第9話 玲香・居場所

顔を馬鹿にされたって…

こんなにかっこいいのに。

そうか、イケメンだから嫉妬されたんだな。

本当はイケメンなのに、馬鹿にされたせいで顔を隠しているなんて勿体なさすぎる。

次々と打ち明けられる山中君の過去に、私は気づいたら泣いていた。


「山中君…そうだったんだ。同じだったんだね」


ぼやける山中君の影がこちらを向いた。


「同じ?…あのさ、もし聞いていいなら、」


山中君は私に視線を移した。


「山田さんは、どうしてここに来たの?」


私の…番。

大丈夫。山中君も勇気を出して話してくれたんだから、私だって言えるはず。


「私も、竜巻で家族と離れて施設で生活していたんだ」


遠くで鳥の鳴き声がした。


「その時の私は、すごく暗かった。話しかけられないと話さないし、鈍いし。とにかく暗かった」

「えっ」


山中君は驚いたように私を見た。

今の私は我ながら明るいから、驚くのも当たり前か。


「最初はみんな優しくしてくれた。私を歓迎してくれた。誰もが一緒に遊んでくれたり話してくれたりした」


淡々と。これ以上思い出さないように私は続ける。


「でもね。しだいに、その施設の仲間…なのかな、のリーダー格の子が、遊びだって言いながら私に暴言吐いたり痛めつけたりしてくるようになった。そのうちみんな真似し始めてさ。なめられてたんだろうね。暗いし気が弱い私。何も抵抗できないってわかってたんだろうね」


最後の方は声が震えてしまった。

滲みだす思い。やっぱり思い出してしまう、冷たい記憶。

嘲笑。刺すような目。私の弱い心。


「隠してる。私も隠してるんだ。自分の弱さも、気質も、全部、明るくして隠してる。山中君と同じように」


立っているのすら辛くてうずくまってしまう。


「思い出しちゃうの。弱い私が。山脇さんも昔の私と同じだって思っちゃう。でも山脇さんは私みたいになってほしくない」

「山田さんは弱くなんかない。十分強いと思うよ」


山中君は、しゃがみ込んで私の手を優しく握った。


「強くなんかないよ…わかってよ」

「ううん、山田さんは強いよ」

「…どうして?」

「ほら、山脇さんを助けようとしてるでしょ」


前髪の隙間から覗く目に、こんなときですらドキドキしてしまう。


「私は逃げたんだよ。助けたんじゃないよ」

「逃げてない。昨日からずっと、何回も話しかけようとしてたでしょ。傍で寄り添うように」

「…」

「僕は、山田さんを弱いとは思わないよ。たとえ隠しているとしても、山田さんは十分強いんじゃないかな」


心を包み込んでくれるように。

山中君は私を照らしてくれた。


「だから、もう泣かないで」


そう言って、山中君はしゃくりあげる私の肩をそっと手でさすってくれた。


その手の温かさは、いつか生き別れた兄のそれと重なって―――


ふと薄くて淡いひだを作るようにチャイムが鳴った。


「どうする?教室に戻る?」

「…もういいや、二人でさぼっちゃおうよ」

「そうだね」


施設にいて、同じような記憶を持って。


共通点が多いからなのか、優しさに惹かれたからなのか、なんとなく山中君に好感を持った私は、それ以来よく二人で話すようになった。


たまに授業をさぼって施設のことなんかをも話して。


…そんな関係が別の関係に変わっていくなど思いもよらずに。

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