第140話 「結衣と買い物」

(蒼汰)

 翌日学校に行くと、結衣が飛んできて滅茶苦茶怒られた。

 学校をサボった上に、自分を連れて行かなかった事に腹を立てていたらしい。

 サボった事をなぜ知っているのか驚いたけれど、里見さんがこっちを見ながら手を合わせていたので、事情が分かった。

 龍之介ぇ……。


 俺にひとしきり文句を言うと、今度は航に詰め寄って文句を言っていた。


「男三人での大切な旅だったんだ! 絶対に連れて行けない!」


 航は強気で言い返していた。

 そりゃそうだ。結衣がもし一緒だったら、茜ちゃんとのあの流れは多分起きていない。

 航は絶対に肯定しないだろうし、謝るはずもない。

 結衣は航ではダメだと思ったのか、何故かまた俺に文句を言いに来た。

 何でだよ……。


 結局、結衣の怒りを鎮める為に、土曜日の午後に買い物に付きあう事になり、当日は制服で行くのもあれなので、着替えてから待ち合わせ場所に赴いた。


「蒼汰見っけ!」


「ぐえっ」


 いきなり後ろから背中に飛びつかれて、首を強くホールドされてしまう。


「こんにちはのハグー」


「結衣。恥ずかしいから止めてくれー」


「何よ! こんなに可愛い娘に抱きついて貰ったんだから、感謝しなさいよ!」


 そう言ってハグを解いてくれた。

 結衣の格好は、黒のTシャツにデニムの短い半ズボンを履き、元気な女の子っぽくて、いかにも結衣らしい。


「はい。ありがとうございます。可愛い結衣さんに抱きついて頂いて、感謝感激致しておりますです」


「うむ。分かれば宜しい!」


 結衣は弾けるような笑顔で俺を見ていた。

 正直、幼馴染補正を外したとしても、結衣は可愛いと思う。


「さあ、行こう!」


 結衣は躊躇ちゅうちょなく俺の腕に掴まり、腕を組んで歩き始めた。

 傍から見るとラブラブのカップルみたいで、ちょっと恥ずかしい。

 結衣はそんな俺の気持ちなどお構いなしに、楽しそうに歩いている。

 一緒に買い物というよりは、引っ張りまわされているといった感じだけれど、別に嫌な気はしない。


 延々と服を見て回り、結衣が気に入った服もあったけれど、何故か購入はしない。

 『気に入った服が決まれば、直ぐに買ってしまえば良いのに』と思うが、そういうものでは無いらしい。

 理解は出来ないが、納得するしかなさそうだ……。


 散々見て回った後、遅めのお昼を商業ビルの高層階にあるレストランで食べる事にした。

 窓際の席からは、海まで続く街並みが一望できてなかなか良い景色だ。

 外の景色を見ながら、自宅や学校の場所を「あれじゃないか?」とか騒ぎながら探すのが結構楽しい。


 ランチを食べながら、試着をした服の中でどれが良かったか聞かれた。

 結衣が気に入った服はどれも似合っていたから「どれも良かった」と答えたら、「一緒に来た意味が無い!」と言って怒られた。

 結衣が「蒼汰が選んだのにするから」って言うから、お胸のラインが綺麗に見えた服があったので、仕方なくあれが良かったと伝えたら、「あれはちょっと無いかなー」って、何だよ!


 その後、俺が好きなタイプの服を聞かれて「Hな服!」と答えようかと思ったけれど、真面目にワンピースが好きだと口を滑らせたばかりに、その後は延々ワンピースの試着に付き合わされるはめに。

 そして結衣は致命的にワンピースが似合わない女の子だった……。


 大人っぽいのはもちろん似合わないし、元気な雰囲気に合わせると、小学生とか幼稚園の子の着る様な柄になるしで、本当に似合うワンピが見つからなかった。

 かろうじて似合うデザインとしては、リゾートで着る様なド派手な奴か、肩出し超ミニのギャル系ワンピしか無い。

 見る分には良かったけれど、買っても着る機会がなかなか無いと思う。

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