第12話 悪役令嬢の結婚
シモンとマリアンの結婚式と時を同じくした頃の、ルズベリー帝国の帝都ロージアン。
今日はルズベリー帝国の第二皇子の結婚式が帝都にある聖ヴェスター大聖堂で盛大に執り行われている。
ルズベリー帝国はオルレーヌ王国と海を挟んで向かい側に位置する国で、この辺り一帯の国の中では広大な国土や軍事力などあらゆる面で最も力を持っている国だ。
そんな帝国の第二皇子の結婚式であるので、帝国内の貴族のみならず諸外国からも沢山の賓客が参列している。
第二皇子ジョシアの結婚相手はエレオノーラ・バーネット侯爵令嬢。
エレオノーラは元々オルレーヌ王国のブロワ公爵家で生まれ、公爵令嬢として育った。
ブロワ公爵家にジョシアが預けられたことがきっかけでジョシアと知り合い、恋仲になる。
彼女はオルレーヌ王国で冤罪で死刑判決を言い渡されたが、周囲の者の協力を得て刑の執行を逃れ、ジョシアと共に帝国に来た。
なお、王国では彼女は処刑されて死亡したことになっている。
数年前にジョシアを保護したことによる褒賞で、彼女の父サミュエルがバーネット侯爵位を皇帝より賜った為、帝国貴族バーネット侯爵家よりジョシアに嫁いだという形になった。
因みに彼女の名前は元々はエレオノール・ブロワだったが、帝国に来たことでエレオノーラへと帝国風に名前を改名している。
純白のウェディングを身に纏った新婦エレオノーラは父親にエスコートされながら、バージンロードを進む。
バージンロードの先には新郎ジョシアが待っており、ジョシアのところまで来るとサミュエルはエスコートをジョシアに譲る。
二人は神父の言葉で永遠の愛を誓う。
「エレオノーラ。ようやくこの日を迎えられたね。君と結婚出来て僕は幸せだ」
「ええ、私もよ。あなたと結婚出来て嬉しいわ」
参列者が見守る中、ジョシアがベールをそっとめくり優しく口づけを贈る。
二人は本当に幸せそうな表情を浮かべている。
大勢の参列者に祝福されながら、ここにラズベリー帝国第二皇子ジョシアとエレオノーラの婚姻が成立した。
ルズベリー帝国では約十年程前、皇弟アンディによる王位
クーデターは日に日に過激さを増し、どこに裏切り者がいるのかわかったものではなく、予断を許さない状況だった。
当時の皇帝リチャードはアンディと戦わねばならず、彼自身はルズベリー帝国から離れる訳にいかないが、このままでは自分の家族の命が危ないと考え、国外で友好関係にある友人達のところへ息子二人と娘一人を早急に避難させることにした。
子供たちの避難先はそれぞれ別で、長男はライジンク王国の王家、二男はオルレーヌ王国の公爵家、長女はヴァレント王国の王家に預けられた。
いずれの国も政治状況や治安は数年安定しており安全と言える国だ。
クーデターはリチャードの勝利に終わり、アンディは敗れた。
アンディは王族の犯罪者を収容するチェルーズの塔へ幽閉され、生涯チェルーズの塔から出ることが叶わない。
クーデターの主犯のアンディは幽閉されたが、まだまだ残党が残っており、とてもじゃないが安全とは言えない状況だった。
リチャードは残党の始末や粛清を行い、帝国に平和と安全が訪れたのはクーデターから起きてから約三年後だ。
リチャードは外国に避難させていた子供達を呼び戻し、長男と長女は帰国したが、二男は帰ってこなかった。
リチャードが預けた先の公爵家当主に手紙を出すと、彼から返事が届く。
どうやら二男は預け先の令嬢と仲良くなり、彼女と離れたくなくて帰国しないようだ。
当主は当主でオルレーヌ王国の王家に対して思うところがあり、彼の娘――件の二男と仲の良い令嬢――と二男を正式に婚約してもらえないだろうかという内容だった。
娘はオルレーヌ王国の王太子と婚約を結んでいるが、そちらの婚約は時が来たら公爵家に非がない破棄に持っていくとのことだった。
リチャードと彼は友人同士なので、婚約を承諾した。
友人同士とは言えお互いに立場があるので、約束を違えた場合に課せられるペナルティもきちんと盛り込んだ内容で婚約の書類も作った。
それから時は流れ、約束通り二人は結婚することになった。
ジョシアは帰国こそしなかったものの、結婚式の打ち合わせでここ半年くらいは手紙でやり取りをしていた。
ウェディングドレスはオルレーヌ王国のドレス工房で作成したものを持参し、ジョシアの衣装は帰国してから急ピッチで制作することだけは早々に決まっていたので、招待客の選別、結婚式を行う大聖堂の予約、料理の手配などである。
そしてジョシアは一ヶ月程前にリチャードにルズベリー帝国に帰国すると手紙で連絡し、帰国したジョシアを出迎えたら、ジョシアは金髪で赤い瞳の美しい令嬢を連れていた。
リチャードの妻ダイアナもその場におり、一緒に出迎えた。
そうして、無事、今日の結婚式を迎えたのである。
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