第36話

~純side~


数時間前。



俺は2人をジッと見つめていた。



気絶してからもう数時間は経過しているけれど、2人はまだ目覚めない。



少し心配になり、マホの脈をとる。



正常に動いているようで、ホッとむねを撫でおろした。



その時だった。



歩が目を開けたのだ。



「歩!?」



すぐにかけよると、歩は目を細く開けて俺を見た。



「あぁ……」



体を重たそうに持ち上げてどうにか目を開けた歩。



「歩……なんだよな?」



「あぁ。俺だ」



歩は小さく頷いた。



「よかった。これでマホはもとに戻る」



そう言うと、歩はニヤリと笑い「マホの事が好きなんだな」と、聞いて来た。



その瞬間、俺は自分の顔がカッと熱くなるのを感じた。



俺はそこそこカッコよくて、いろんな女と付き合いがあった。



でも、好きだと感じられる女はただ1人。



マホだけだったんだ。



「悪いかよ」



「いいや、たしかにマホはいい女だ。処女でもないのに1回7万で売れたしな」



歩の言葉に俺は顔をしかめた。



好きな女の値段なんて聞きたくなかった。



「マホは大丈夫なんだろうな?」



「もちろん、もうすぐ目が覚めるさ」



歩はそう言いながら洗面所へ向かい、剃刀を持って戻ってきた。



再びベッドに横になり自分の手首に刃を押し当てる。



「おい、なにしてるんだ」



俺は慌てて止めに入った。



突然の出来事に困惑する。



「マホが目覚める前に終わらせておかなきゃいけないからな」



歩はそう言うと、躊躇することなく剃刀で手首を切りさいたのだ。



真っ赤な血が大量に流れ始める。



歩が脈打つごとにその流れは速くなる。



「おい、歩!!」



俺は思わず歩の手を握りしめていた。



こんな場面でほっておくなんてできなかった。



これが、すべて歩の計画だったなんて知らずに……。


☆☆☆


気が付けば、俺はベッドに横になっていた。



目を細めて周囲を見回してみると、マホと俺が手を繋いでホテルから出て行く所だった。



俺は必死で声をあげた。



マホ!



そいつは俺じゃない!



歩だ!!



いや……そいつは海だ!!



マホ、行くな……!!



必死で声を出しても言葉にはならなかった。



ホテルを出る瞬間、俺が振り返りそしてにやりと笑ったのが見えた。



「う……み……」



俺の右手からは大量に血が流れているが、布団をかぶされて隠されている。



あぁ……歩。



歩もこうやって殺されたんだよな。



薄れゆく意識の中、俺は14歳で死んでしまった歩の事を思い出していた。



歩も海も入れ替わりの能力を持って生まれてきたが、その性格は天と地ほどの差があった。



海は入れ替わりを悪用し、万引きや身売りを繰り返していた。



そんな海を見て、歩は何度も海に説教をしていたのだ。



正義感ぶっている歩が海にとってはうっとおしい存在だった。



だからある日海は考えたんだ。



歩と入れ替わってやろうと。



しかも、ただ入れ替わるだけではない。



海としての入れ物を消してしまおうと考えたのだ。



海は歩が家に帰って来る時間を見計らい、浴槽にお湯をはった。



浴槽につかりナイフで思いっきり自分の手首を切ったんだ。



絶対に死ねるように、深く深く刃を入れた。



浴槽内はあっという間に真っ赤に染まり、まさに血の海になっていた。



そんな時、歩が帰ってきたんだ。



俺はゲームを教えてもらうために、その日偶然歩と一緒にいた。



そしてその光景を間の辺りにしたんだ。

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