第2話 秘密の調合

 私はとりあえず、父に見つかる事なく、古い書物を自分の部屋に持ち込むことに成功した。


 どうして燃やしたほうがいいと思った物を残しとくのだろう。

 見つけてしまったではないか。

 鍵を渡さなければよかっただけじゃないだろうか。

 

 そんな思いもあったが、一体何なのだろうという、興味の方がもちろん勝っていたのだ。

 

 しかし、すぐに開いて中身を確認したかったが、父への普段通りの対応が先なのである。

 いつも通り食事をして、たわいのない会話をし、お風呂に入って、自分の部屋に行くところまで。

 そして、やっとこの古めかしい書物に向かい合う時間ができたのだ。


 書物を開いてみると、馴染みのある生薬の名前が目に入った。

 それほど目新しいことが書いてあるようには見えなかったが、よく見ると、生薬の配合の中に何やら記号のようなものが紛れているのだ。

 それは、見たこともない記号でどう言う意味なのかが、全くわからなかった。


 しかし、書物のはじめのほうに、その説明ではないかと思われる記載を見つけたのだ。


● ------ 水

● ------ 火

● ------ 風

● ------ 光

● ------ 闇


 と記号の横に書いてあるのである。


 もう一度、他のページを見ると配合による効果が記載されているようだ。

 漢方薬とは色々な生薬により構成されているのだ。 

 その配合、種類、量により様々な作用をもたらすのだ。

 風邪などで使う漢方薬は即効性もあるが、大部分はある程度服用することで効果を発揮していく。


 しかしながら、この記載にはおかしなことが多い。


見たこともない記号が含まれている薬には、本来の漢方薬での効能を遥かに超えた効果が書かれているのだ。


 例えば、よく目にする漢方に水を意味する記号が追加されているものがあった。

 本来、水を入れたところで、なんら変わることはないはずだ。

 ところが、まったく違うのである。


 無痛処置って?


 これは、筋肉の痛みや痙攣に効果がある漢方でしか無いはず。

 はじめの説明では、その記号の横に水と書いてあるが、私たちが使う水では無いのかもしれない。


 別の記載に目を向けると、耳鳴りや頭痛で使われる漢方薬があった。

 そこには、闇と風の記号が入っているのだが、効果が

 騒音拡大って?


 そして、もっとすごい記載を見つけた。

 そこには光の記号が数個書かれているのだが、もとの漢方薬は病後の体力回復などに使われるものなのだ。


 完全回復処置って?


 病気も怪我も治ってしまうことなのだろうか。

 

 まずは、記号の意味をどうにか理解しなくては、お話にならない。


 結局、朝までずっと読み進めてしまった。 

 今日が日曜日でほんと良かった。

 私は深い眠りについたのである。

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