Game3
目を開ければ、馴染みある部屋の天井が目に入った。
辺りを見ればカーテンの隙間から、日の光が差し込んできて、まぶしくて目をつむる。
まぎれもない、自分の部屋だ。
つい朝までここで寝ていた。そして学校へ向かう途中でトラックに轢かれたはず。
なのに、体に痛みはない。
それに加えて体の疲れがない。
何かおかしい。
そう思ったけど、慌ててベッドから飛び起きる。
早く学校に行かなくては。
まだ寝間着であったが、そのまま部屋を飛び出す。
リビングに行けば、母さんがご飯を作っているところだった。
「学校? 何言ってるの? 入学式は一週間後よ」
何を言っているんだ。
入学式は終わっているだろう?
あの堅苦しい学校に行かないと。課題を出さないと。
でも、母さんが変な冗談を言うわけがない。
どういうことだと思っていれば、つけっぱなしになっているテレビが告げる。
「四月一日。本日の天気は――」
テーブルの上に置いてあった妹のスマートフォン。触るなと言われたけど、勝手に触って日付を確認した。
テレビ、そしてスマートフォン。
壁にかかったデジタル時計。
父さんが読み終えて放置された新聞。
どれもこれも、示す日付は四月一日。
エイプリルフールの冗談なんかじゃない。
今日は確かに四月一日なんだ。
トラックに轢かれたあとの記憶がよみがえって来る。
「GAME OVER」という文字を確かに見た。だから死ぬんだと思った。なのに。
なぜ生きているのか。
訳が分からない。
死んだんじゃなかったのか。
自分だけがおかしいのか。
でも、もし、死んだことがなかったことになっているのなら。
やり直せるのなら。
あの学校には行かない。
その選択をした。
なぜ、どうして。そう家族に問い詰められて、素直に死ぬのが嫌だからと返す。
納得がいかない顔をされたけど、俺だって死にたくない。
入学式も行かず、学校に行かないまま過ごして迎えた四月十日。
俺がトラックに轢かれたあの場所で、別の生徒が事故に遭って死んでいた。
その事故で俺は死ぬはずだったのだと訴えて、やっとみんな頷いてくれた。
学校に行かずに働く生活がここから始まる。
なんの資格もない俺が、選べる仕事の幅は狭い。
生活できる最低限の収入を得られる仕事にしなさい。そう両親に言われたものだから、アルバイトの掛け持ちを選んだ。
日中はスーパーで。
夜間はコンビニで。
がむしゃらに働き続けた。
同時に高校卒業認定試験に向けても勉強をする。
夢に見ていた高校生活とは違うけど、それでも楽しい。そう思っていた。
四月二十日。
太陽がのぼって、夜間のコンビニバイトを終えて家に向かっていた。
あと少しで家に着く。
そのとき、真正面から見知らぬ人とすれ違った。
直後、痛みと共に熱いものが腹のあたりに何かが広がっていく。
手を当ててそこを見れば、真っ赤な血がドクドクと流れ出ている。
痛くて、訳がわからなくて。
あたふたしていれば、今度は後ろに人の気配を感じた。
振り返る暇もなく、鋭い痛みが首を走る。
呼吸もままならなくなって、立っていられなくなって。
かすんでいく視界。
見えた空は青かった。
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