迷宮都市ダンジョンヒブリア

 帝国領南東にひろがるヴェリ森林は、魔法王国の北方に広がるエレアラント森林とつづくいにしえの森だ。

 迷宮都市ダンジョンヒブリアはうっそうと生い茂る古いヴェリの森のなかにある。

 踏み慣らされた塵の積もった黴くさい道を1日と歩けば、深い渓谷があらわれる。谷底へと降りるを道を見つけたなら、足を踏み外さぬようにくだるだけだ。


「ごちゃっとしてるな」


 それがダンジョンヒブリアにたどり着いた時の感想だった。

 谷底は木一本生えていない完全に人の手がはいった土地になっていた。

 偉大な自然のなかを進んできた側からすれば、深い森のなかに突然と文明圏が現れたことに奇妙な思いを抱く。


 道が基本的にせまく、人口密度がやたら高い。

 通りの店先ではダンジョンで発掘された低級のマジックアイテムが陳列されている。高価なものは露店などにはなく、どっしり構えた店舗のなかにある。


 武器を鍛える音もあちこちで聞えた。

 鋼をカンカンっと打つ音だ。

 熱そうな工房の周辺では筋骨隆々の男たちが鋼を鍛えている光景があちこちで確認できる。ダンジョンヒブリアはダンジョンの町であると同時に、鉱山都市でもある。そのため産地直送の鍛冶場が多いのは納得のできるものだった。


 想像通りというべきか、冒険者の姿が目立った。

 大きな武器をさげているのは対モンスター戦闘を想定しているがゆえだ。

 人間相手ならもっとちいさくていい。

 圧を使える相手を想定する場合はおおきな武器も視野にはいるが……圧を使える人間を標的にするのは特殊な立場の人間しかありえないので、例外的である。


「ブラックコフィンを背負ってても目立たないですね」

「キサラギはJapanese Kawaiiの解放を行ってよいという意味ですか」

「曲解しすぎですよ。しまっててください」


 黒い墓石のような飛行物体が追従していては注目の的だ。

 

 ダンジョンヒブリアへやってきた目的はただひとつ。

 我が父と妹たちを探すためだ。


 狩人協会のアヴォン・グッドマンは彼女たちをこの地へといざなった。

 もし仮に逃げ、隠れ、新しい生活をするならふさわしい土地である。


「アディ達は名前を変えてます」

「偽名を使っているんですか、とキサラギはたずねます」

「一応は改名に近いんだとおもいます。そこまでする必要があるかは疑問ですけどね」


 インターネットもGPSも超能力もない世界でアルドレア家なんていう辺境の一貴族を見つけたことが驚きなのだ。

 住む場所を変えられたら見つけられるわけがない。少なくとも簡単にはいかない。

 

 念には念を入れてと言う事だとは思う。

 怪物派遣公社がどれだけ人探しに優れているかは未知数なのだから。


「新しい名前はなんというのですか?」

「アーヴァントルア」


 アディ達はアルドレアという名前を捨てている。

 なのでアディフランツ・アーヴァントルアを探せばよい。


「なにはともあれすぐに見つかる話でもないでしょうし、宿を取りましょう。お金はある程度のあるのでそこそこ良い宿を」


 宿はいっしゅんで見つかった。

 流石は冒険者の町、選び放題であった。

 収入に応じて、嗜好に応じて、10歩も歩けば次の宿が見つかる。


 どことなく御手製の増築改築しまくりの違法建築間あふれるスラムのような雰囲気が気になったので、できるだけ治安の評判のよい地域の宿をとることにした。

 拠点を設置し、さっそく人探しをはじめる。

 

「ゲリラライブをして良いですか、兄様」

「普通にだめですよ。キサラギをひとりになんかできませんから」

「兄様のキサラギへの信頼はいまだ低そうです、とキサラギ肩を落とします」

「別にそういう訳じゃないですけど……」


 キサラギは純粋だ。

 なんとなくだけど悪い人が騙そうとして来たら、そのままどこかへ連れて行かれてしまうような気がする。


「まあ、あとは僕の用心棒ということで」

「それならば仕方がありません、キサラギはアンナの代わりを見事に全うしてみせます」


 宿屋からほど近い酒場に入り、聞き込みを開始した。

 まだ夜になっていないが店を開けている風変わりな酒場だ。

 偏屈そうなじいさんがカウンターに立っている。


「失礼、ご主人、人を探しています」

「入店そうそうに不躾な若者だな。まずは注文するのが礼儀というものじゃないか」

「なるほど。それじゃあ良い葡萄酒を」

「そちらのお嬢さんは」

「同じもので」


 キサラギは飲まないけどね。


「アディフランツ・アーヴァントルアという人物をご存じですか。丸メガネをかけた黒い髪の40代です」


 アディの特徴を伝えていく。


 マスターが葡萄酒を二杯、カウンターテーブルに置く。

 交換するように、俺は紙に描かれた似顔絵を置いた。

 キサラギ画伯の描いたアディの顔だ。

 彼女は自分の記憶のアディをそのまま紙に描写することもできるので、絵の趣向・質がこの世界の絵描きとはいろいろと違ったりする。

 幸いにして22世紀の地球から持ち込まれた目に映るものを正確に描写する技能は大変に評価されている。マスターも例外なく目を大きく見開いて驚愕していた。


「すごい絵だな……まるで生きた人間のようだ」

「うちの妹は天才絵描きでして」

「ぶいっとキサラギは半眼で己の才能を誇示します」

「本当に才能あるな……ああ、えぇと、うん、見たことあるな。何度もある。この町に住んでるよ、間違いない」

 

 さっそくヒットだ。素晴らしい。

 直観に身を委ね、この店にして正解だった。


「どこに住んでいるか知っていますか?」

「うーん、知り合いではないからな。ああ、でも、そうだ、彼を知ってそうなやつを知ってる」

「知ってそうなやつですか。だれですか」

「そうだなぁ、最近は物忘れが激しくてね」

「なるほど」


 俺はマニー銀貨を4枚取りだしてカウンターに置いた。


「ああ、思い出したよ」


 マスターはそう言って饒舌に手がかりの居場所を話しはじめた。

 金を多めに調達しておいて正解だった。



 













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 こんにちは

 ファンタスティックです


 諸事情により『異世界に追放されました。二度目の人生は辺境貴族の長男です。』の更新頻度を落とさせていただきます。新しい仕事をはじめる都合と説明させていただきます。

 しばらくは2日に1回のペース落とす予定です。もしかしたら3日1回にペースになるかも……もしなる時はまた告知いたします。


 よろしくお願いします。

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