第21話
𖤣𖥧𖥣。𖤣𖥧𖥣。
1歩踏み出すともう戻れないかのように、躊躇われる1歩を踏み出した先には
“本田先生”がいた。
いや、教師と医者は掛け持ちできないし何より本田先生のチャームポイントのボブが、サラサラのストレートになっているので別人なのは分かっているのだが。
タレ目に困ったような眉、意外と通った鼻筋などほとんどがそっくりだ。
そして、悲しそうに笑った顔まで。
固まった僕をみて本田先生は誤魔化すように笑う。
あぁ、こんな所もそっくりだと思う。
「こんにちは。春翔くん!あなたの担任本田まゆの双子の妹こと本田かなです。」
「あれ?確か妹は結婚していると仰っていたはずですが。」
「照れちゃうなぁ〜!そんなことまで言ってたんだ!最近プロポーズされたばかりで夫の仕事が一段落したら籍を入れるつもりなんだー。」
あまり深いところまで踏み込みすぎてしまったようだ。
「す、すみません……」
「ぜんぜん!じゃあ、真面目に行くね!」
「え、ええー今回は」
「美妃奈は……美妃奈はどうなんですか?」
隠しきれない不安が滲み出てしまっただろうか?
カーテンの隙間から覗いている美妃奈の顔が一気に強ばるのがわかる。
目の前にいるかな先生が何回も見たことのある泣き笑いをしたあと。
退出してしまった。
٭❀*
「美妃奈、大丈夫?」
「うん、大丈……」
「やめた。美妃奈の大丈夫なんて信用出来ないもん。」
「おこっ……てる?」
「そりゃあもちろん。通路の辺りで倒れかけたんだよ?呼吸困難で。結局救急車が来てくれたけどさ。」
「ご、ごめ」
「謝んなくていいって。けどさ、これだけは約束してよ。僕の前では無理しないって。」
「……春翔くん」
君はまたそうやって……
自分だって泣きそうな酷い顔してるくせに強がって私を不安から解放してくれる。
「ねぇ、無理しなくても、いいんだけどさ。
そろそろ、教えてよ。ホントのこと。
美妃奈が渡したカード、少しだけど見えちゃったんだ。本田って。あれって」
「そう、“主治医”の欄だよ」
私は絶対に伝えないと心に決めていた信実をいとも簡単に打ち明けてしまう。
そこからは自虐のように早口でまくし立てた。
「私が転校してきたあの日の少し前にね、余命を宣告されたんだ。信じられないよね、余命1年だって。私ね、生まれた頃から肺が弱かったんだけど実は肺がんだったみたいで。気づいたのが遅すぎてもう打つ手がないんだって。それで、それで……けほっ」
いつもなら、『いいよ、無理しなくて』なんて優しく微笑みかけてくれるのに。
今回に限っては泣きそうな顔で必死に微笑みかけてくる。
違うよ。私が欲しいのは春翔くんのそんな顔じゃない……
また、また避けられちゃうのかな
もういいよ、それでもいい。全部伝える。
それでダメなら。
もう二度と私は誰にも伝えない。
こんな悲しすぎる真実。
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