第肆話 DIY事故物件
事故物件ってあるじゃないですか。あれに住みたいなぁと思って。
いや、ユーレイとかはどうでもいいんですけど。私が今住んでるマンション、家賃が高くって。ヤスくんに、あ、彼氏のことなんですけどね。オススメされて、いいなぁって思ったから決めたんです。駅近のタワマン。
でも住み始めてから分かったんですけど、今の給料じゃ全然足んなくて。会社に黙ってヤスくんが紹介してくれたバイトとかもやったんですけど、やっぱりダメで。
だから、マンションが事故物件になったらいいな〜と思ったんです。知ってます? 人が死んだだけで家賃がめっちゃ安くなるんですよ。でも都合よく事故物件になんてならないじゃないですか。どうしよっかなって思った時に、近所で古いアパート解体してて。工事のおじさん達が何か騒いでて。何かあったんですか〜って周りで見てた人に聞いたら、床下からミイラになった死体が出てきたらしくて。びっくりですよね。でもその時に思ったんです、じゃあ自分でやればよくない?って。だから作ろうと思ったんですよ、事故物件。
最初は公園で採ってきたアリを潰して、マンションの周りとかに置いてたんですけど。全然家賃下がらなくて。ハエとか、ムカデとか色々試したんですけど、やっぱり大っきいのじゃないとダメかな〜って。んで、この辺の植え込みってネズミがすごいんですよ、知ってました? だからヤスくんに教えてもらって、ホムセンでネズミ捕り用のシート買ってきて、エサに店の余り物のお菓子置いて、夜にバイト行く前に植え込みに仕掛けたんですよ。
したら、朝バイト上がりに行ったら本当にネズミが死んでて。中には生きてるのもいたんだけど、それでも、手がちぎれてるのとか、お腹が破れてなんか血とか肉がこぼれてるのとかで。あいつらバカだから、お腹減ったら近くにいる死んだ仲間の肉食べてんですよ。それでお腹が膨れても逃げられないのは同じなのに。ウケる。で、ちょうどいいやと思って、そのまま持って帰って今度は駐車場に置いときました。
でもネズミもしばらく置いといたけど、家賃全然下がんなくて。てか下がる前にカラスが食べちゃって、いやあんたらのエサ獲ってきたんじゃないんだけど。だから次はカラスにしよっかな〜って思ったけど、カラスって全然捕まらないんですね。私より頭いいかも。
で、カラスがダメなら、ニワトリならいけるんじゃないかと思って。近くの小学校でニワトリ飼ってるの知ってたんですよ。だから夜に黙って入って、余ってた食パンの耳にマルメンの吸い殻刻んで混ぜて、食べさせたんです。
最初は食いつかなかったんですけど、一羽が食べたら他もすぐ食べ始めて。で、じきに。すごかったですよ、みんな騒ぎ出したと思ったらさっき食べたものを吐き出して。こっちは早く死んでくれないと、誰か来たらどうしようって不安だったんですけど。そのうち何羽か死んだから、ペンチで柵を切って、一番最初に死んだのと、二羽くらい?ゴミ袋に入れて持って帰りました。
でも困っちゃいますよね。何がって、どこに置くかですよ。最近マンションがそういうのに厳しくなって、警察に通報しました、とか、そんな紙が貼られるようになって。困ったけど仕方ないから、自分の部屋にとりあえず置いといたんです。ヤスくんに、どっか適当に捨てといてって頼んで、仕事に行きました。
そしたらですよ。仕事から帰ってきたら、ニワトリそのままで。なんでやっといてくんないの、って奥の部屋でぼーっと立ってたヤスくんに文句言おうとしたら、それヤスくんじゃないんですよ。全然知らないオジサンでした。多分。
多分っていうのは、顔が分からなくて。いや、見えないんじゃなくて。最初は部屋に電気が付いてないから分かんなかったのかと思ったけど、そのオジサン、被ってたんですよ。ヤギかヒツジの被り物。ドンキで売ってるのと比べたら、なんかリアルでしたけど。てかヤギとヒツジって何が違うんですかね。ヒゲ? 生えてましたよ。あぁ、じゃあヤギなんだ。
とにかく、そのヤギのオジサンが願いを叶えてくれるって。いや、喋ってませんよ。でもなんか分かるんです、オジサンの目を見てたら。ぶぅわーって、こう、ぶぅわーって伝わるんです。だから私、思わず「事故物件に住みたいです!」って言っちゃったんですよ。そしたら、何かオッケーって。いやオッケーって言われた訳じゃないですけど、これもぶぅわーって感じで。
言った後に、いや家賃下げてもらったらよくない?って思ったんですけど。気付いたらオジサンいなくて。やっちゃったなー、もうワンチャンない感じ?ってオジサンに訊こうと思ったけど、まぁいなくなったし仕方ないですよね。もうぶぅわーもなかったし。
でも、オッケー貰ったけど何してくれんだろうって思ってたら、ボチャンって音がして。何?て音の方見たけど、一回音がしてから何にもなくて。明らかに水の音だけれど、風呂かトイレかな〜と思ってとりあえずお風呂行ったけど何もなくて。いやそもそも水なんか張ってないし、じゃあトイレか。トイレ嫌だな〜、でも仕方ないな〜と思って、電気点けて、フタ開けたんです。
したら、いたんですよ。赤ちゃん。
便器の水たまり……あ、うちの便器、水たまりが広いタイプなんですけど。そこに浮かんでました、小さい赤ちゃんが。多分赤ちゃんだと思うんですよ、赤かったし小さかったし。多分っていうのは、こっちもまた顔が分かんなくて。だってヤギの顔してたら、赤ちゃんかどうか分からなくないですか?
赤ちゃん、最初はあぁ~って泣いてましたけど、すぐ何も言わなくなって。やっぱり死んじゃったんですかね。可哀想だなとは思いましたけど、どうしようもないし。いや沈めてませんよ、そんなことしませんて。流石にネズミと人間の赤ちゃんとは別ですって。人間かどうかはかなり怪しいですけど。
で、流石に人が死んだら、いや人かどうかかなりビミョーですけどね、人っぽいのが死んだら流石にもうこれは事故物件っしょ。じゃあ赤ちゃんの死体どうしようと思ったけど、どうしようもないじゃないですか。まさか捨てる訳にもいかないし。とりあえずジップロックに入れて、クローゼットの奥に突っ込みました。
んで、多分、十か月経ったくらいだと思うんですよね。
またボチャンって。 私も、まさかぁと思ってトイレに行ったら、やっぱり。赤ちゃんでした。前と同じヤギ頭。もう本当に勘弁してよって感じで。私が何したっての。
臭い? ヤバかったですよ。だからもうちょっと大きいジップロック買ってきて、前のごと入れ直しました。ガスでパンパンになってたんで、今度はガムテープでぐるぐる巻きにして。今度は大丈夫かな〜って思ってたんですけど。
家賃も下がらないどころか、管理人さん?とか大家さんとか、不動産屋から鬼電着て。ちゃんとゴミは捨ててるかーとか、部屋の中を見せてくれーとか訳分かんないことでうるさく言われてる時に、また余計なの増やされて。私にどうしろっていうんですかね?
ヤスくんも全然家に帰ってこなくなったし。酷くないですか? あのマンションに住みたいって言ったのヤスくんなのに、全然家賃出してくんないし。
最近バイトもクビになったんですよ。「お客さんから苦情が出てる」「ちゃんと風呂に入ってるのか」「お前を抱くと赤ん坊の泣き声がする」って、意味分かんなくないですか?
だから、ねぇ。お巡りさん。
あの赤ちゃん、私が産んだんじゃないんですよ。オジサンが連れてきた、ヤギの赤ちゃんなんです。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます