翻訳実験

今村広樹

日本語

 凪島は南洋諸島にある島の1つで、秋月国を構成する3つの島の1つだ。主要都市は久川市である。南洋諸島で数少ない雪の積もる島として知られている。

 初雪が降った日、久川市のミドルマーチと呼ばれる街にあるお屋敷で、修羅場があった。

 屋敷にかわれていた犬は顔を真っ赤にして怒りをぶちまける主人である男を見ながら、寂しそうな目をしている。怒りをぶちまけられた相手は、半裸の男で、主人と仲良く、犬と一緒に狩や散歩をしていたこともある。そのかたわらでは、主人の伴侶がザメザメ泣いていた。

 犬には何故主人が友人にたいして怒り、主人の伴侶が泣いているのかわからない。ただ、かれらの周囲にあるイヤな気配を感じて、哀しい気持ちになるのだ。

 やがて、激昂した主人は友人に燭台で殴りかかった。しかし、主人の伴侶が間に入り、燭台は彼女の頭にあたった。主人はハッとした顔をして、そのまま部屋から出た。後に残ったのは茫然自失とした友人と、赤い液体が頭から出ている主人な伴侶だけだった。犬はその赤い液体とともに命が失われていく主人の伴侶のかたわらに座り、クゥンと哀しげな声をあげた。


 その屋敷のメイドはのちに警察にこう供述している。

…ええ、このお屋敷の主人である◯◯伯爵様は奥さまに対して口に出すのもはばかられるほどの行為をなさっていました。友人の◯◯氏はそれに同情的になり、やがて恋仲になったのです。そして◯◯伯爵様はそれに気づいて、事件当日に、それについて問いただされようとしていました。

 深夜、◯◯伯爵様がドタドタと慌てたように出ていかれましたので、不吉な予感がししたわたしは、寝室に行ったのです。

 そこでは、倒れていた奥さまと、茫然自失としている◯◯氏、そして犬だけでした。

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