置き去りにされて追放されたけど奴隷から解放された上に超一流のクラフト士になってクソ令嬢達を見返してやったのです

磨糠 羽丹王

生き延びた者と栄華を掴む者

手に入れた平穏

第1話 「置き去り」

「ごめんレイ。わたし転移スクロールを使って帰還するわね。あんたも自分の使いなよ……持ってるならね! じゃあね!」


「えっ……わたし持って無いから一緒に……」


 言い終わる前にパクティが目の前から消えました。

 転移スクロールとは、ダンジョンで迷ってしまった時や、敵が強すぎて死にそうになった時に使うと、帰還きかん魔方陣がある場所に戻れるという便利アイテムなのです。

 私はこの状況になって初めて罠にめられて、置き去りにされた事に気が付きました。

 そういえば、ここ数日変な感じはしていたのです……。


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 ギルドに与えられているファミリアルームで話をしている時でした。


「レイはうるさいのよね。自分達で稼いだお金を何に使おうが、私たちの勝手でしょう!」


 お金の使い方をたしなめると、ドリアが血相を変えて怒鳴って来ました。

 私の所属しているパーティは、パクティがリーダーをしている女性だけのパーティです。

 パクティは剣士、ドリアは攻撃魔術師、ゴウヤは弓使い、ピマンが治癒ちゆ魔術師、そして私は修理士と荷物持ち兼務というパーティ構成でした。


「大体さあ『クラフト』ってスキルが無ければ、あんた本当に役立たずなのよね!」


「そうそう。全く戦えないくせして、装備の修理をするだけで報酬貰おうなんて厚かましいにも程があるわよ」


 ドリアの文句に乗っかる感じで、ゴウヤとピマンまで文句を言い出し、私は言葉の袋叩き状態。

 そして、いつもの事ですが言葉だけでは終わりません。

 ドリアは私に指摘された事に腹を立て、思いきり頬を叩き、勢いで倒れた所に蹴りを入れて来ました。

 そして、痛みに苦しむ私の胸を堅いブーツの底で踏み付けます。


「けっ! インキュバス男性淫魔にも相手にされない『おぼこ処女』が偉そうな口を叩くんじゃないよ!」


 私が指摘したのは、最近街に出来た『インキュバスサロン』にはまり、大金を注ぎ込んでいる事でした。

 インキュバス達は、それはそれは夢の様な快楽を一晩中与えてくれるらしいのです。

 パーティメンバー達は多かれ少なかれ、そのサロンのお客様になっています。

 私がお客様にならない理由は単純。サキュバスやインキュバスは、男女の経験が無い者には、さほどの誘淫ゆういん効果が無い上に、いわゆる一線を越えられないらしいのです。

 それでも楽しませてくれるそうですが、私には興味が湧きませんでした。

 そしてパーティメンバー達は、パーティの貯金にまで手を出し始めたのです。

 このままではパーティの危機に繋がると思い、勇気を出して止める様に伝えたのですが……。


「けっ! しけた顔しやがって! オラッ!」


 私を蹴る音だけが部屋の中に響き渡ります。

 ドリアは最後に私の顔を蹴り上げて満足したのか、そのまま席に戻りました。


「あらあら大変ね」


 ピマンが寄って来て、苦しむ私に治癒魔法をかけようとしています。


「痛い!」


 足にゴウヤの放った矢が刺さっていました。


「あーごめんごめん。げんの調節してたら手が滑っちゃった」


「熱いっ!」


 刺さった矢が炎に包まれます。

 足が焼かれる痛みで転げまわりました。ドリアが刺さった矢に炎の攻撃魔法を乗せたのです。

 苦しむ私を見てゴウヤとドリアが笑い転げ、ピマンがニヤニヤしながら治癒魔法を掛けます。


「レイ大丈夫? みんな酷いわねぇ。でも、あんたが悪いのよ」


「痛い!」


 それから何度も矢が突き刺さり。その矢が炎や氷に包まれて私を痛めつけ、その度にピマンが笑いながら治癒するという事が繰り返されます。

 そして、痛みに苦しみ床をいずっていた時でした、部屋のドアが開き、豪奢ごうしゃな服を着た女性が入って来ました。

 この町のギルドのマスターで町長も務めている権力者の娘、セロリィ嬢です。


「あらあら、私が与えた奴隷どれいが何か芸でもしているのかしら? 私にも見せて下さる」


 セロリィ嬢は苦しむ私の顔を踏みつけながら、虫けらでも見る様な眼で私を見ていました。

 彼女が言う通り、私は街道脇で死にかけていた所を奴隷商人に拾われて、この町でセロリィ嬢のおもちゃ代わりに買われたのです。

 でも、お屋敷でいじめると父親に怒られるので、私を下僕げぼく状態のパクティ達のパーティメンバーにして、いたぶられる私を時々のぞきに来るのでした。

 その後も治癒中に痛め付けられるという、地獄の様な苦しみを幾度も与えられ意識が遠のきます……。


 気が付くと、セロリィ嬢とパクティがニヤニヤしながら何やら密談をしている様子が目に入りました。

 後から思い出すと「父上にバレた」とか「処分」とか「お金はメンバーに」とか聞こえた気がしますが、痛みに苦しむ私にはそれについて考える余裕はありませんでした。


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 その数日後に見知らぬダンジョンを攻略する事になり、安全の為にパクティの後ろを歩く様に言われました。

 初めてのダンジョンでは装備にどれ程の負担がかかるのか分からないので、攻略中に装備の修繕しゅうぜんができる『クラフト』スキルを持つ私を大事にしてくれるのだと、この時は思っていました。


 でも、ダンジョンのかなり深い階層に進み、怪しげな部屋に踏み込んだ途端に、床に魔方陣が浮かび上がり世界が回り始めました。「転移のトラップ」を踏んでしまったのです。

 気が付くとパクティと二人で見た事も無い場所に居ました。

 そしてパクティは直ぐに転移スクロールを使い、私を残して消えてしまったのです。


 私は見知らぬ土地に置き去りにされ、捨てられたのでした。

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