王と忠臣の茶会 2
「そんな才能がお前の親族にいただなんて知らなかったぞ」
「い、いえ、私も知りませんでしたけど……」
ヴォルゲル王もキンドロも2人して目をしばたたかせる。
「どうにも私の娘を助けてもいたらしい。その魔術でもってな」
「そんな才能を知らず失っていたなんて……あるいは生きていれば、なんとかなったのか……」
キンドロは想いを馳せる。
15年前、ちいさかった赤子を見た時の記憶を回想する。
だが、すぐにもうこの世にはいないことを思いだす。
過去を思っても仕方ない。
どれだけ惜しかろうと、死んでしまえば決して手は届かないのだ。
「あわよくば、いえ、ありえませんが、もし叶うなら、一度会ってちゃんと話をしたいものですな」
「私もだよ。クソ、エフィーと喧嘩するのがあと1年遅ければ……」
「嘆いてもはじまりません、我が王よ」
「耳の痛いことだ」
王は疲れた表情でやるせなく首を横に振った。
昔話に花を咲かせるのもほどほどに、いよいよ2人は会議の延長戦をはじめる。
「して、お前個人の見立てではいつごろはじまりそうだ」
「ポロスコフィン領内の動きから鑑みるに、はやくて秋二月の頭あたりかと」
現在は3062年の夏二月。季節は夏三月、秋一月、秋二月と移りゆく。
すでにさほどの時間は残されていなかった。
「せめてバンザイデスが無事であれば武器供給、訓練場の設営、なにより戦力の確保ができたのだがな。吸血鬼め、よくもこんな大事な時に暴れてくれたものだ」
「申し訳ございません。銀の武器を配備し、常駐の狩人をもって私が対応をできていれば……」
「皆まで言うな。やつらは天災のたぐいだ」
ヴォルゲル王はキンドロを気遣うように言った。
王であるヴォルゲルは、人類保存ギルドと接触を計れる数少ない人間である。
ゆえに狩人協会が再三うるさく銀の武器の配備と、狩人を雇うことを警告してきていたことも知っている。それを無視してきたのは20年に渡る王族派と貴族派の水面下の戦い、すなわち人間と人間の戦いに力を注いでしまったためだ。
「王よ、して協会はなんと申しておるのですか。返事はあったのですか?」
「ああ」
「っ、では、なぜ先の会議でそのことを」
「……狩人の派兵はない。当然と言えば、当然ではあるが」
ヴォルゲル王は自嘲気な笑みをうかべる。
「人類保存ギルドはあくまで怪物と人類の戦いにのみ干渉する力。人類全体の守護者であり、一国の内戦に干渉することはないとのことだ」
「不義理な連中ではありませんか。人間同士の戦争が起きぬよう、彼らは均衡を保つと約束していたのに。いざ戦いになればなにもしないなど」
「そう言うものではない、ハイランド」
キンドロとて狩人協会が人間同士の戦争を直接にどうこうしてくれないことはわかっていた。臆病だが、聡明な男である彼は、それでも今自分の領地が脅かされているのに、超越的な戦力を誇るかの英雄結社が、なにもせず傍観を決め込み、領地の人間が死ぬことを黙認しているように思えてならないのである。
(狩人よ、お前たちならどうとでもできるのではないのか……っ)
キンドロは悔しさに歯噛みした。
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