FPSの相棒を同居に誘ったら美少女が来た

カナラ

第1話 2年間男だと思ってた相棒が美少女だった

 昼休み、学校の中庭。ゆらゆらと波打つ木漏れ日は、適度に体を温めてくれる。


「ふんふんふーんふん」


 そんな中、楽しそうな鼻歌を聴きながら、世界一の枕で昼寝を味わっている。

 軽く寝返りを打って空を見上げると、そこには首からヘッドフォンをかけて、緩く猫耳パーカーを羽織った黒髪美少女の姿があった。

 俺の親友で、相棒で、そして……俺の彼女だ。


「なあ、頭重くないか?」

「重いけど、私はこのままがいい」

「それは……なんで?」

「タイキの顔が、よく見えるから」

「それはっ……まあ、いいけどさ」

「かわいい」


 そう、蠱惑的こわくてきに笑う彼女。

 俺は寝返りを打ちながら、どこでこの幸せな運命を辿れることに決まったのか、思い出していた。


────────────────────



「SE方面ワンパ」

「了解、牽制は任せろ」


 パっと、ピンを刺す音がなった。

 指示に従って、素早く正確に銃口を向ける。

 銃口が敵を捕らえる寸前から引き金を引き、バババッと自動小銃アサルトライフルが火を吹く。

 放たれた弾は正確に吸い込まれていき、敵が隠れるまでに2人の体力を大幅に削ることに成功する。


「2人激ロー」

「分かった、ラスパだし安置も来てるから、回復入れられる前に詰めちゃおう」

「了解!」


 俺は操作キャラの必殺技ウルトで仲間と自分の移動速度を上げて、敵との距離を一気に詰める。


「左よろしく、右はボクが担当する」

「了解」


 2人のショットガンが敵に命中すると、画面にYOU WINという文字が踊り出す。

 俺たちの勝利だ。


「あー、疲れた」

「疲れたね」

「何戦やったっけ?」

「ランクの上がり方的に、15戦くらい?」

「結構やってるなー。どうする? まだまだ俺はいけるけど」

「んー、まぁ若干動きも悪くなってたし、そろそろ切り上げようか」

「そうするかー」


 と、いつもならここから反省会を始めるのだが、今日は少し話したいことがあった。


「ヒロってさ、埼玉住みだったよね?」

「そうだねー」

「で、一人暮らしで俺と同い年だったよね?」

「そうそう。よく覚えてるね」

「今から突拍子もないこと言うけどいい?」

「どうぞどうぞ。今更遠慮する仲でもないでしょ」


 ヒロとペアでlegend gun(さっきやってたゲーム)のランクに潜り始めて早2年。

 苦楽を共にした戦友で、ネット友達の域を超えたネット親友と言っても過言ではないのだが、今から言うこれは果たして……

 数秒悩んだ末に結局、言うだけ言ってみるか、という思考に至った。


「俺、今度高校上がる時にそこら辺で部屋借りるんだけどさ、一緒に住まない? 部屋も余るから」

「えっ! 住みたい!!」

「お、おう」


 予想外の食いつきに驚く。

 だいぶヤバいこと言ったと思ったんだけど。

 普通、そんなノータイムで答えられないよね?


「あっ、でもタイキの親御さんは許してくれてるの?」

「それは大丈夫。うちの親、ネットで知り合って結婚してるから、ネットの交友関係に甘いんだ」

「ネットで出会って結婚……なんか、いいね。うん、ロマンチックでいい」

「そうか? 本人達は世間に認められなかった期間が辛いとか言ってたけど」

「そっか……で、本当にいいんだよね? 今更取り消しって言われたら2週間は一緒にランク潜らないよ?」

「それは困る……ってか、そっちこそ大丈夫なのか? 即答してたけど、親御さんに反対されたりしない?」

「大丈夫大丈夫。あの人らはボクが何をしても許してくれるよ。高校もそこらへんだし」


 それは、子供の行動に寛容な親御さん……ということなのだろうか?

 何かもっと違うニュアンスを感じ取ったが、それを追求することを今は避けた。


「じゃあ、男子高校生2人の同居ってことで。あー、楽しみ。legend gunのランクも楽になるだろうし」

「男子高校生?(あっ……そっか、結局言ってなかったっけ。だから誘ってくれたのか。じゃあ、これで良かったのかも)」

「ん? 全然聞こえない。電波悪いかも」

「あぁ、ごめんごめん。こっちの問題だった。楽しみだねって言ったんだよ」

「ならよかった」


 その後も、色々話した。

 家具をどうするかだったり、間取りだったり、有線が引けてるのかだったり。

 秘密基地を作るみたいに、俺達にできる範囲の夢を詰め込んだ。


「じゃあさ、荷物とか運び終わったら、俺が引っ越す日から早速同居始めようぜ」

「いいね! その日の待ち合わせは、近くで一つお店知ってるからそこでしよう。ボクが予約しとくよ」

「助かる」


 と、ここでやっと会話が止まる。

 テレビの右下についた時刻を確認すると、日付を越していた。


「じゃあ夜も遅いし、そろそろ寝るか」

「そうだねー」

「おやすみ」

「うん、おやすみ。楽しみにしてる!」


 VCを切って、ベットに入る。

 そういや、2年間色々あったけど、結局ヒロの顔を見たことないことに今更ながら気づいた。ちゃんと顔合わせできるだろうか。

 そんなことを考えながら、眠りについた。



 そして、顔合わせ当日。

 指定されたカフェの席には、どう見ても年下にしか見えない背丈の、黒髪美少女が座っているのが見えた。


 …………………………なんで?

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