第39話

次の日から皆の猛特訓が始まった

霊弾が強化出来るのだから障壁や集撃も強化出来るはず!と皆、思い思いの詠唱を試したり特訓をしていた

詠唱霊弾は危険過ぎるので、障壁が強化出来るまでは使用禁止にしようという風に決まったみたい


ちなみに俺はというと…

集撃の練習をしていた


集撃とは、霊装展開した状態で拳に霊力を集め強化する打撃

これが初歩の初歩で、集撃が出来ないと障壁も霊弾も出来ないらしい


皆は元から出来る

俺は初歩から、分かってはいるが実際にその差を体感すると置いてけぼりを食らった気分になる

なにより霊装展開の時は慣れによるアドバンテージで皆より上手く出来ていたのがいけなかった、自分の事を特別だと勘違いをしてしまった


俺はこのクラス、いや学校で誰よりも落ちこぼれだったのを思い出した

選抜大会へのワクワクも気付けば無くなっていた



二学期は校内選抜大会があるので金曜にあった2年による怪異討伐の授業は一時中止となった

そこまでするほどの事ではないと思うが、大会前に手の内をさらけ出すのはフェアじゃないという事で毎年この時期は中止となっているらしい



――二学期が始まって2週間が経った


選抜大会まであと1ヶ月と半月、俺は未だに集撃すら使えるようになっていなかった


霊装展開し、右拳を握る

握った拳を見つめながら集中する


霊力が拳に集まるイメージで…


俺の体を包む霊力が少しずつ動くのが分かる

ゆっくり、ゆっくりと右拳へと集まる

右拳を覆う霊力がだんだん大きくなっていく

…そしてっ!


「クソっ!!」


思わず握った右拳で壁を殴ってしまう

普通に痛い

なんなら血が出てるかもしれない

物に当たってしまう自分に嫌気がさす


でもイライラしてしまうのも仕方ないだろ?

この2週間全く進歩していないのだから…

集まった霊力は形を作る前に霧散して霊装すら解除されてしまう


時間がある時は何度も練習した

授業間休みに昼休み、家に帰っても…

何度も何度もこの光景を見た

こんなザマでは優勝なんて烏滸がましい

1回勝つことすら出来ないだろう


苛立ちと絶望感に襲われる

俺とは違い順調に特訓している皆を見る度にその気持ちは大きくなる

一学期、霊力が使えない時はこんな感情にはならなかったのに…


だが転機はすぐに訪れた


今日も一通りの授業を終え、帰ろうとしていたら担任に捕まり生徒指導室へと連れられた

え、俺何かやっちゃいました?


担任「お前に頼みがある」


いつもと違う真剣な表情

細見先輩に少し似ている顔でそんな表情をされると不覚にもドキッとしてしまう


「え、やだ…」


そんな胸の内とは別に反射的に声が漏れてしまう


担任「選抜大会で優勝しろ」


不意に漏れた俺の声を無視し、いや?聞こえたからなのか?

さっきは頼むと言っていたのに何故か命令された


「無理です。お断りします」


担任「お前も無関係じゃないぞ?」


そう言う表情はいつも通りのからかってくる時の表情なのだが、いつもと違う必死さが感じられた


「どういう事ですか?」


担任「この大会で鬼龍院が優勝したら…涼子は鬼龍院と結婚させられる」


「はぁ!?」


自分で思ってたよりデカい声が出て自分でもビックリしてしまった

そのお陰で少しだけ冷静になれた


細かい話は省略するが家同士の話でそういう事に決まったみたいだ

鬼龍院家からの申し入れだったので家の立場が弱い細見家では抗えなかったそう

せめてもの抵抗で選抜大会で優勝したら、という条件を取り付けた


とは言え現状鬼龍院が優勝するのなんて99.9%決まっている

だからこそこの1ヶ月で誰かを鍛え阻止させようと思ったのだろうが、何故そこで…


「俺?俺じゃあ無理でしょ…」


未だに集撃すら使えないのに


担任「お前じゃなきゃ無理だ」


「俺より藤原とか山本先輩みたいな優秀な人に頼めばっ!!」


担任「無理だ。唯一可能性があるのがお前なんだ」


担任の目は真っ直ぐ俺を見つめていた

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