第15話 魔獣
洞窟の近くの救護用テントに着いた。
周りには、多くの兵士が待機しており、見るからに私たちは場違いな感じがあった。
テントの中に荷物を下ろした時である。
洞窟の方から獣の叫び声がここまで聞こえたのだ。
外に出ると、岩山にできた洞窟の周りをシウン大将率いる精鋭部隊が囲んでいた。
近くまで行ってみたかったが、カクに止められたのだ。
「ここにいた方がいいよ。向こうに行っても、自分たちにできる事はないよ。舞!」
引き止められたが、どうしても見ておきたかったのだ。
魔獣という存在があるなら、どんなものなのかと。
「やっぱり近くまで行ってみるよ。気になるから。
カクはここにいていいよ。」
「わかったよ。
一緒に行くから。
まって・・・危ないから、少しだけだよ・・・」
カクを置いて行こうとしたら、一人でそこにいるのが不安だったのか、ブツブツ言いながらカクも一緒に洞窟の方に向かったのである。
洞窟に近づくにつれて、獣の声が大きく響いた。
それと同時に炎のような赤い光が洞窟から噴き出るのが見えたのだ。
囲んでいたシウン大将達を心配したが、問題はないようだった。
彼らの手にしている盾は風の鉱石から出来ており、炎を逆に追いやる力があるようだ。
また、反対の手に持っている剣は火の鉱石から出来ており、剣としてだけでなく、火炎放射器のような効果があったのだ。
そして、また獣の声が響いたと思ったら、洞窟の中から巨大なライオンを思わせる魔獣が出てきたのである。
恐ろしい牙と爪を備えており、頭には宝石のような光る石が見えたのである。
それはまるで炎のような赤い色をしていたのだ。
「すごい・・・」
私はその迫力に圧倒されたのと、ひるむ事なく対応している精鋭部隊の凄さを目の当たりにしたのだ。
彼らが剣を一振りすると、流れるように炎の波が魔獣を捕らえるのだ。
魔獣は火を吹く特性を持っているようだが、熱の耐性があるわけではなく、炎に囲まれるとダメージを受けるようだった。
しかし、魔獣も火を吹くだけでなく、額の赤い石が光ったと思ったら、半径10メートルくらいの範囲に地盤が少し沈下するくらいの衝撃波を放ったのである。
それにより、一部の精鋭部隊が吹き飛ばされたのだ。
すぐに立ち上がったのを見て、大きな怪我はしてないのだなぁっと、ホッとしたのだ。
隣のカクを見ると、予想通り青ざめた顔をして固まっていた。
「やっぱり、カクは戻りなよ。」
「・・・はは。大丈夫だよ・・・。舞は戻る?」
カクの言う事は放っておいて、私は洞窟の方に目を移した。
戦況ははじめ、こちらの方が有利に思われたが、魔獣が洞窟から出た事で、自由に動けるようになり、ほぼ互角に思えたのである。
しかしその時である。
シウン大将が囮となり、ある場所に魔獣を引き寄せはじめたのだ。
はじめは何をしてるかわからなかったが、そこには大きな魔法陣が形成されていたのだ。
そこに呼び寄せると、魔獣はその範囲から動けなくなった。
その隙に、シウン大将が黒いボールのような物を出して、魔獣にぶつけたのである。
すると、その黒いボールは破裂し、その一帯を黒い煙のようなもので充満した。しかし、すぐに魔法陣の中心に魔獣を包み込むように黒い煙は集まり、煙は消滅したのだ。
もちろん、魔獣とともに。
何処かで見た光景。
私の時は光だったけど、あれは黒い煙。闇の鉱石の力に違いない。
きっと何処かに転移させたのだろうと想像できたのである。
その後、洞窟の中を捜索すると、行方不明者が見つかったのだ。
怪我はしていたが、命に関わる状態では無かった。
そして、その先には、また見えない壁が出現しており、先に進む事はできなかったのだ。
行方不明だった警備隊の話によると、獣の声で中に入ったのだが、途中で人影が見えたとたん、何者かに攻撃を受けて、意識を失ったようだ。
そして、今、兵士に助けられて、目覚めたと言う。
つまり、魔獣の事を含めて、記憶が無いというのだ。
そこには人影を見たとの事から、魔人の介入があった可能性が高いのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます