第5話 入学式と新たな出会い

 今日は入学式。

 なのだが、朝から俺は頭を抱えていた。

 その内容とは、


「やっぱ時間ずらして登校した方が良いって! 入学初日から辺な噂されるとお互い困るでしょ?」

「私は一向に構わんッッ! というか、どうせそのうちバレるって、腹くくろ?」


 入学式、登校をどうするかというものだ。

 というか、なんで急に烈さんが出てくるんだよ。あの人は異世界に行っただろ。

 だめだ、マヒロの巧妙な手口で話が逸らされた。


「でも入学初日から変な噂にならない? 彼女連れで入学してきた不届き者みたいなレッテル貼られるの嫌だよ?」

「かっかのっじょ……別に、いいじゃん?」

「嫌だよ! 陰キャ友達を作りたいのに、彼女持ちって分かると陰キャは彼女持ち離れてくんだよ! ソースは俺」

「そんなに嫌……?」


 そう、弱々しく見上げてくるマヒロ。

 破壊力は抜群で、気づいたら俺は「一緒に登校しよう!」と勢いよくドアを開けていた。

 友達作りは未来の俺が頑張ってくれます。



 登校中、思ったより視線が集まらない。

 通学路には新入生とその親が溢れていて、結構ぎゅうぎゅう詰めになっているからだ。

 だから、隣を異性が歩いていても気づかれないんだろう。

 良かったぁ……


「高校生活、楽しみだね」

「楽しみだけど、友達が作れるかだけが心配」

「? どういうこと?」

「コミュ障には色々あるんだよ」

「そう、頑張ってね」

「頑張る……と、そうだ」ここからは小声で、「今日は勢いで一緒に登校してるけど、もし学校でこのことを聞かれた時は、中学がおんなじで登校中たまたま会ったから昔話に花を咲かせていたって答えることにしよう」

「えー……まあ分かった。どうせ……じゃなくて、同居のことは内緒ね」


 この調子だと多分学校の人にはバレてないだろうけど、一応だ。


「あと、学校の近くまで行ったら別々に入ろう」

「うん、バレないようにするためだよね?」

「そうそう、世間体が悪いから」

「世間体……邪魔だね」


 マヒロはだいぶ過激派の意見だなと聞き流しつつ、足を進める。

 すると、話題に呼応するように学校が見えてきた。


「じゃあ、こっからは別行動で。また後で」

「うん、また後で」



 1人で学校に入る。

 しかしあれだな、ここ2日間はずっとマヒロと行動を共にしていたからか、離れると少し寂しいな。

 なんて、状況に毒されすぎた感覚を持って、玄関に張り出されているクラス表を見る。

 1組、ない。2組、ない。と順に見ていくと、俺の名前はやかわたいきは7組の欄に書かれてあった。

 次に、『小鳥遊万尋マヒロ』の名前を探す。

 もしかしたら、同じクラスになってるかも……なんて、淡い希望を抱きつつ7組を先に探すと、あった。

 7組に、小鳥遊万尋の名前が。

 軽くガッツポーズを決め、教室に向かおうとすると、


「やったぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」


 と言う知らない女子生徒の声が聞こえてきた。

 こわっ、そんなにいいクラスに入れたんだろうか。

 あ、ちなみにマヒロではない。声が全然違う。

 そもそもマヒロはそんなことで叫ばないタイプ。



 謎に叫んでいた女子生徒が気になりつつ教室に戻ると、既にいくつかのグループができていた。

 この素早さでできているグループは多分、同じ中学が集まっているのだろう。

 それと、マヒロの席は……結構遠いな。どう言う席順なのだろうか。

 できれば近くが良かったんだけど。

 そんなことを思いながら自分の席に座ると、


「タイキ、でいい?」


 後ろから気だるそうな声で話しかけられた。

 名前を急に呼ばれるのゾクっとするな。

 声の主がどういう人物か気になり後ろを見ると、体を机に体を寝そべらせた線の細いイケメンが見えた。

 くそっ、イケメンかよ……。あれ、でもなんで俺の名前知ってるの?


「ど、どちら様?」

「僕はね、とある女王様に命令されて君に近づいたスパイみたいなもの」


 なるほど、どうやら頭のおかしい人らしい。

 残念イケメンというやつか。

 波風を立てずこの場を制して、それから先は近寄らないようにしよう。


「なるほど、それは大変だ。では俺はこれで……」

「待って、僕を助けると思ってもうちょっと仲良くなって」


 助ける……とは?

 ちょっと気になったから、予定を変更してもう少し話してみる。

 このチャンスを逃せば、他に友人ができる保証もないし。

 コミュ障には話しかけてくれる相手が必要なのだ。うん。


「初対面でもうちょっと仲良くなってって言われるの初めてなんだけど」

「ごめんごめん、ちょっと言動がおかしい自信はあるけど、それだけ必死って分かってよ」

「入学初日からそんな必死に俺に近づく必要、ある……? 自分で言うのも悲しいけど、そこまでして仲良くなるような人間じゃないぞ、俺は」


 本当にちょっと悲しくなってきた。

 人より優れているところなんて、legend gunの腕前くらいだろう。


「いやー、君と仲良くして橋渡しの役割をしないと女王様に殺されるんだよね。ちなみにこんな話をしていることもバレたら殺される」

「大変な女王様を持っているようで」

「本当大変だよ……と、そろそろ痺れを切らしたか、我慢ができなくなったか、どっちかは分からないけど女王様がこっちに向かってきてるね。まあ、そんなことだろうとは思ってたけど」

「え?」

「じゃあ頑張って、あ、僕との会話の内容は内密にね? そうしないと人が1人死ぬ」

「え?」


 話についていけず、呆けていると、


「ひっ、久しぶりね!」


 どこか聞き覚えのある声が聞こえる。

 後ろの謎イケメン(そういや名前聞いてなかった)に向けていた顔を前に戻すと、ズンズンと俺に近づいてくる少女の顔が見えた。

 長いツインテールに、若干のつり目は勝気な印象を受ける。くびれた腰と女子にしては高い身長は、モデルをイメージさせる。

 そして何より目につくのは、その大きな胸だ。高校生の発育ではない。

 なるほど、この子が謎イケメンが言ってた女王様とやらか、たしかにどことなく覇気を感じる。

 それで、どこで聞いたんだっけな、この声……そう、少し記憶をさかのぼると、すぐに答えが出た。


「ああ、クラス表の前で叫んでた人か」


 あの時の叫び声と完全に一致する。

 よし、スッキリ。


「そんな不名誉な覚え方! わたしよ! 冬乃!」


 その名前にも、聞き覚えがあるような、ないような……


「ごめん、覚えてない」

「……本当に覚えてないの?」


 うるうると目を震わせる冬乃。

 それを見ると、いくつかの思い出がフラッシュバックした。

 小学校の時、いじめられて泣いていた少女を遊びに誘った記憶。

 公園で2人で遊んで、帰る時間になると少女は泣いていた記憶。

 最後にお互いの名前を教えあって、確かその少女の下の名前は、冬乃だった。

 なるほど、合点がいった。


「小学校の時公園で一緒に遊んだ、泣き虫の冬乃か!」

「結局不名誉な覚えられ方じゃない! ……でも覚えてもらってて、うれしい」

「ちょろっ」

「雪男は黙ってて!」


 後ろの謎イケメンが急に会話に参戦してきた。

 謎イケメンは雪男って名前なのか、覚えておこう。

 それと、この2人の関係性は何? 恋人? 兄妹?


「でも、一回しか遊んでないわたしの事を思い出せるなんて、普通にすごいと思う!」

「あ、ありがとう。まあ衝撃的な記憶だったから」


 本当に衝撃的な記憶だったから思い出せたんだろう。

 女の子を救うなんてファンタジーな体験、あれ以来してないんだから。


「あの時は本当、ありがとう……わたし、ずっとありがとうを言いたくて」

「そこまで気にしなくていいよ。てか、良く俺が分かったな」

「たまたまよ!」


 照れ臭そうに言う冬乃。

 涙目になったり、嬉しそうになったり、感情がコロコロ変わる様子を見て、公園で遊んだ頃を思い出す。


「本当……姉ちゃんはタイキのことになると弱いんだなぁ」

「雪男は黙っててって言ったでしょ!」


 少し思考をトリップしているうちに、雪男が冬乃に絞められていた。

 なるほど、これが女王様か。

 あ、雪男が姉ちゃんって呼んだってことは、この2人は姉弟なのか。

 新たなる発見を記憶に刻む。


「よし、そ、それでタイキ君は最近どんな感じ?」


 最初の「よし」は雪男を絞め落とした「よし」だろう。

 雪男はぐったりと机に項垂れている。元からそんな感じだった気もするけど。

 それで、どんな感じ……か。

 馬鹿正直に答えるなら、2年間男だと思ってた相棒が実は女でさらに一緒に住んでます。なのだが、それは言えない。

 じゃあ、元気だよ、とか? しかしそれも味気ない。

 コミュ障にはこの質問辛いぜ……

 そんな沈黙の中、


「やっと解放された! タイキ!!」


 ズンズンとマヒロが向かってくるのが見えた。

 今日は良く女の子にズンズンと来られる日だなぁ。

 冬乃と雪男はほーんとしている。

 自分たち以外に初日から積極的に俺に話しかける奴なんていないと思っていたのだろう。

 ってそこじゃない! 俺たちの関係を怪しまれたらバレたらどうするんだよ!


「俺たちが不必要に仲良くしてたら、同居バレるかもだろ」


 マヒロの耳元に近づき、声を殺して言う。


「耳元で何か言うって態度自体がだいぶ怪しいと思う……あと、耳はやめて、ヤバいから」

「あ、ごめん」


 言われるがまま、耳元から離れる。

 そして雪男と冬乃を見ると、大きく目を開けてこちらを見ていた。

 あ、俺が下手打ったな。

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