第18話 王都にて

 思わぬところで師匠の昔話を聞けて、懐かしさを感じると共に、望郷の念がこみ上げてきて少しだけホームシックになった僕はみんなの事を思い出していた。


「みんなは元気でやっているかなぁ?」


―――――――――――――――――――――


「さて、まずは聖樹様の元へと行きましょう」

「私達はそれの世話をするってわけね」

「それ、なんて言っては駄目よ。聖樹様はこの国の全てなのだから」


 聖域へと連れてこられた風香達は聖女である少女、千登勢の後ろについて聖域の中を歩いていた。


「全てと言われてもね。具体的に言って貰わないと、さっぱり分からないわ」

「それも、すぐに分かるから」


 聖域と呼ばれた場所は外から見るとただの庭園でしか無く、中央部に一本の若木が生えている。その周りにそれを守るかの様に色とりどりの花が咲き誇っていた。


 中央部に近づくと若木の側に階段があり、その階段を下り地下へと案内される。


「ちょっと千登勢? あの木が聖樹なんじゃないの?」

「ええ、あれも聖樹様よ」

「あれも?」

「ふふふ、いいから黙ってついて来て」


 薄い緑色に光る幻想的、と言っても良い雰囲気の地下通路を進む一行の前にそれは突然現れた。


 真っ白なワンピースを着て、素足でトコトコ歩く、やはり薄い緑の長い髪をした小さな子供。


「あなたはだぁーれ?」

「聖樹様、新しいお友達ですよ」

「千登勢! おかえり」

「はい、ただいまです。ふふっ」

「千登勢、聖樹様って……」

「この子が聖樹様よ。仲良くしてね」


 知らない人間が怖いのか、千登勢の後ろに隠れてはいるが、風香一行を興味津々の目でじっと見つめる少女。


 やがておずおずと千登勢の背後から出てきた少女は風香の前に立ち、コテンと首を傾げた。


「おなまえは?」

「風香よ! 朝霧風香」

「ふーか? フーカ!」


 風香の名前を呼びながらグルグルと周りを回る。


「あなたのお名前は?」

「せーじゅ……」


 指をくわえて舌ったらずに返事をする。


「もう我慢できないわ! 私も私も!」


 蒼羅がその子の可愛い仕草にメロメロになりながらしゃがみ込んで頭を撫でている。


「私は蒼羅よ。蒼羅」

「そら? ソラ!」

「あーズルい! 私は紗羅よ」

「さらよ?」

「違う違う! 紗羅」


 また首を傾げてからニコッと笑う。


「サラ!」

「そうよ。良い子ね」


 紗羅に撫でられて少女ははしゃぐ。


「萃香、宜しく」

「スイ? スイ!」

「ははは、スイになったぞ? 萃香? 俺は康太だ。宜しくな」

「コタ? コタ!」


 その様子を眺めていた千登勢だが、萃香と康太の自己紹介を聞いてニヤニヤしている。


「しっかりと教えた方がいいわよ。後から苦労するから」

「苦労? 何の事だよ?」

「名前の事よ」

「んー? まぁこんなに小さい子供なんだから、間違って覚える事もあるだろ?」

「そうなの。そして訂正するのはそれはもう苦労するわよ?」

「構わないさ。間違って覚えるなんて可愛いもんだ」

「忠告はしたからね……」


 一通りの自己紹介が済んだところで千登勢が仕事内容の説明を始める。


「聖樹様はこの聖域から出る事はないわ。基本的にこの地下にいる事が多いけれど、たまに上の庭園で過ごす事もあるから、そのつもりでね」

「あの子をここに閉じ込めてるわけ?」

「あはは、違うわよ。ここにしか存在出来ないと言った方がいいわね」

「どう言う事よ?」

「見た目は子供だけど、上にあった若木を見たでしょう? あれが聖樹様の本来の姿なの。貴女達には精霊みたいなもの、と言った方が判り易いかもね」

「精霊……この子が?」

「そう、そしてこの国の全てでもあるの」


 千登勢が説明する内容は風香達には信じられない話であった。


 今現在のこの国が成り立ったのは今から五十年前、一人の男の前にひとひらの花弁が舞い降りたところから始まる。男の名はザカライアス、貴族でも何でもないただの男。


 ザカライアスは自宅で身体を休めている時に一枚の薄い緑色をした花弁をみつける。花を育てる様な趣味など持っていないと言うのに変わった事もあるものだなと、その時は思っていた。


 彼は花弁の事をすっかり忘れて普段と変わらない生活を続けていた。しかし、事あるごとにザカライアスの周りに花弁が舞い降りる。


 朝起きると枕元に、仕事で狩りをしている最中に、自宅に帰ると机の上に、薄い緑の花弁がまるで語りかけるかの様にその存在を主張する。


 彼には学は無く、動物を狩りそれを売る事で生計を立てていた。親しく接する人もごく僅かで誰にも花弁の事は話せずにいた。


 しかし、思いも寄らない場所で花弁の情報を耳にする。とある村で獲物を売っていると村人の話が漏れ聞こえてきた。


「ジニアはもう持たないらしいな」

「本当なのか、その話は?」

「ああ、今の国主の側に枯葉が増えているらしい」

「そうか……」

「また、辛い日々が続くのか」

「なーに、しばらくの辛抱だ!すぐに新しい国主が現れるだろうよ」

「お前だったりしてな!」

「そんな訳無いだろうが。大体、俺の周りには神託の花は降りてきてないからな!」


 神託の花と言う言葉を聞いたザカライアスは、毎日毎日自分の周りにいつのまにか現れる花弁の事を思い出し、思わず村人に話しかける。


「すみません、話が聞こえてしまったのですが。その神託の花とは一体何なんですか?」

「なんだい兄さん。知らないのかい?」

「この国の国主が変わる時に起こる神託だよ」

「現在の国主には枯葉が、新たな国主には薄い緑の花弁が舞い降りるんだよ」

「そうそう、枯葉が増えると国主は自分の国政を見直して善政をしこうとする。しかし、それでも駄目な時は駄目でな、枯葉が増え続けるんだよ」


 そんなはずはない。自分等が国主になれるはずがない、自分はただの狩人なのだから。そう思いながら普段通りの生活を続けるザカライアスだが、花弁がそうさせてはくれなかった。


 日に日に増えていく花弁に戸惑いを隠せないザカライアスが国主崩御の報を聞いたのは、初めて花弁が舞い降りてから二年の時が過ぎた頃だった。


 花弁が舞い降りてからのザカライアスの生活は劇的な変化を遂げていた。動物を狩るには危険が伴う物であるが、この二年の間は全くと言っていい程に危ない目に遭わずにいた。


 それよりも、花弁を追いかけて歩くと、高額で取引される獰猛な獣がスヤスヤと寝息を立てて寝ている場所に遭遇する。その獣を弓で射ると、吸い込まれる様に眉間に矢が突き立ち一矢で絶命する。そんな事が何度も続きザカライアスの懐はいつも潤っていた。


「ザカライアスよ、最近は調子が良さそうだな」


 こうして軽口を言う相手も段々と増えてきている。


「まあな、花弁様々だよ」

「花弁?」

「ああ、薄い緑の花弁が俺を導いてくれるのさ」

「薄緑の花弁……」


 軽口を叩いていた相手の男は何を思っているのか、それからしばらくの間だんまりを決め込んでいた。


「おい、どうした? 急に黙り込んで」

「いや、何でもない気にするなよ。それよりももっと飲もうぜ。そら乾杯だ!」


 それから数日が経ちいつもの様に狩りを終え、自宅に戻ったザカライアスは自分の家の前に見慣れない馬車が止まっているのを発見する。


「何なんだあの馬車は? 俺、何かやらかしたか?」


 しかし、疲れた身体を引きずって時間を潰すのも面倒だと、自宅に向かったザカライアスを迎えたのはこの国、ジニアの使いであった。


 一同全てが頭を垂れている。


「聖樹様の神託により貴方様をお迎えに上がりました」

「何だって?」

「新たな国主の貴方様をお迎えに上がりました」


 その日、ジニアに国王が誕生した。


「とまあ、こんな感じかな? この国の全ては聖樹様が決める。国主も国の形態もね。聖樹様が王国と認識するとその国は王国に、共和国や帝国になる事もある。それは全て聖樹様の認識次第、もちろん人の名前もね。頑張ってね、コタ君!」


 突然話を振られた康太は戸惑いを隠せない。


「ちょっと待ってくれ! じゃあ俺の名前は変わったのか?」

「多分ね。聖樹様、この人の名前は?」

「コタ!」

「ほらね?」

「うっそだろ! コタって。違うぞ? コウタだ。言ってみろよ、なっ?」

「コタ! コタ!」

「うふふ、大変なのよ? 認識を変えるのは。せいぜい頑張るのね。私の知り合いは今も苦労してるから多分無理だけど……」


 康太が無駄な努力を続ける中、風香が何かを考えている素振りを見せる。時折ニヤニヤとした笑いを浮かべて一人妄想をしている様だ。


「風香? 言っておくけど、聖樹様に変なこと吹き込んだら、死罪だからね?」


 その言葉を聞いた風香は慌てて否定する。


「な、なな、何のことかしら? へ、変なことなんて考えてないわよ?」

「貴女は分かり易すぎるのよ」

「何も考えないってば!」

「それなら良いのだけれど、だいたいね、聖樹様のお世話は必ず三人一組でするのよ。そして、その日にあった事や誰と何を会話したのか、事細かに報告する事が義務付けられているから、変な事はできないわ」

「そう、残念だわ」

「やっぱりね」

「違う違う。私はただ春人がどこにいるか聖樹に聞いたら分からないかなー、なんて思っただけよ」

「聖樹様よ。いい加減に覚えてね。それに聖樹様にはそんな事分からないわ。彼女が決めるのはあくまでも、国の事や人の情報のみだから」


 風香はやはり春人の居場所が気になるようで、千登勢の言葉で少し落ち込んだ表情を見せる。


「その、ハルト君だっけ? 貴女に取ってそんなに大事な人なの?」

「ただの幼馴染よ!」

「その割には心配しすぎだと思うけど?」

「そうかしら?」

「ええ、まるで恋人が居なくなったみたいに、ね」

「ば、馬鹿じゃないの! 春人はそんなんじゃ……」

「顔が真っ赤になってるわよ?」

「うるさい!」


 そっぽを向いてしまい、聖樹を構う蒼羅の元へと行ってしまった風香。


 その後ろ姿を微笑ましく見ている千登勢に康太が近づいて行く。


「あまり風香をからかうなよ」

「ふふっ、あの子可愛いから、つい」

「風香がヘソを曲げると後が厄介なんだ。それをなんとかするのは俺たちなんだからな。頼むよ」

「はいはい、御免なさい。それにしてもハルト君はみんなに愛されているのね?」

「んー。春人は一人にしておけない、と言った方がいいかな? 風香と同じだ。いや春人の方がより危険かもな?」

「どう言う人なの?」

「普段は温厚でな。自分がからかわれようが、けなされようが全く意に介さないが」

「が?」

「アイツが大切にしている物や人を少しでも傷つけようとする相手には容赦しない。下手をすると命を奪ってしまうかもしれないんだよ。アイツは」

「それ、超弩級の危険人物じゃないの」

「だから、そう言っている。一人にしておけないと」

「私に出来る最大の力を使って行方を探すわ」

「ああ、頼むよ」

「任せて」


 そう言って立ち去ろうとした千登勢だったが、一つ思い出して振り向いた。


「康太、一つだけ言っておく事があるの」

「おう、何だ? 俺に出来る事ならなんでもするぞ?」

「その、人と話す時にいちいち変なポーズをするのはやめた方がいいとおもうの」

「変? これはなフロント・ダブル・バイセップスと言ってな上腕二頭筋を美しく見せる……」

「いいの、名前とか興味ないから!」

「お? そうか……」

「とにかく! もう、やらないでね」


 千登勢はまるで、逃げるように早足でその場を去っていった。


「誰かこの良さを解る女の子はいないかねぇ」


 そう呟く康太の側を紗羅が通り掛かる。


「どうしたの康太?」

「ああ、紗羅。聞いてくれよ、千登勢がなこの筋肉の美しさを理解しようとしなくてな」

「あらあら、大変ね」

「そうなんだよ! 俺としてはもう少し太くしておきたいんだけどな」

「うーん、それ以上は付けなくてもいいと思うわ」

「そうか? いや、やっぱりもう少しだな」

「それ以上ゴツくなったら私が困る………」

「お? 何か言ったか?」

「なんでもない。でも程々が一番よ!」

「紗羅がそう言うならそうするかな」

「うん!」


 そんな風に聖域で聖樹の世話をしながら穏やかな暮らしをしている一行だったが、その中で一人風香の表情は曇りがちだった。


「どうしたらいいかな?」

「風香の事?」

「うん。あそこまで落ち込まれるとこっちもなんだか気分が下がって来るからね」

「春人君が見つからないとどうしようも無くない?」

「それが一番の問題よね」


 紗羅と蒼羅は風香を心配しているが、二人ではどうする事も出来ずこちらも沈みがちだ。


「よう、戻ったぞ!」


 そこへ許可を得て聖域の外に出ていた康太が戻ってくる。


「どうだった?」

「ダメだな。街の中を回って聞き込みもしてみたが春人の消息は全く掴めない。と言っても、俺みたいな素人がこんな広大な場所で探し出すなんて無理だろ?」


 仕事が休日になると各々街に繰り出して春人の行方を探してはいたが、二ヶ月が経った今でもその足取りは掴めていない。


「風香はどうだ?」

「今は萃香が側にいて、宥めているけどそろそろ危ないわね」

「春人、どこにいるんだか。俺達だけじゃあ風香を抑えるなんて出来ねぇよ」

「そうよねぇ」


 そんな話をしていた時、急に大きな鐘の音が王都ジニアを包んだ。


 カーン、カーン、カーン。


「なんだ? この音」

「何かあったのかしら?」

「風香の所へ行こう!」


 三人は風香が居ると思われる場所まで走る。


 風香は萃香と聖樹とともに若木の根本で休んでいたらしくすぐに見つかった。


「みんな! 何なのこの音?」

「分からん。ただ、少しばかりヤバそうな雰囲気だな」


 そこへ慌てて駆け込んできたのは聖女、千登勢。


「みんな集まって!」

「どうしたのよ、千登勢」

「少しやっかいな事が起きたの」

「一体何なの?」

「王都に大量の魔物が押し寄せて来てるの!」

「大量ってどのくらいよ?」

「さぁね? 一万匹か二万匹か、もしくはそれ以上」

「ここはどうなるの? あの大きな壁があれば防げるのよね?」

「それは、無理よ」

「無理って、それじゃあどうなるのよ!」

「王都は……良くて壊滅する」

「良くてそれ? 悪かったら?」

「ジニアは滅ぶわ……」


 全員から悲鳴が上がる。


「避難は出来ないの?」

「何処へ?」

「どこか、安全な場所へよ!」

「ある訳無いじゃない。魔物は天災じゃないの。自分の意思で人を襲うのよ? 今からじゃあ間に合わないわ!」

「じゃあどうしたら良いのよ!」


 どうする事も出来ない絶望に包まれた時に更に聖域へ走って来たものがいた。


「千登勢! 無事か?」


 千登勢の堅かった表情が安心からか安堵したものに変わる。


「盆ちゃん!」

「いや、その呼び方はよせ」

「なんで? 盆ちゃん」

「ふぅ、仕方ないなぁ」


 風香がその新たな闖入者に声を掛ける。


「アンタ誰よ?」

「うん? ああ、これが噂の僕らの同朋なのかい?」

「ええ、そうよ」

「誰かって聞いているんだけど?」

「ああ、済まない。僕は村川盆三郎、千登勢と一緒にここへやって来た者だよ」

「おいおい、ボンザ! 置いていくなよ!」


 更に現れたもう一人の男。


「銀の足が遅いんだよ」

「これでもこっちに来てから鍛えたんだがな」

「銀、こっちか噂の同朋達だよ」

「ほぅ、そうかい。俺様は御厨銀だ。せいぜい宜しく頼むぜ、同朋さんよ」


 まるで無頼感の様な口をきく男に戸惑っていると盆三郎がに千登勢に指示を出す。


「国王からの要請があった。僕らは魔物の撃退へ向かう。千登勢はここで聖樹様を守る様にとの事だ」

「盆ちゃん。危ないでしょう? 銀ちゃんも行くの?」

「だー! その呼び方すんなっていつも言っているだろうがよ!」

「いやよ! 銀ちゃんは銀ちゃんだもん!」

「頑固者が!」


 舌を出して軽く笑う千登勢にこの三人は相当親しい間柄だとみて取れる。


「とにかく、行ってくるから。千登勢も自分の身を守ってくれよ」

「盆ちゃん気を付けてね!」

「おい、俺は!」

「はいはい、銀ちゃん。盆ちゃんの足を引っ張らないようにね」

「抜かせ!」

「うふふ、気を付けてね」

「じゃあ、いってくらぁ!」


 聖域を立ち去った二人に呆気に取られている一行。


「喧しい人達ね」

「うふふ、そうでしょ?」


 いつに無く楽しそうな千登勢に風香は問いかける。


「それで? どっちが恋人なのよ?」

「えー? 内緒よ」

「まさか、二人ともだったりして」

「ダメよ。内緒!」


 先程までの危険な雰囲気は消えて、ほのぼのしていたが、そこへ大勢の兵士を伴い国王ザカライアスが聖域へと入って来た。


「聖女千登勢よ。役に立って貰う時が来たようだ。今、王都に大量の魔物が押し寄せて来ているのは知っているな?」

「ええ」

「これを撃退する事は不可能だ。騎士団を出してはいるが、あの数相手には焼け石に水だろう」

「では如何なさるのです?」

「王都に結界を張る。その為に貴様らがいるのだ。嫌とは言わせんぞ」

「まさか……」

「そのまさかだ! 六芒結界の準備を開始しろ!」


 王の掛け声と同時に兵士に拘束された千登勢と風香達。


「何をするのよ! 離しなさいよ!」

「暴れても無駄だ! 地下へ連行しろ!」


 あっという間に拘束され、地下へと連れられて行き、普段から出入りしている場所の更に下の階へと向かう。


 国王が先頭に立ち狭い通路を進み、一つの扉を開け放つ。そこにはまるで闘技場の様な場所で階段状の客席が並び、中央部には幾何学模様の魔法陣が描かれていた。


「よしっ! 時間がないすぐに開始しろ!」

「はっ!」


 兵士達が何かを操作すると地面から透明な円筒が迫り上がってくる。


「やめて! 離して!」

「何なんだよ。痛ぇよ!」

「乱暴しないでったら!」


 風香達はその円筒の中に閉じ込められてしまう。


「さて、聖女よ。後はお前だけだ」

「人の命を何だと思っているの!」

「お前には解るまいよ。いいか!たったの六人の命で大勢の人間を救う事が出来るのだぞ?」

「外道!」

「わはは、何とでも言うがよい。俺はな一国の主として国民を救うのだ」

「枯葉の王がよく言ったものね」


 一瞬で王の顔が歪み、千登勢を殴りつける。


「誰が枯葉だ! 弁えろ!」


 ぐったりとした千登勢も円筒の中へと入れられる。


「さてさて、聖樹よ。結界を作動しろ!」

「いや……」


 聖樹は首を振り今にも泣き出しそうな顔でイヤイヤをする。


「民を救うのだ! いいからやれ!」

「やー」


 遂には泣き出した聖樹などお構い無しに、ザカライアスは聖樹の髪を掴み魔法陣の中央へと引きずって行く。

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