紡いだ響き、君の余韻 ~僕らの中学三年間~

優羽 もち

紡いだ響き、君の余韻

プロローグ

第1話 玲香・新しい扉

目の前にそびえ立つ大きな門を、私はぐっと顔を上げて見つめた。

門の隣の看板には、厳めしい筆文字で入学式と書かれている。


――今日から、私は中学生なんだ。


そう実感せずにはいられない。

目をふっと閉じると、かすかな桜の甘い香りが体に充満していく。


玲香れいかちゃん!写真撮ろう!」


走りながら駆け寄ってきたのは私の里親の山田さん。カメラを家に忘れてきて今取りに行ってきたらしい。

ふふっ。おっちょこちょいだなぁ。


そういえば、最初に会った時も財布を家に忘れてきていたような。


私が山田さんに初めて出会ったのは8年前。それからずいぶんお世話になってきた。


小さいころだったのであまり覚えていないが、私が5歳くらいのときに私の街を竜巻が襲った。

そういうわけで、私は三つ子の姉と兄、そして実の親と生き別れになってしまった。

頼りになる親戚もおらず行き場のなくなった私は、施設で生活することになった。

そこに里親として山田さんが現れ、今日まで私を育ててくれたのだ。

初めて会った時の印象は「優しそうなお母さん」。

山田さんと一緒にいる時間はすごく心地よかった。


「はぁ……」


竜巻のことは今でも瞼に鮮やかに残っている。

それは思い出すだけでため息が出るほど恐ろしいものだった。


しかし、あまりに幼かったせいかお姉ちゃんとお兄ちゃんの記憶はそこまで多くない。

クールでめったに見ることができない笑顔が素敵なお姉ちゃんと、いつも優しくて私に色々なことを教えてくれたお兄ちゃん。


できれば竜巻じゃなくて兄弟のことをもっと覚えていたかった。


山田さんが探してくれたこともあったが未だに行方はわかっていない。

できることならまた会って話してみたいという気持ちはもちろんある。

でも名前すら憶えていないからどうしようもない。


「玲香ちゃん、こっち向いて!」

「あ、うん…!」

「はい、チーズ!」


慌ててカメラに向かってほほ笑むと、山田さんは苦笑して言った。


「何よぉ、入学式だからって緊張してるの?玲香ちゃん持ち前の元気さが今日は急にしぼんだみたい!もっと元気出してよ~」

「そ、そうだよね、よし、元気出してこー!」


そうだ。元気出さなきゃ。

私はゆっくりと門をくぐった。

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