第4話 悪戯ウサギ
どうしてか分からないけど、僕は大丈夫な気しかしてない。早くレンファを助けてあげなきゃって、そればっかりなんだ。
でも、このままお願いしても無理そうだし――もう僕が自分で地下室を探して入るしかないかも? 泥棒みたいでダメかな。
そう言えば、セラス母さんも「アルは、ちょっと前向き過ぎるのが良いところであり、悪いところでもあるわね」って言っていたな。うん、どうもこれは悪いアレクシスが出てきたみたいだ。
「――分かった。じゃあ、帰ってセラス母さんと相談してみる! それから、もう1回遊びに来ても良い?」
「ダメです、もう二度と来ないでください」
「えぇー! やだあ……遊びに来るう……」
「いけません、万が一にもセラスが了承すると困ります。絶対にありえないでしょうけれど……彼女、変に追い込まれやすいところがあるから嫌な予感がして」
「……じゃあ、最後にお風呂に入っても良い? あのドゥルドゥルでスースーするヤツ! ケガもだいぶ治ったから、もう痛くないし楽しいと思うんだよね!」
「じゃあって、君、めちゃくちゃ厚かましくなりましたね? ……いや、前からそうだったかも知れません」
僕は椅子に座ったまま足をバタバタさせて、「おーふーろ! おーふーろ!」って叫んだ。
そうしたらレンファはすっごく迷惑そうな顔をして「帰りに炎症止めまで飲むなら、許可します」って言ってきた。炎症止めっていうのは、もちろんアレだ。僕の大っ嫌いな泥にんじんでつくられた飲み薬のこと。
僕はしょんぼりしながら、ようよう頷いた。
お風呂を沸かしてもらっている間にこの部屋を調べて、ここになかったらお風呂のある部屋を調べる。そうして地下室への入口を見つけて、レンファを助けてあげるんだ!
そのためなら、泥にんじんだって飲むよ――! 僕はキレイに頑張るって決めたからね。
「じゃあ、薬湯と炎症止めの用意をしますけど……今回も、飲み終わったらすぐに帰ること。いいですね?」
「はーい!」
力いっぱい返事すると、レンファはまた迷惑そうな顔で僕をじっと見た。そのあとすっごく大きなため息を吐いてから、分厚いカーテンの向こう側へ消えて行った。
あの先はお風呂だ。あと――たぶん、レンファが寝る部屋と台所も向こうにあるはずだ。
僕は30秒ぐらい数えて、レンファがこっちに戻って来ないことを確認した。それから、早速この部屋の床を調べることにした。
なんだろうな。悪いことをしているはずなのに、ちょっとワクワクしちゃってるな。もしレンファに見つかったら、その時は「マガサシターしました」って言って謝ろう。
セラス母さんの家にも、地下室というか小さな食糧庫がある。床下はちょっぴり涼しいから、食べ物を保存するのにちょうどいいんだってさ。
でも、きっとレンファの言う地下室はちゃんと部屋なんだろうなって思う。村人を大勢犠牲にするような陣なんだから、きっと大掛かりなものに違いない。
僕は床の上に四つん這いになって、隙間がないか、開きそうな扉がないか探した。だけど、端から端まで見てもただの床だ。
もしかしたら、この壁沿いにぎっしりある薬棚の下? そうだとしたら、僕の力じゃあ動かせない。
あーあ。こんな事なら、地下室がどの辺りにあるのかセラス母さんに詳しく聞いておけばよかった。やっぱり、やらなかった後悔の方が傷が深いみたいだな。
「うーん、ここにはないか……」
このまま地下室が見つからなかったらどうしよう? もう遊びに来ないでって言われているし、それってかなりまずい。
いや、でもまだこの部屋を調べただけだからね。他の部屋も調べてみて、それでもダメだったらその時に考えよう。
僕は椅子に座り直して、レンファがお風呂を沸かしてくれるのを待った。
◆
それからちょっと経った後に、レンファが「さっさと入って、湯冷めしない内にさっさと帰る」って呼びに来てくれた。
僕はぶんぶん頷いて「もう覗いたらダメだよ!」って言ってカーテンの向こうへ走って行った。後ろから「覗く訳ないでしょう」って声が聞こえたから、ひとまず安心だね。
せっかく入れてくれたものだから、本当はお風呂にもきちんと入りたい。だけど、まずは地下室探しだ。
お風呂が用意されいるお陰で、ちょっとくらいホコリまみれになっても平気なのが嬉しいね。
とりあえずお風呂場の床から探そうと思ったけど、こんなところに地下室があっても、お風呂から溢れたお湯で水浸しになっちゃうだろうな。
レンファがいつ「遅い」って見に来るか分からないから、お風呂の床は後回しだ。僕は壁をぐるりと見回して、ドアノブも何もない、ただ手で押すだけで開く簡単な扉を見つけた。
音を立てないようにゆっくり開くと、1人用の小さなベッドが置かれた部屋に繋がっていた。
ここはレンファが寝起きする部屋――なんだろうけど、本当にベッドしかなくて、他には何もない。もしかしたら、全部〝ゴミ箱〟に捨てたのかも知れないね。
部屋にはベッド以外の家具が置いていない上に敷物ひとつないから、床を確認しやすい。おかげで、小さな扉もすぐに見つかった。
とにかく急がなきゃと思って、扉の取手を掴んで持ち上げる。中は薄暗くてよく見えないけど、そんなに深くないみたいだ。下りるためのハシゴは下まで続いている。僕は迷わずハシゴを掴んで、慎重に足を踏み出した。
「――ウサギくん?」
覗かないって言っていたのに、お風呂の方からレンファの声が聞こえて来て、僕はびっくりしてハシゴから足を踏み外した。でも深さはないから、あっという間に地下室の床にドスンとお尻がついた。
ケガはないけど、まずい。すごい大きな音がしたからレンファも聞こえたはずだ。マガサシターしましたの準備をしておかないと――!
上の方からトントンって軽い足音が聞こえて、僕は慌てて起き上がると地下室を見回した。とにかく、色々ダメなことして怒られるのは間違いないけど、陣にだけは入るぞ! でも薄暗くてよく見えないな!
仕方ないから四つん這いのまま手探りで進む――と、上から「アレクシス! ダメ!!」って声が聞こえた。
薄暗い地下室から上の部屋を見上げると、なんだかすごく眩しく感じて右目を閉じた。そういえば、レンファと話して遊んでいる間は要らないからって帽子を脱いだんだっけ。
上から穴を覗き込む人の影しか見えないけど、でも声はレンファで間違いない。
「名前――」
初めて呼んでくれたって言いたかったけど、それと同時に地下室の中が真っ白になる。あまりの眩しさに、僕はもう上も下も――何も分からなくなった。
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