第6話 連行
※このページには軽い残虐描写があります。
苦手な方は閲覧は非推奨。
*←この印を連続して並べているところまではそのようなシーンはありません。
庭師に頼まれた執事によってすぐにブロワ公爵家お抱えの医者クレマンが呼ばれた。
クレマンはキャロルやアネットからマリアンが倒れた経緯を聞き、割れたカップに付いていた紅茶とポットに残っている紅茶にそれぞれ銀製の棒を当てると変色したことから、彼女は毒を飲んだのではないかと考え、どんな毒に対しても一定の効力のある毒消しの薬を飲ませた。
幸いマリアンは口に含んだ紅茶が少量であった為、一命を取り留めた。
貴族の邸宅内で起きた殺人・殺人未遂・強盗などの事件は騎士団の管轄になる為、使用人がすぐ騎士団に連絡し、担当者が数名、現場であるブロワ公爵邸に駆けつける。
その際、シモンにもこの事件のことは伝えられ、シモンも騎士団の担当者と一緒に駆けつける。
シモンはブロワ公爵邸に到着すると真っ先にマリアンの部屋に行き、様子を見に行ったが、彼女は自室で眠っていた。
事件が起きてすぐ不審な動きをする者が出ないよう、屋敷の中の大部屋にキャロルとアネット、庭師を含めた使用人一同とエレオノールが集まっていた。
サミュエルと後妻のルイズはそれぞれ外出しており、不在である。
事件発生時、公爵邸の門番と屋敷の周囲を警備する使用人の証言により外部より侵入した者はいなかった為、公爵邸内部の者による犯行と考え、屋敷の中に事件と関わりのある物的証拠がないか騎士団の者によって調査が始まる。
クレマンがマリアンの診察の際に紅茶に毒の成分が検出されたことが判明している為、まずは犯行に使われたと思われる毒物がどこにあるか調べられることになった。
それは既に処分済みで残っていないかもしれないし、まだ処分されておらず残っているかもしれない。
同時に犯行に使われた毒がどの種類の毒なのかという調査も行われた。
騎士団の中には毒に詳しい者もおり、その者も今回の事件の担当として派遣されている。
カップに付いていた方は量が少ない為、ポットに残っている紅茶をスポイトで吸収し、毒の種類を判別する為の薬品数種類と混ぜ、その反応を調べる。
結果、白の悪魔という名前の毒だと判明した。
ミュゼルという白い花から抽出される毒で、ミュゼルの花の甘い香りが微かにするのが特徴だ。
白くて小さい可憐な花という見た目を裏切り、猛毒性を持つミュゼル。
それに因んで白の悪魔という名前が付けられた。
ミュゼルはオルレーヌ王国では気候条件の問題で栽培に適しておらず、白の悪魔は外国から密輸入されている。
ハーブティーに混ぜることで香りは誤魔化すことが出来る。
毒の種類が判明した頃、屋敷の中を調査していた騎士団員よりエレオノールの部屋にある机の中に液体の入った小瓶が見つかったので、中身の液体は何か調べて欲しいと毒の調査をしていた騎士団員に渡される。
検分すると液体は白の悪魔だった。
犯行に使われた毒物の入った小瓶がエレオノールの部屋の机の引き出しから見つかったことで、エレオノールが最も疑わしい人物になる。
そして、エレオノールにはマリアンを毒殺する動機がある。
自分の婚約者であるシモンがマリアンと恋仲で、そのことに嫉妬する又は彼女の存在を邪魔に思うという動機だ。
その上マリアンがシモンに伝えた”エレオノールが屋敷でマリアンを虐めている”ということが事実だとすると、その動機でマリアンを毒殺しようとしたことの信憑性は増す。
――この時、マリアンによる自作自演という可能性は騎士団員の頭には欠片もなかった。
エレオノールを陥れて得をするという点ではマリアンも同じことが言えるというのに。
結局、屋敷中の調査は犯行に使われた毒と毒の入った小瓶が見つかっただけで終了した。
毒の入手経路の手掛かりになる帳簿の類は見つからなかった。
「王太子の権限でエレオノールを王宮の地下牢に連行する! 明日、事件現場にいたメイド二人と庭師には個別で事情聴取をさせてもらう。マリアンには回復次第、話を聞く」
王太子という権力を持ち、エレオノールの婚約者であるシモンの指揮でこの事件を解決へ導くことになった。
宰相の家で起きた事件で、関係者が王太子の婚約者という極めて王族に近いということで、本来ならば国王の指揮にするべき案件であるが、あいにく国王陛下夫妻は貿易に関する交渉の為に他国に赴いており、不在だった。
こうして、エレオノールは王宮の地下牢の独房へと連行される。
連行後、シモンはサミュエルに事件について報告した。
国王陛下夫妻不在の今、宰相のサミュエルが国王陛下の代理でシモンのお目付け役の役割を果たしているからだ。
報告を聞いたサミュエルは、このように告げる。
「この事件については口を挟まないから、殿下の思うように進めて良い。それに私はエレオノールではなくマリアンの方を娘として可愛がっているから、エレオノールがどうなろうとも私は構わない」
******************
翌日、夕方頃に護衛として近衛兵を数名引き連れたシモンがエレオノールが収容されている地下牢の独房へとやって来た。
「ふっ、無様だな。エレオノール。今からお前の取り調べを行う。率直に聞こう。マリアンを毒殺しようとしたのはお前の仕業だろう?」
エレオノールに愛するマリアンを毒殺されかけたことで激しい憎悪に染まり、シモンはいつもの王太子然とした表情・言葉遣いは見る影もなかった。
「違いますわ。私はやっていません」
「嘘をつくな! お前、やれ」
「はっ!」
シモンの命令で近衛兵がエレオノールの背中に鞭を打ち付ける。
数回打ち付けた後、エレオノールの顔が苦痛に歪む。
「今日、メイド二人と庭師に事情聴取をした結果、メイドのキャロルが涙ながらに言っていた。”エレオノールお嬢様が犯人です。実行したのは私ですが、実家の家族を人質に取られて”マリアンを殺さなければお前の家族の命はない”と脅されていたんです”、と。彼女は”毒はエレオノールお嬢様から受け取り、予め茶葉に染み込ませておき、当日はその茶葉を使って紅茶を淹れました”とも言っていた。こんな証言が取れたが、何か言い分は?」
「私はそんなことをキャロルに命じておりませんわ」
エレオノールは否定すると即座に鞭が飛ぶ。
拷問の末、心が折れたエレオノールはとうとう自分がマリアンを毒殺しようとしたと認めてしまった。
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