2:過ちと忘れられた約束
酒場を出て中央の道を一人歩いていく
露店や町を歩く人々の喧騒を聞きながら一人で歩いていると嫌でも思考が働いてしまう。
(...今までは常に誰かと一緒だったな)
ハウェルと一緒に武器や防具を見て回ったりアレッサに頼まれて荷物持ちもした。
…あいつと良くデートしたのもここだった。
「――!」
思い出したくもないのに一人で歩いていると嫌でも頭の中で浮かび上がっていく、なまじ楽しい思い出だった故に今では忌々しくて仕方がない。
「―――って!」
さっさと町を出てしまおう、この町は思い出がありすぎる…これ以上いたら自分が辛くなるだけだ。
「お願い!待って!」
今一番聞きたくない声と共に腕を掴まれる。
気を静める為に息を吐いてから振り返る。
「…なんのつもりだ?今更お前と話す事なんかないんだがな、リリア?」
「お願い、話を聞いて!このまま別れたくなんてないの!」
「話す?何を話そうっていうんだ?2年間付き合っていた俺を放って置いてセネクに抱かれ乱れていたお前の何を聞かせようっていうんだ?」
「っ!」
息を切らせたまま腕を掴むリリアの顔が歪む。
その表情を見ても心が痛まない、むしろなんでお前が被害者面してんだと苛立ちすら沸く。
…少し前ならこんな事考えもしなかっただろうな。
「…ごめんなさい!心細かったの!あのクエストがいつ終わるか分からなくて…レイルも私にそういう事しないから私に魅力がないんじゃないかって不安もあって...」
リリアの声が段々と尻すぼみになっていく、確かに魔物の巣討伐は大規模な合同パーティーかつ長期間のクエストだったし、それでなくてもここしばらく立て続けにクエストをこなすのに全員必死で二人の時間は取れなかった...だが。
「やっぱり忘れたんだな、俺とした約束を」
「え?」
「1年前、お前は俺が迫った時拒否したよな?
その次の日にお前は心の準備ができるまで待って欲しいって言ったんだ、その時約束しただろうが!俺から求めたり無理強いはしないってな!」
感情のままにリリアに向かって叫ぶ、恋人となり1年経って仲を進展させたかったレイルは彼女に迫った、その時リリアはレイルを拒絶して逃げると翌日にそう言ってきたのだ、だからレイルもリリアを怖がらせない為にそう約束した。
彼女はそれを思い出したのか顔を青ざめるどころか蒼白になる、もはや力の入ってない指先を振り払って睨みつける。
「確かにあれから忙しくて辛い日々が続いてた、お前と話す時間すら少なくなっていった…だけど俺はお前を信じて待っていたんだ!」
「…!!」
「だけどお前はそうじゃなかった!お前が抱かれたかったのは俺じゃなくてセネクだった!結局はそういう事だろうが!!」
感情のままに怒鳴る、今も脳裏に焼きついているのだ、信じていたリリアが自分じゃない男に跨がって見た事もない女の顔を晒していた光景が自分の中の醜い憎悪を燃え上がらせる。
一時の感情に約束を忘れて流される、彼女にとってレイルとはその程度の存在だったという事実を突き付けられたのだから。
その場にへたりこむリリアを見下ろす、その姿すら同情を誘う為の行為としか見えなかった。
「もうお前等を見てると我を失いそうになるんだよ、今すぐにでも斬り殺したくなる位にな…頼むから俺に好きだった人を殺させないでくれよ…」
気づけば涙が流れていた、感情のままに叫んだせいか頭の中もグシャグシャだった。
周りに出来ていた野次馬を一睨みして散らすと町の出口へ向かう。
「…ごめ、…なさい、」
背後から聞こえるすすり泣く声に耳を塞ぎながら…。
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