第7話 推しが家に来る④ 〜泣き面に蜂〜
前回のあらすじ
推しに部屋がイカ臭いと言われた。
以上。
何てまとめられるか!と心中で自分にツッコミを入れた。
何でだ?何でそんな匂いが…?
別にそんな匂いはしてないはず…いや自分の部屋だから匂いにも鈍感になっていたのか…?それとも焦っていたからか…?
ただどちらにせよ、その原因となる行為(明言はしない)を俺はここ最近していないはずだ。
ならば何故…
まともに有栖川(仮称)の顔を見ることができない。
「あ!」
と、思わず声に出してしまった。突如とした大声に有栖川(仮称)は怪訝な顔で俺を見る。
そうだ!
おつまみだ!
おつまみの中に確かにあった。コンビニで買った燻製さきいかのスルメの袋が。
食べたことがある人は分かるだろうがアレらはかなり香りが強い。
味はとても美味で食べ応えも歯応えもあるのだが、車などの密室空間で食べようものなら一気にその匂いは部屋一杯に充満する。
おまけに俺は開けっ放しで決して広く無い部屋に丸一日放置していたのだ。
そんな状況ならば、イカの香りはいとも容易く部屋を占拠するだろう。
「ねぇ、どういうこと?」
有栖川(仮称)は軽蔑の眼差しを向けているが、俺に後ろめたいこと等一切ない。
そうだ、しっかり弁解すべきだ。
「い、いや違うんだ!イカ昨日食べたから!ほらこれが原因なんだって!」
俺はゴミ箱に手を突っ込んで目的物を取り出して差し出して有栖川(仮称)に見せる。
「え…」
思っていたよりも反応が悪い。ここで言う「悪い」と言うのは反応が鈍いという意味では無く、文字通り何やら良くない反応を示しているという意味だ。
なんでだろうか、と俺は持ったゴミを見た。
「あ」
さきいかの袋は確かに持っていた。それは間違いない。
しかしその袋にあるものが付着していた。
丸められたティッシュだ。
「えと…」
いやこれも誤解である。これはテーブルを乾拭きした際に利用したものであって、そういうアレをアレしたものでは決してない。
「こ、こ、この…!」
「いや違う!これはテーブル拭いたやつで決してそういうものでは!
「この変態!!!!!」
有栖川(仮称)は顔をを真っ赤にして俺の頬をビンタしようとする。
しかし、そこら幽霊であるから、俺の顔をすり抜けてそのまま空振りしたような形を取る。
「ッ……!!!」
声にならないような声を上げて、そのままプイッとそっぽを向いてしまった。
「いやマジで全て誤解なんですって…」
どんな人間も一旦思い込むと中々修正するのは難しいものである。
それは幽霊になっても変わらないようで、彼女の機嫌もそう簡単に直らない。
「…ちょっと独りにさせて」
「え…ってあ!そこはダメだ!!」
あろうことか、有栖川(仮称)はスーッとクローゼットに入っていったのだ。
そしておそらくポスターを見たんだろうなというのが想像出来た。
「きゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!」
甲高い悲鳴がクローゼットから鳴り響いた。
推しの気持ちを考える。
死んだと思ったら良く分からない男子大学生に憑いており、その男の部屋からは自家発電した痕跡とクローゼット奥にデカデカと貼られている自分のポスター。
どう見ても、このままでは俺は有栖川(仮称)にとってド変態ストーカーの評価を得ることになってしまう。
そう考えた俺は、人生を賭ける意気込みで彼女の説得を試みようと決意したのであった。
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