20210915 「消失の愉悦」



僕は走り出した。彼女の家から逃げるように。

とにかく暗い所へ行きたかった。空に輝く月は今の僕には眩しすぎて。月から逃げるように背を向けて走った。 

僕は彼女に振られたのだ。とにかく酷く振られた。浮気もされていたらしい。

これで何度目だ、思えば昔から人を想えば裏切られて、人に優しくすれば騙された。

でもこれでいいのだ。全部僕から望んだことだ。


喜怒哀楽どれも僕に何かを与えてくれるけれどその中でも「哀」が一番役に立つ。悲しくて傷ついた心は必死で幸福を引き寄せようとするんだ。


そう思いながら僕は橋の欄干によじ登り空を舞う。こうすれば僕に関わった人たちは幸福になれるはずだから。

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