第10話 保健室にいたのは
髪と少し
白い髪の保健の先生は、ソファーの彼女に体温計を渡して体調について
「……38.3度、親御さんに迎えに来てもらいましょう」
「そんなに熱が……。もっと早く連れてくればよかった」
「いえ、君は本当によくやってくれた。新入生代表は
保健の先生は穏やかな笑顔で言った。
少し恥ずかしい。挨拶で顔を覚えられていた事と、こうして褒められたことが。
「担任に連絡してきます。ところで君は紅茶とコーヒーはどちらが好みですか?」
「え、何で……?」
「明らかに顔に疲れが出ている。君もここで休んで行きなさい」
少し強めの語気としかめた眉間が、そうしないとどうなるかを物語っていた。
確かに入学式のリハーサルから参加していて朝が早かったし、僕は自分で思っているよりも疲れていたのかもしれない……。
「コーヒー、砂糖とミルクありで頂けますか?」
「
先生が部屋を出ていく。僕は部屋の中ほどにあった丸テーブルに座って待つことにした。複数の椅子があり、相談室のような役割で使われるのだろう。
ぼーっと窓の外を眺める。大きい窓は晴れていれば陽光をよく取り込み、心地よい空気を作ってくれるのだろうが、今は灰色の嵐の最中だ。これほど雨足が強いと警報が出ているかもしれない。
「お待たせしました」
数分後に戻ってきた先生は、テーブルに紙コップのコーヒーを置き、ベッドで寝ている生徒の様子を見た後、僕の向かいに座った。
「ではあらためて、
「1年3組の都築正城です。あの、コーヒーありがとうございます。頂きます」
一口目から香りと甘さが染み渡り、心が落ち着く。
「これからも保健室には気軽に来てください。体調が悪い時は無理をしないように」
「分かりました。でも今日はベッドが埋まってて、混んでる感じですね」
ベッドで寝ている人たちを起こさないように、僕達は小声で話した。ただ、雨音のほうがよほど大きいので問題ないとは思う。
「そうですね。普段よりも体調を崩す人が多かった。新生活のはじまり、環境の変化が原因でしょう。それと今日の天気です」
天気。雨。春の嵐が人に何を及ぼすのだろうか。
「先生、雨で不調になるのは何故でしょうか。僕の知り合いにもいるんです。気持ち悪くなって、気を失うこともあるらしくて……」
「気圧、湿度、気温の変化による自律神経の
関連性はあると思っていますが、人それぞれ雨の日の何が原因になっているのかは違うので難しい。その方はかなり深刻ですね」
堰根先生から見てもそうなのか。解決策の無さに少し落ち込む。そもそも迫水さんとは会う手段も無いのだが……。
先生はベッドの方を見ながら話を続けた。
「君達が来る少し前に下校した子がいるんですが、彼も天候による不調が深刻でした。
彼に相談されて医者を数人紹介もしたのですが、原因には至らず。人体とは難しいものです。非常に心苦しいですが」
「そうですか……。ありがとうございます」
その学生の事も少し気になったが、
下校、そういえばもう帰りのホームルームだ。とはいえ急いで帰って参加する必要もないはず。
僕は飲み頃の熱さになったコーヒーに口をつけた。
それからは堰根先生と学校の事や保健室の事などを雑談した。生徒の相談役になっているだけあり、とても話しやすい人だ。
コーヒーを飲み干した頃、親御さんが保健室に到着した。先生は対応に席を立つので、僕はお礼をして、入れ替わりで帰ることにした。
下校する同級生とすれ違いながら、教室に鞄を取りに戻る。廊下の窓から外を見ると、雨は先ほどよりは大人しくなっていた。もう少し待てばもっと帰りやすくなるかもしれない。
そう考えた奴がわりといるようで、教室にはまだクラスメートが残っていた。
「おっ、戻ってきた。もう帰ったと思ってたわ。大丈夫?」
「まぁ平気かな。ホームルームで何か大事なこと言ってた?」
「特に無い。山の方は警報出てるから気をつけて帰れってさ」
そこで彼は、大事なことを思い出したようにハッとした。
「そうだ、高等部の先輩が都築くんのこと探してた」
「先輩?女子?」
梢さんだろうか。他に心当たりはない。
「男子。なんかイケメンだけどめちゃくちゃ顔色悪くてさ。
「いや……ありがとう……」
胸騒ぎがする。
高等部は係の人以外は先に帰っていたはずだ。体調不良の生徒に仕事がふられる事はないだろう。
では彼は何故この時間までいたのか。新入生オリエンテーション終了の時間まで、「顔色の悪い男子の先輩」はどこにいたのか。
「その人って、他に何か言ってた?」
「何の用かは言われなかった。名前も聞いとけばよかったなぁ」
「分かった。じゃあ、また明日!」
僕は返事を聞くより早く、教室を飛び出した。
急ぎ足が一直線に向かう先は保健室だ。確かめなければならない事がある。
「堰根先生!!」
つい扉を勢いよく開けてしまう。
薬品棚の前、大声で呼ばれた先生は、驚いて僕を見た。
保健室には先生以外の人はもう居ないようだ。
「僕が来る前にいた人、雨の日に弱い生徒の名前なんですけど、
もしかして、迫水さんって方ですか?」
「知り合いだったんですね。
――――はい、高等部の
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