無慈悲に
通路を進んでくる敵は、鎧を着込んでいて、ボウガンで武装していた。
クリスト・カトレアの兵士である。
機構が複雑で維持費がかかる高価な武器を兵士に配備できるのは、規模の小ささと、経済的な豊かさがある都市国家ならではだ。
だれにでも扱える強力な武装である。
目の前の敵は4人。
アーカムはメルオレの杖を抜き、通路の暗がりから一歩踏み出すとともに、最初の1人を風で撃ち抜いた。風の打撃を受けた兵士は、白目を剥いて、膝から崩れ落ちる。
残り3人が反応し、アーカムへボウガンの狙いをつける。
しかし、それでは遅いのだ。この狩人を相手するには遅すぎるのだ。
アーカムは速射は魔法界でも有数のものである。
彼らがトリガーを引くよりも速く、《ウィンダ》を2発放ち、兵士の頭をばっこーんと弾き、あっという間に3人を無力化してしまった。
残りの1人がトリガーを引いた。
放たれる短矢。
サイズの関係上、弓よりも威力に劣り、魔力も圧も込められない代物だが、命中さえすれば、人を殺すに十分な威力を持っている。
しかし、放ったからといってアーカムの敵ではない。
アーカムは直感で矢がどこを狙ってるのか、どんな軌道で飛んでくるのかわかってしまうのだ。極めつけは、夜空の瞳で矢尻の歪みまで解像度をあげて見えているので、もはやボウガンが命中する要素がゼロに等しかった。
剣気圧が使えなずとも、楽々と素手で矢を掴み取り、止める。
ぽいっと矢を捨て、無言で4発目の風弾を撃ち、兵士を気絶させた。
(この兵士、カイロさんの王家の指揮下に騎士団所属してるはず。それにこの数は……なるほど)
「
″そいつ″が暗がりから出てくる。
年齢は30代前半。ボールペンサイズの金属の棒のようなものをくるくる回して弄びながら、カツカツと靴底を鳴らし、アーカムの15mほど手前で立ち止まった。
「
「伊介天成、そうはいかない。裏切り者は制裁を──古くよりある言葉だだろう。ツケは払ってもらわねばこまる」
マナニウムが色を持って輝きだす。
神宮寺が力を解放したようだ。
(
「先程は不意打ちを喰らったが今度はそうはいかない。私の本気を見せてやる。お前は無慈悲に蹂躙される命のやり取りに震えることになる。命乞いをするんだ、この私に」
神宮寺は嗜虐的な笑みを浮かべた。
直後、強力なサイコキネシスがアーカムへ向かって放たれた。
不可視の攻撃が、空気中の塵を押し退け、壁や床を揺らすことで可視化され、高速でせまる。
アーカムは《イルト・ウィンダ》を砲撃として真正面から撃ち、衝撃をぶつけて相殺した。
「私のサイコキネシスと同等の威力……か」
駆けだす神宮寺。
アーカムは身構える。
神宮寺は両手にポールペンのような金属の棒を一本ずつ持っている。
(接近戦を仕掛けてくるか)
『あの金属の棒、特殊な素材で出来ているぞッ! マナニウム合金だッ!』
(となると、触媒か、あれを刺して対象に催眠術をかける、とかな)
超直感は今日も冴え渡る。
金属の棒の鋭利な先端が、アーカムへ振り抜かれる。
上体をそらして避けると、離れざまに《イルト・ウィンダ》の風槍を放った。
カテゴリー5には威力不足が目立ったが、カテゴリー4ならば致命傷になる。
なぜなら
しかし──風槍は神宮寺をすり抜けてしまった。
背後へ飛んでいき、遺跡の壁に大穴を空けるだけで終わった。
遺跡が激しく揺れた。
「通り抜けた、だと……」
「はは! 忘れていた! 私は
「そうか」
「驚いてくれたかな、それとも絶望してくれたか。お前の攻撃などひとつも通用しないとわかって諦めたか?」
「いいや」
アーカムは澄ました顔で、されど無慈悲に魔術を切り替える。
「ならこれも透過できるのか理科の実験をしてみよう──《ポーラー》」
「なにをやっても無駄だ。魔術なぞで倒せる我々ではな──」
言いかけた神宮寺の上半身は、凍てつく氷の礫で、凍結させられてしまっていた。
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