第4話 推しが家に来る①
「はぁ…」
次の日、俺は寝不足になった。
お手洗いを出た後も有栖川姫(仮称)は俺の後をついてきた。
本人曰く離れたくても離れられないらしいが、事情はともかく、つまりは四六時中近くに推しがいるようなもので。
歯を磨く時も
「君もうちょい奥の方も磨いた方がいいんじゃない?」
と隣で茶々を入れ、
就寝する時も
「おやすみー!」
と俺にしか聞こえないのをいい事に元気はつらつな声を響かせ、
その挙句
「ねね…あの…真っ暗な病院めっちゃ怖いから寝るまで近くにいてもいい?」
と自分が幽霊であることはまるで無視して、平気でこちらの気が動転するような事を言う。
そんなこんなでこちらとしては一時も気が休まないものであったということだ。
◇
寝不足である以外体調自体は元気であったので予定通り退院が決まった。
目に隈を浮かべながら受付で会計を済ませ、病院を出ると朝日が眩しく俺たちを照りつけた。
「うっわ眩しーっ!!」
彼女は背後で眩しそうに手で目を隠してう〜ともあ〜ともつかんような呻き声をあげている。
有栖川姫(仮称)は陽の下に出ても問題ないようだ。
「幽霊って陽の下はダメなんじゃ」
「それは吸血鬼でしょ」
「あ」
真顔で返された。確かにその通りである。
「織田くん?って天然?」
有栖川(仮称)はニヤニヤしながら上目遣い気味にこちらの顔を覗き込んできた。
「いや違うよ」
心中ドキッとしながらも外に出さないように努めて冷静に返す。
「天然の人って皆否定するんだって」
「だって本当に違うし」
「嘘だー!」
「別に嘘じゃないし!てかなんなんですか急に!そんな俺に興味あるんですか?」
「いや全く」
いやないんかい。
過度な期待は身を滅ぼすというのとなのだろうか。
「ま、ともかく君のおかげで久しぶりに外に出られたわ。それにしても外ってこんな鮮やかだったのね!」
そんなウキウキルンルンしてる彼女を見て、俺はふと思った。
「あのもしかして、このまま家まで着いてくるつもり?」
そう訊ねると、有栖川姫(仮称)はあんたバカァ?とでも言わんばかりの呆れた表情を浮かべた。
「あったりまえでしょ?私は君から離れられないんだから」
確かに昨晩から彼女自身にそう言われている。
「いや、まあそうなんだけど…さ」
「なによ、その煮え切らない反応は?」
「い、いや別に…」
推しが家に来るにあたり、俺には懸念事項がいくつかあった。
懸念①
自分のパーソナルスペースがなくなること。
懸念②
隣人の東堂
懸念③
家にある有栖川姫の写真集やポスター、日めくりカレンダー等のグッズ
パッと思い浮かんだだけでも懸念がいくつも上がった。
①、②は最悪俺が色々頑張ればなんとかなる。
しかし③に関しては俺のプライドのため何としても阻止しなくてはいけない!
もし今の記憶が無い彼女にバレでもしたら「え…何この数…ごめんちょった引くわ…」とか言われそう。
いや待て。「え、こんなに私の事好きなの…?嬉しい!キュン♡」という可能性は…
うん、これは絶対無い。
「どうしたの?」
「いやなんでもない!大丈夫!ちょっと部屋が散らかってるから先に掃除しないとなぁつて!はは!!」
「別に気にしないわよ。私死んでるし」
「いやいやいや!素敵なお客さんを我が家にご招待するのに生死なんて関係ないから!そう!博愛精神で清潔な心と部屋でウェルカムしたいから!」
脳を通らず反射で口からでまかせがすらすらと出る。人間追い詰められるとこうも豹変するものなのか。
「ちょっと何言ってるかわからないけど…とりあえず歓迎してくれるのね?」
ありがとっ!と有栖川姫(仮称)は微笑んだ。
俺にとってはその笑顔は真上で照る太陽よりも眩しく、俺の顔を熱く紅潮させる。
次回、漢織田の人生を賭けた自宅攻防戦VS有栖川姫(仮称)が始まる。
のだろうか?
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