第31話 暴走
私はシンブに支度をすると伝えて、使えそうな薬をカバンに入れてきたのである。
光の鉱石の粉末も使えるかもしれないと、あるだけ持ってきたのだ。
そして、私はいつもと変わらない素振りでシンブと話をしながら城に向かったのだ。
カクの城での働きを聞いたり、魔人への対応にみんながどんな考えなのかなど質問をしてみた。
シンブはにこやかな表情を崩さなかったが、返事は上の空な感じであった。
・・・やはり、何かあると思った。
城に着くと、入り口にいる兵士などはいつもの感じだった。
と言う事は、シンブの味方はそれほど多くないと考えられるのだ。
ここで待つようにと指示された部屋は、今まで来た事がない部屋だった。
シンブがドアの外に出ると、鍵をかけられることは無かったが、そっとドアを開けて見ると2名の兵士が立っているのだ。
早くカクやヨクが無事か確認したかったが、下手な動きをするわけにはいかなかった。
私はカバンからいくつかの漢方薬を取り出した。
急いで、今のうちに薬を調合してポケットに入れておくことにしたのだ。
きっとこれが役立つ時が来るはず。
静かに部屋で待っているとシンブが戻ってきた。
「みなさんはどこで会議をしてるんですか?カクは?」
「ああ、こっちにどうぞ。みんな待ってますよ。」
シンブにそう言われて案内された部屋は実験室のようなところだった。
「ここは?カクは?みんなはどこですか?」
「申し訳ないですが、あなたにはお願いしたい事があるのですよ。魔人を倒すための薬を作っていただきたいのです。」
・・・ああ、やっぱりそう来たか。
「それは、王様も含め、皆さんの意見なのですか?
それとも、あなたの意見ですか?」
私はシンブに強い口調で答えた。
「・・・とにかく、あなたが作ってくれないと、困る事になりますよ。」
シンブはニヤニヤしながら答えた。
「なるほど、それはカクやヨクに何かあると言う事ですかね?」
「まあ、それはご想像にお任せしますよ。」
シンブはそう言うと背を向けて実験室のような部屋から出て行こうとした。
ふーん、お約束の言葉を言ったわね。
絶対に思うようにはさせないんだから。
私はポケットに入れてあったある薬をシンブに投げたのだ。
もちろん、人殺しはしたくないので、魔人に使ったような薬では無いのだが、このおじいちゃんにはちょっと眠ってもらおうと思ったのだ。
ブクリョウ、センキュウ、チモ、カンゾウ、サンソウニンそして、水の鉱石の粉末、光の鉱石の粉末を調合したのだ。
本来不眠症や神経症に使われるが、今回はしっかりと長く効くように光の鉱石を加えたのだ。
私は投げたらすぐにその場から1番遠くに離れた。
薬の大きさはとても小さかったので、シンブは何が起きたかわからなかったが、金色に輝く粉が広がり、その後すぐにシンブの身体に吸収されたのだ。
そしてシンブは何もわからないまま、眠りについたのである。
よし、成功。
このおじいちゃんに、光の鉱石の粉末を使ったのはもったいなかったけど、仕方ないわね。
「ぐっすり眠ってくださいね。」
今回はさっきと違い兵士はいなかった。
シンブが鍵をかけるつもりだったのだろう。
どのくらいで目覚めるかわからなかったので、シンブの服を探った。
思った通り、鍵を見つける事ができたので、しっかりと鍵を閉めたのだ。
いくつかの鍵がついていたので、もしかしたらカク達もどこかに閉じ込められているのかと探す事にしたのだ。
王様のところに行こうと思ったが、シウン大将に助けを求めるのが1番と考えた。
王様の指示ならともかく、あの人が、シンブの言いなりになるとは思えなかったからだ。
それに、シンブの仲間がどのくらいいるかわからない状況で一人で動くのは心配だったのだ。
そっと入り口に戻り、そこにいる兵士にシウン大将の場所を聞いたのだ。
この時間は中庭で剣の稽古をしているとのことで、急いで向かったのだ。
中庭に行くとシウン大将の訓練する音が聞こえた。
私の気配を感じたのか、練習をやめてこちらに歩いてきた。
「舞殿では無いですか?
どうしたのですか?
こんな時間に。」
私は息を切らせながら走っていき、急いで説明したのだ。
「なるほど、無事でよかった。私は王様が心配だ。急いで向かいましょう。」
シウン大将は部下に緊急事態である事を伝え、指示を出したのだ。
軍最高位の大将だけが知っている、中庭から王様の部屋までつながる秘密の通路があるらしい。
そこを私たちは急いだのだ。
そして、王様の寝室につながる隠し扉をそっと開けたのだ。
部屋の中には王様をはじめ、王家の方と側近の方が何人か閉じ込められていたのだ。
「オウギ様。大丈夫ですか?」
シウン大将は王様に駆け寄った。
「ああ。シウンよく来てくれた。舞も無事なのだね。
良かった。
ヨクとカクもどこかに閉じ込められているかと思うよ。
薬師達との会議の時に、シンブが暴走したのだよ。
まさか、こんな事をするとはな。
カク以外の薬師の者達と一部の兵士が組んで、私たちを閉じ込めたのだよ。
誰も怪我をしていないといいのだがね。」
王様の話によると、この部屋の外に2名の兵士がいるようだ。
それ以外はわからないとのことなのだ。
シウン大将は側近の方に王様達と中庭に抜けるように指示をしたのだ。
そこは、シウン大将率いる精鋭部隊が配置されている場所のため、1番安全な場所なのだ。
私とシウン大将は計画を練った。
「すみません、王様が急に体調が悪くなりました。お願いです。薬師達に連絡を取ってください。」
私は側近のふりをして、扉の向こうにいる兵士に話したのだ。
1名は薬師に連絡に行ったようで、もう1名は扉を開けて中を確認しに来たのだ。
その途端、シウン大将にあっという間にその兵は拘束されて、手も足も出ない状況となったのだ。
流石であるのだ。
その後、呼びに行った兵士とともに何人かの薬師が現れたが、高齢の薬師達など、あっという間に制圧する事が出来たのである。
私の薬を使う必要もないほど、シウン大将は強かったのだ。
私たちは王様の寝室から出て、カク達が閉じ込められていそうな部屋を探した。
私はシウン大将にシンブから奪った鍵を見せると、すぐに部屋がわかったようだ。
そこに近づくと、やはり2名の兵士が見張っていたのだ。
シウン大将は余裕で2人を拘束し、私はその部屋の鍵を開けたのだ。
扉を開けるとカクの絶望的な顔が見えたが、私を見るなりホッとしたようで、力なく座り込んだのだ。
そこにはいつものカクと、ヨクがいて私も安心したのである。
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