、というのは美妃奈がいなくなって2日後の事だった。

心配して様子を見に来てくれた2人だが僕の悲惨な様子を見て何度か来てくれるようになった。

「聞こえなかったよ……ところで今日は来る予定だっけ」

「あ、あの……!すみません。私が行こうって行ってしまい。あの……南くんって美空ちゃんの……その……お別れ、いくんですか?」

なるほど、それを聞きに来たのか。

けど……ごめん

もう答えは決まってる。

だって……

「ごめん、行けない。」

「そう……ですか。」

行けない、そう言ったのになかなか立ち去らない海翔達。

痺れを切らした僕と久留野さんの言葉が重なった。

「あの、もうそろそ」










「あの……私を家にあげて貰えませんか!?」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る