第11話 玲香・すぐ側に
「ねぇ、このキーホルダーって…」
山脇さん、いや、リンスがるきに話しかける。
リンスが自分から話しかけるなんて珍しい。
「あぁ、それは昔兄弟と作ったキーホルダーだよ。…またいつか、もし会えた時の目印と思ってつけてるんだ」
キーホルダー…パズルのピースのような形をしている。
「可愛いね!それ」
私はキーホルダーを手に取った。
透明感のある、赤紫色でRと書かれたプラ板のキーホルダーは、窓から差し込む淡いオレンジの光を反射してきらきらと光っている。
「…山田さん、友達が待ってるんじゃない?帰らないの?」
「あっほんとだ!教えてくれてありがと、リンス!」
沙月を怒らせたら大変だ。私はカバンを引っ掴むと教室のドアを開けた。
「じゃあねー!」
「ばいばい」
るきが手を振ってくれる。
廊下をダッシュ。
「あ、玲香ー!やっと来た…」
「遅くなってごめんね!!」
「ううん、掃除お疲れ」
沙月はにっと笑った。
他に待っていてくれた友達たちも口々にお疲れと言ってくれる。
…幸せだ。でも何かが足りない。
「帰ろっか」
木の葉の間から涼やかな騒めきが伝わる坂道。
絡みつき、交わっていく少女たちの笑い声。
「昨日のドラマ見たー?」
「見た見た!次回めっちゃ気になる」
「わかる。あそこで終わると次どうなるか気になるよね」
はしゃぐみんなの他愛もない会話を聞いていると、なぜか頭の中にあのキーホルダーが浮かんだ。
「うんうん。沙月ちゃんはあのあとどうなると思う?」
「えー、なんだろ。付き合っちゃうのかな」
「あ、たしかにそうかも」
「そんな感じするよね」
「だね。告白シーン早く見たいな~」
あのパズルのピース。どこかで見覚えがあるような気がする。
緑…そう、緑だ。
緑色のペン…お兄ちゃんが持ってきてくれたペン。
たどたどしい手つきで書く、「R」。
「告白するんだったらどんな言葉で言うんだろ、好きです付き合ってくださいかな?」
「もうちょっと情熱的な感じじゃない?」
「愛してるとか?」
「あー、ちょっとあるかも」
「ありそうだね」
「玲香はどう思う?」
――ずーっと、一緒に持っていようね。
お姉ちゃんの笑顔。
カタリ。3つ、組み合わされたあれは…
「玲香!れーいーか!聞いてる?」
「あっ、何?」
「何じゃないでしょ…聞いてたの?」
「ごめん、聞いてなかった」
「もー」
頬を膨らませる沙月。
あぁ、でも…もう少しで思い出せそうなのに。
「昨日のドラマの話してたの」
あぁ。そうだ、あれは。
電撃が走ったような気がした。
3つに組み合わされた、パズルのピース。
――うん!もし僕たちが離れ離れになっても、このキーホルダーは一緒に持っていようね!
あのときお兄ちゃんが差し出した右手とキーホルダーを指差す手が重なる。
体に電撃が走ったようなざわめいた感情。
お兄ちゃんの名前…それは
月樹だ。
「ごめん、沙月!私行かなきゃ!」
学校に戻って、るきに話さなきゃ。
きっとまだ校舎に残っているはず。
ずっと探してたんだ、って。
あなただったんだね、って。
気づけば私は走り出していた。
「ちょ、ちょっと、玲香?!」
「先帰ってて!」
はぁ、はぁ。
全身の力を振り絞って足を動かす。
何も考えられない。
追い風が私の背中を押す。
次第に見えてくるゴール。
山中月樹。
お兄ちゃん。
待っていて。
「るき!」
教室のドアを開けるや否や私は叫んだ。
はっと振り向いた二つの顔。
「るき!私、伝えなきゃいけないことがあって…」
一直線にるきのもとに向かう。
「待って」
私を手で制するリンス。
どうして。
「ちょうど私も今その話をしようと思ってここにいるから」
「リンス…?」
リンスは優しく笑った。
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