悪役令嬢の残した毒が回る時

朝霞 花純

第1話 プロローグ

 ゴーン、ゴーン……と王宮の門の鐘がおごそかに鳴り響く。


 王族が亡くなった時に弔いとして鳴らされるその鐘の音は王太子殿下の婚約者だった令嬢が神の元に召されたことを暗に示している。



 今日は雲一つない穏やかな晴れた日で、その出来事と空の色はとても似つかわしくない。


 令嬢は昨夜処刑が執行され、今日、彼女の父によって彼女の遺体が納められた棺桶はブロワ公爵家の者が代々眠る墓地へ埋葬された。




 シモン王太子殿下は、王宮内にあるシモン専用の執務室で執務をしていた補佐官達と共にその鐘の音を聞いた。


「エレオノールは処刑された。これでやっとマリアンの生活を脅かす悪女はいなくなった」


 シモンは自分の愛しい恋人であるマリアンを想いながらぽつりと独り言を漏らした。



 処刑されたのはエレオノール・ブロワ公爵令嬢。


 シモンの元婚約者の令嬢である。



 処刑した理由はエレオノールが義妹のマリアンを毒殺しようとしたからだ。



 エレオノールはブロワ公爵邸で徹底して何かにつけてはマリアンを虐めていた。


 エレオノールの母は、エレオノールが14歳の時に原因不明の死を遂げた。


 その後半年程経過し、エレオノールの父であり、ブロワ公爵家の当主であり、宰相を務めているサミュエルが後妻をブロワ公爵家に迎えた。


 この後妻の子がマリアンである。


 後妻は子爵家の出身だが、親の命令で平民の裕福な商家に嫁いだが夫が死亡し、未亡人として実家の子爵家にマリアンと共に身を寄せていた。


 母は子爵家出身と言えどマリアンは平民と育てられた為、貴族として生きる上で知っておくべき貴族のルールやマナー等は何も知らないまま公爵家に放り込まれてしまった。


 そのせいでマリアンが何か一つ失敗する度、エレオノールがマリアンに「これだから平民出身は」と馬鹿にする。


 食事を抜いたり、「あなたには似合わないから」とマリアンが後妻から買い与えられたアクセサリーを取り上げたり、ドレスをずたぼろに引き裂かれたり、時には使用人の真似事をさせられたこともあるのだとシモンはマリアンと親しくなった後、彼女から聞いた。



 エレオノールは自分の屋敷では他人に言えないような虐めをしている癖に、学園ではそんな素振りをおくびにも出さず、”王太子の理想の婚約者”・”優秀で身分隔てなく親切で優しい公爵令嬢”といった評判の良い令嬢だ。


 何かボロを出すまでは裁くことが出来ない状況にシモンは歯噛みしていたら、卒業パーティーの直前で事が動き出す。



 マリアンがブロワ公爵邸で毒殺されかけるという事件が起きたのだ。



 その日、マリアンはエレオノールを誘い姉妹でお茶会をした。


 マリアンがメイドが淹れた紅茶を一口飲んだら、激しい嘔吐に襲われる。


 幸い少量しか飲まなかったからマリアンは無事だったものの、紅茶に何か含まれていなかったか調べると毒が含まれていることが判明した。


 そしてその毒の入った小瓶がエレオノールの部屋にある机の引き出しから見つかる。



 元々マリアンのことは良く思っていなかった上に、シモンは学園では婚約者であるエレオノールではなくマリアンを常に側においており、それに嫉妬していたという動機もエレオノールにはある。



 そこからは怒涛の展開だ。


 国王夫妻はその時、貿易に関する交渉をする為に他国に赴いており、不在だった。


 だから王太子であり、令嬢の婚約者でもあるシモンが先頭に立って指揮を執った。


 エレオノールは即刻捕らえられ、一時的に王宮の地下牢の独房へ収容された。


 軽く拷問したら、エレオノールは犯行を認めた。


 サミュエルはエレオノールではなく、マリアンを可愛がっていた為にシモンのやることには一切口を挟まなかった。



 そして、学園の卒業パーティーでシモンとマリアン、シモンの側近一同でエレオノールを断罪し、義妹に対する殺人未遂の罪により処刑を言い渡す。



 ――それから一週間後に死刑は執行された。

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