第23話 パーティーに向けて

 ルイズが逮捕されてから約一ヶ月過ぎた頃のオルレーヌ王国では、てんやわんやでパーティーの準備が進められていた。


 大国であるルズベリー帝国の第二皇子夫妻が結婚のお披露目がてら諸外国を視察しており、とうとうこのオルレーヌ王国にやって来る。


 その接待の為のパーティーを王宮で開くことになったのだ。



 そのパーティーには王家として国王陛下、王妃、シモン、マリアン、イヴァンの全員が参加する。


 国王陛下の一家全員参加して欲しいと帝国側からの要望だ。



 ルズベリー帝国の第二皇子が結婚式を挙げた時、オルレーヌ王国ではシモンとマリアンの結婚式を挙げていたので誰も第二皇子とその花嫁の結婚式には参加していない。


 帝国側はオルレーヌ王国の王族宛てにも招待状は送っていたが、丁重にお断りの返事を送っていた。



 加えてルズベリー帝国でクーデターが起きたことは周辺諸国の上層部では周知の事実で、クーデター収束後に帝国で主催された式典やパーティー等の催しで皇帝夫妻と第一皇子、第一皇女は姿を現しているが、第二皇子は姿を現していない。


 長らく表舞台に姿を現していなかった第二皇子は自らの結婚式で久方ぶりに姿を現した。


 その為、オルレーヌ王国の王家の面々は帝国の第二皇子はどんな人物なのか知らないのだ。


 第二皇子夫妻の名前は結婚式の招待状に記載があった為、名前だけは知っている状態だ。



 パーティーに向けて会場内の準備や料理の手配、宮廷音楽家の手配等はサミュエルが執事やメイド長に指示を出し、その指示に沿って使用人達が行い、最終的な確認はサミュエルがする。



 オルレーヌ王国にとってルズベリー帝国との付き合いは是非望むところなので、パーティーで何らかの粗相をしたり、第二皇子夫妻の機嫌を損ねるような失態は避けなければならない。


 そこで、マリアンにダンスとマナーの教師が付けられ、ダンスとマナーの勉強をすることになった。


 付け焼刃であることは分かり切っているが、それでも王家全員でパーティーに参加すると決めた以上はやらねばならない。


 もし帝国側からの要望がなければマリアンは欠席させていたが、要望がある以上はそうもいかなかった。


 国王陛下、王妃、シモンやイヴァンは王家としての行儀作法は王族として及第点だが、マリアンは違う。


 王太子妃として迎え入れられたが、王太子妃としての正しい在り方もわからず、近いうちに王太子妃という地位を剥奪することになっているので、教師を付けて学ぶべきことは何も教えられていない。


 こんな状態で外国からの客人を接待するパーティーに出席させるには不安が大き過ぎる為、最低限だけでも学ばせることにした。



 しかし、マリアンはせっかく国王陛下夫妻が手配したダンスとマナーの講師に対して、”教え方が厳し過ぎる! そんな難しいことは出来ない!”と言って逃げ出し、シモンに泣きついた。


 それはかつてブロワ公爵家でルイズに泣きついた時と同じような言い分だったが、この場にはあいにくとそれを指摘する者はいない。


「あの先生達、教え方が厳し過ぎるんですよ……。それにちょっと間違えただけでも”こんなことを間違えるなんて”と馬鹿にするんです……。レッスン無しにパーティーに参加しちゃダメなの?」


「わかった。私から先生には言っておこう。パーティーに参加するにしても第二皇子夫妻と話すことは私達ではなく主に父上達の仕事だろうからきっとレッスンを受けなくてそのまま参加しても大丈夫だろう」


 シモンはルイズの事件でサミュエルに指摘されたことが胸に渦巻きマリアンに対して疑念が生じたが、それでもまだマリアンへの愛は冷めていなかった。


 シモンは、マリアンがマナーやダンスについて全くの無知である訳ではなく、ブロワ公爵邸でそれなりに学んでいるだろうから大丈夫だという判断を下した。



「わぁ~い! それよりもシモン様、パーティーに着る衣装を決めましょうよ! 私がドレスを注文しようとして商人に連絡しても何故か皆お断りされるのよね。でも今回は流石に国の為のパーティーで必要だから流石に注文は通るでしょう! 早速商人に連絡してきます」


 マリアンはそう言って駆け出した。


 バタバタと品のない足音が王太子宮の廊下に響く。



 マリアンはルイズの逮捕の一件でサミュエルの言葉に震えていたが、あれからサミュエルがマリアンに特に何かを言ってくることはなく一ヶ月が過ぎ、すっかり元の調子を取り戻していた。



 マリアンが退室した後、シモンはマリアンの言っていたことを思い返していた。


 王太子妃には国庫の予算から王太子妃分の予算が割り振られているはずだ。


 その割り振られた予算内でドレスや宝飾品を買う。


 なので全く購入出来ないどころか商人を呼んでもどの商人も呼び出しに応じないのは可笑しいことだ。



 シモンの中で何かが引っ掛かっていたが、その何かはついぞ正体がわからないままだった。

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