第15話 三人の密談
サミュエルはクリスティーンの死に嘆き悲しんだが、犯人を追い詰める方に尽力した。
事件は時間が経てば立つほど証拠も出にくくなる。
事件調査の為に来た騎士団員と一緒になって調査に加わった。
エレオノーラは母の死にショックを受けて、何も手に着かなくなってしまった。
食事も取れず、夜も眠れなくなってしまったエレオノーラにジョシアは四六時中側にいて何くれとなく世話を焼いたり、気分転換に公爵邸の庭園に連れ出して一緒に散歩をしたりと心に寄り添った。
そのお陰で本当に徐々にだが、エレオノーラは立ち直っていく。
辛かったこの時期ずっとそばにいてくれたジョシアにエレオノーラは恋心を抱くが、シモンの婚約者である自分が他の人に愛を告げるなどしてはならないと思っていたので、そっと心に蓋をした。
この時点ではまだジョシアとの婚約はサミュエルとクリスティーンだけが知っていて、エレオノーラにはまだ伝えられていなかった。
クリスティーンの毒殺事件は、現場に残っていた紅茶道具一式から毒殺に使われた毒が白の悪魔で、犯人は何らかの形で――ポットの中の紅茶に直接毒を数滴垂らすか茶葉に毒を染み込ませた上で紅茶を淹れる等――毒を紅茶に入れて、それをクリスティーンが飲んでしまったということが分かった。
また、実行犯は公爵邸の門番に賄賂を渡して屋敷に侵入したことも使用人達への事情聴取で分かった。
その門番は病気の子供を抱えており、治療薬の為に少しでも金が必要だった為に賄賂を受け取ってしまったのだと泣きながら話した。
門番は解雇となったが、実行犯の容姿の特徴を情報提供したので、その証言を元にあくまでも密やかに大掛かりな捜索が行われた。
髪の色を変えたり、瞳の色を変えたりするような道具はないので、変装の幅もせいぜい髪を短くしたり、眼鏡をかけるといった程度だ。
その結果、実行犯は捕まった。
実行犯は手口を話し、ルイズが犯人だと口を割った為、ルイズに捜査の手が伸びたがルイズは私はこの人は知らない人・そんなことは命じていないの一点張りで堂々巡り。
埒が明かなかったので一旦は保留することになった。
保留することになったが、サミュエルは犯人に罰を受けさせることを決して諦めた訳ではない。
今までサミュエルに何の関係もなかったルイズがわざわざクリスティーンを殺害したのは、自分に対して何らかの感情を持っているからではないか。
そう考えたサミュエルはルイズと再婚し、これまで調査が出来なかったルイズの実家や以前の嫁ぎ先に踏み込もうと決意した。
そこまで決めたサミュエルはエレオノーラとジョシアを呼んで自分の計画を話した。
「事件捜査の為に現状最も犯人だと思われるルイズと再婚することにした。決してクリスティーンのことを忘れた訳ではなく、あくまで事件捜査の為だ」
「わかりましたわ」
「それからエレオノール。お前には言っておかねばならないことがある」
「私に?」
「ああ。知っていると思うが、国王陛下は昔、クリスティーンと婚約していたが恋人と婚約すると言って公衆の面前で婚約破棄を突き付けた。それを忘れたのか、シモン王太子殿下の婚約者にクリスティーンの娘であるお前を婚約者に指名した。その時点で、私は国王陛下を見限った。故にお前をシモン王太子殿下に嫁がせるつもりはない」
「婚約破棄ならお母様から聞いておりますわ。あんまりな仕打ちですわよね。お母様を踏みつけにした癖に、権力が欲しい時は都合よく利用するなんて」
「実は私はジョシアとお前の婚約を進めていた。ジョシアの父であるルズベリー帝国皇帝のリチャードにも正式に申し入れをして、了承している。シモン王太子殿下との婚約は時が来たら必ず破談にすると説明済みだ。だから、エレオノールにはジョシアと結婚すると思っていて欲しい」
「わかりましたわ、お父様」
「エレオノール。僕はずっと君のことが好きだったんだ。最初は確かに妹みたいな存在だったけれど、エレオノールがシモン王太子殿下と婚約した時、すごく胸が苦しくなった。そこで、女性としてエレオノールを見ていることに気づいたんだ。だから閣下から話を聞いた時、僕は嬉しかった」
「私もついこの前自分の気持ちに気づいたのです。でも、シモン王太子殿下と婚約しているから諦めないといけないと思っておりました。私もジョシアをお慕いしておりますわ」
「エレオノール……!」
ジョシアがエレオノーラをぎゅっと抱きしめる。
そこで、サミュエルがコホンと咳払いする。
「お前達、私がいることを忘れていないか? まぁ、いい。それで話を戻すと、私はルイズを近々後妻に迎えるが、そのルイズには前夫との間に子がいて、その子も連れ子として迎えることになる。その連れ子を上手く誘導してシモン王太子殿下とエレオノールの婚約破棄に利用する予定だ」
「それだと私に非がある婚約破棄ではありませんわね」
「そうだ。私はルイズを後妻には迎えるが、真実愛しているのはクリスティーンだけであり、娘と認めているのはエレオノールだけだ。二人を迎えることでエレオノールには不自由な思いや不快な思いをさせてしまうが、許して欲しい」
「お父様の意のままに」
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