第9話 幸せな二人と大事件
シモンとマリアンは、挙式後、王宮の王太子宮で暮らしていた。
結婚したことでマリアンは住まいをブロワ公爵邸からシモンが元々住んでいる王太子宮に移したのだ。
シモンが王太子としての執務に励む傍ら、マリアンは日がな一日、元々クローゼットに入っていたドレスを着たり脱いだりして一人ファッションショーをしたり、メイドにお菓子を用意させ、お菓子を食べてはゴロゴロしたり……と自堕落な生活を送っていた。
本来王太子妃にもやるべき仕事はあるのだが、マリアンに任せるとかえって面倒なことになる上、近いうちマリアンは王太子妃という地位を剥奪になることが決まっている為、仕事は回されなかった。
尤もマリアンは王太子妃としての仕事があることに気づきもしなかったが。
国王陛下夫妻はマリアンを全く信用していなかった為、暇を持て余したマリアンが散財しないよう、王宮お抱えの商人に、もしマリアンが王宮お抱えの商人を呼び出して何か注文しようとしても呼び出しには応じないよう通達した。
マリアンの夫のシモンが呼び出した時も同様だ。
もしマリアンやシモンの呼び出しに応じ、注文を受け、彼女に品物を渡しても、王家と対外的にはマリアンの実家と思われているブロワ公爵家は支払いに応じないと釘も刺している。
その一方で、シモンは王太子としての執務に取り組んでいると本人は思い込んでいるが、国王の采配により王太子としての執務は全て彼の異母弟のイヴァンに回され、シモンがやっているのは重要度が限りなく底辺のものである。
また、シモンはマリアンの自堕落な生活にも気づいているが、元々彼女に王太子妃の仕事をさせるつもりはなく、好きなように過ごして欲しいと思っていたから、怒らなかった。
マリアンの仕事は執務で疲れたシモンを癒すことだけ。
それは最早王太子妃ではなく、愛妾だ。
二人は各々がエレオノールにした仕打ちを綺麗さっぱり忘れ去り、愛する人と結婚した幸せにどっぷりと浸かっていた。
名ばかりの王太子夫妻として影では笑われていることに気づきもせず、偽りの幸せの揺りかごに揺られ、ただただ自分達の幸福を享受していた。
二人の結婚後、一ヶ月が経ち、社交界を揺るがす大事件が起きた。
マリアンの母・ルイズが逮捕された。
逮捕された理由は、サミュエルの死別した妻でエレオノールの実の母でもあるクリスティーンを毒殺した犯人だからだ。
王太子妃の母が逮捕されたなんて建国以来初めての事件だ。
事件は四年前に起きたが、まだ時効は迎えていない。
事件当時、クリスティーンは原因不明で死亡したと発表されたが、毒殺されたということまでは分かっていた。
当時おおよその真相はわかっていたが、ルイズを逮捕するには証拠が弱く、サミュエルが執念で確実な証拠を掴んだ。
その証拠を以てして、逮捕に至ったのだ。
事件の真相と経緯を追うと次のようになる。
かつてルイズはシモンとエレオノール、マリアンが通っていたサンブルヌ学園に通っていた。
当時のサンブルヌ学園には当時は王太子だった現国王陛下と側近一同、国王陛下の元々の婚約者だった公爵家の令嬢が在籍。
ルイズが一年生の時、彼らは最高学年の三年生だった。
その側近一同の中にサミュエルも含まれていた。
そこでルイズはサミュエルを見初めた。
彼は年を重ねた今でも若い頃はさぞかしモテたんだろうということが想像に難くない飛びぬけた美男子で、かと言って女遊びには見向きもせず、おまけに非常に頭が切れることで有名だった。
しかしどんなにルイズが想っても所詮しがない子爵令嬢のルイズと公爵家の跡取り息子で王太子の側近で将来有望なサミュエルとでは結ばれようもない。
婚約者はいなくても彼にはルイズよりも爵位・財力・令嬢自身の美貌や魅力で格上の令嬢から婚約の申し込みがひっきりなしに届いているような状態だった。
そんな時、王太子が学園の卒業パーティーで婚約者に婚約破棄を突き付け、恋人と新たに婚約すると発表した事件が起きた。
王太子に選ばれたその恋人は伯爵家の令嬢で、王家に嫁ぐには家格が足りない。
そんな令嬢が婚約者の公爵令嬢に勝ってゆくゆくは王妃になる。
その事件を目撃して、ルイズは思った。
身分差があっても欲しいなら遠慮せずぶつかればいいじゃない、と。
事件後、すぐ行動しようとしたルイズに誤算が生じる。
サミュエルは婚約破棄された公爵令嬢クリスティーンを妻に迎えたのだ。
流石に国王に婚約破棄された令嬢から夫を奪うのは同じ女として気が引けたが、数年後奪えばいいと思い直した。
せいぜい束の間の夫婦生活を楽しんでとルイズは妙に上から目線でもいたのだ。
とりあえず大人しくしていようと思ったルイズだが、父親が借金を作ったせいで実家の財政状況が大きく傾き、お金の為に大きな商家の跡取り息子と結婚することになった。
いくら相手は金持ちとは言え、平民。
おまけにサミュエルに比べたら比べるまでもないほど平凡な容姿だった。
夫との間に子など欲しくなかったルイズだが、義両親にせかされて渋々子を産む。
その子がマリアンだ。
マリアンが生まれた後、家族としての生活は破綻する。
破綻するが貴族と繋がりがあることで商売は回っていた上に、実家への援助はまだまだ必要だったから離婚しようにも離婚出来ない。
実家への援助がもういらない状態になった時、ルイズは夫を毒殺する。
夫の商会を使って白の悪魔という毒と万が一の時の為にその解毒薬を外国から取り寄せ、夫に毒を盛った。
当然義理家族は憤ったが、平民が平民を殺したら相手を法律で裁けるが、貴族が平民を殺してもお咎め無しだ。
ルイズは婚姻で平民になったとしても、その身に流れるのは貴族の青い血。
彼らは泣き寝入りするしかなかったのである。
そして実家にマリアンと一緒に実家のサレット子爵家に出戻る。
実家に帰ったルイズはサミュエルを奪う計画を立てる。
白い悪魔は夫の毒殺時に全部使わずまだ残っているから、出戻りの際、持ってきている。
メイドを一人、ブロワ公爵家に潜り込ませて、白の悪魔を入れたハーブティーをクリスティーンに飲ませる。
白の悪魔は即効性の猛毒なのですぐ死に至る。
メイドは足がつかないよう早々に姿をくらませさせた。
あとはクリスティーンが亡くなり、悲しんでいるサミュエルにすぐさま擦り寄って後妻に迎えてもらうだけ。
驚くほどあっさり後妻に迎えてくれて無事ハッピーエンド。
ハッピーエンドを迎えて幸せだったルイズは、自分を逮捕する証拠入手の為に後妻に迎えたなど夢にも思っていなかったのである。
後妻に迎えたことでサミュエルはルイズの実家は出入り自由になり、ルイズが最初に嫁いだ商家にもルイズが事件を起こし、証拠を集めているので協力して欲しいと言えば、過去に自分の兄を殺されて泣き寝入りをするしかなかった現会頭が承諾した。
ルイズの元夫の商会の裏帳簿にルイズが白の悪魔を取り寄せた記録が残っており(調べられることはないと高を括っていたのかルイズの名前で取り寄せ記録が残っていた)、またルイズの実家で犯行が綴られた彼女の日記を手に入れる等、証拠自体はすぐに入手出来た。
他人の幸せを壊したのだから、自分の幸せを壊されても文句など言えない。
そう思っていたサミュエルは時を待つことにした。
そしてマリアンが憎きクリスティーンの娘エレオノールの婚約者を奪うことに成功しただけではなく、”王太子妃の母”という国内の中でも選ばれし夫人しかなれない称号を得て、ルイズの人生が最高潮に幸せな今、サミュエルがどん底に突き落とした。
これが事の顛末である。
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