第23話 ふぅん、こぅいぅのが良いの?(悪役令嬢ポジ、登場!?)
「あれはガチ寄りのガチでヘブンズだった……。まさかのレヴィアたん&リエルの心音に包まれるなんて……姫宮さん、あの二人の胸元の住所番地って分かる?」
「しれっと人の胸に住もうとしないで」
「区役所に電話したら分かるかなぁ」
「区役所の人、困惑するよ。だってその住所、二人そろわないと現れないもん。幻の土地だもん」
「……姫宮さん元気ない?」
「ぅ、うん。ちょっと……」
お昼休み、すっかり校舎裏は私達のお決まりの場所になっていた。
しかも今回はお互いにお昼ご飯を持ち寄って。三波くんは購買のパンをもぐもぐしていて、私はお母さんが作ってくれていたお弁当。
二人で並んで食べて、今イヤホン分け合いっこして……自分のASMR配信を聞いてる。
『あ……すごい匂い。バラ、かな。良い匂いですね』
ぷちゅちゅとジェルボールをいじる音を聞いても、私はぱくぱくとお弁当食べる。
今だってそう。
三波くんが
……分かる、理由は分かってる。
「――慣れていってるんだなぁ、自分でも分かる」
「遠い目をしてるね、姫宮さん」
「うん。ほんと昨日、色々あって……」
①ASMRで先輩を襲った
②尊敬してるお姉さんにハグされて襲われそうになった
③妹に「エッチ」認定された
④お母さんに「むっつり」を肯定され、デキ婚許可された
「色々……あって……っ‼‼」
ぶわっと目頭が熱くなってきた。
――――汚れちゃったなぁ、私。
もう戻らない四日前の自分との落差に涙してると、三波くんは心配そうな顔をして自分の付けてたイヤホンを外した。
「大丈夫? 両耳聞く?」
「ねぇ善意? それってまさかの善意なの?」
そんな、『おっぱい揉む?』みたいな発音で言うことなの?
「当然だよ。レヴィアたんのささやきは万物を浄化する。聞けば、涙も悩みも葛藤も残らず昇天させてくれるから……ほら聞きな?」
「あ、やめ、イヤホン詰めようとしないで。いやっ……、良いから別に良いから!」
すごく純粋な目で私の耳にイヤホン詰めようとしてくる。
やっ、やめて? ほんとにやめて?
無いから、レヴィアの声にそんな効果無いから!
それ、私の声だから!
きゅぽんと詰められた。
『綿棒はカリカリに、梵天はここでフワフワしてあげて。敏感なとこ(耳の中)だから、気を付けてね』
『は……ぁっ、ぃぃ』
――――あ~~~~~。
こうして聞き返すと……リエル先輩すごい上手。
反対に私の耳かきはまだ……引っかかる感じして、ビクッてしちゃう。
まだまだだなぁ………………………………………………
「あれ?」
これただの反省会なのでは? はたと気付く。
いや、でもだって分かっちゃうんだもん。聞く側に回ると。
ここら辺とかレクチャーとは名ばかりに、私ばっかり気持ちよくなってて……私だめじゃん。
「――――レヴィアたんのボイスを聞いても笑顔にならない……だと⁉」
そう言って三波くんは、私の両頬をグニィと持ち上げた。
私はぱちんと手を叩いて、離れる。
「なにすんの? ていうかどこに戦慄してるの、三波くん」
「えぇ⁉ だってすごく良いじゃん! 特に『眷属よ、こ、こぅか? これがよいのか?』っておどおど聞くとことか、これ実質手コk……」
「声に出すなぁ‼」
読み上げるなぁ‼
と私は三波くんの口を塞いだ。
ほとんど反射だった。
目を丸くする三波くんを見て……ヒュッと血の気が引いた。
「ごっ、ごめん! わぁ、ど、どうしよ私……っ!」
すぐに手を引いて、あわあわと両手を宙にさまよわせる。
思わず伽夜ちゃんにやるみたいにしちゃった、どうしよう⁉ 三波くんは塞がれた口回りを触りながら、まだ驚きに固まってる。
やっぱり慣れてしまってたんだ、この状況に、彼に。
どうしよう
「――っくく」
や、だ……?
三波くんは肩を震わせながら、自分の膝をぱんぱん叩いてる。何が起こったか分からなくて目をぱちくりしていたら、彼は大声を上げて笑い始めた。
「あっっははははは! あはははははははは! だはははははは!」
「み、三波くん⁉」
「ばちーんて! 口……っ! 塞がれ、あははははは! 女子にこんなことされたん初めてだわははははははは!」
な、なんで笑うの⁉
クラスのみんなに話しかけられてもクスリともしなかった彼が大爆笑してる。なにこれ一体何が彼のツボに入ったの⁉
彼は目に溜まった涙を拭きながら言った。
「良いな、姫宮さんってめっちゃ面白いな」
―――――ぇえええええええ!
頬が熱くなる。
頬が熱くて緩んで……なんか笑けてきた。
「ぇへ、へへへ……そっか……そっかぁ!」
「そうだよ……くくっ」
「ひひっ、ひひひ、えっへへへへ」
あれ、なんでだろう。
なんで私まで笑ってるんだろう。何も面白いことなんて無いのに。
なんで私達笑ってるんだろう――――笑いあってるんだろう。
分からない。分からないけど。
謎の波が収まって、お互いに「ふぅ」と落ち着くと、なんとなく空を見上げた。
ふつーの雲が流れてる。ふつーに青い空が広がってる。
そして横を向けば、三波くんがいた。
「晴れだね」
「ぅ、ん……晴れたね!」
……あれ、音流れてないな。スマホを見たら、いつの間にか配信は終わっていた。私はイヤホンを外して、三波くんに返す。
「ねぇ、三波くんはさ。今回の配信どうだった?」
「ヘブンズだった。やっぱり心音は良いな、推しは生きてるんだって思うもん」
うん、生きてるよ。
胸に手を当てると、とくとくとくと昨日から変わらず鼓動が脈打ってる。私はくすっと笑いながら、もう少し踏み込んでみる。
「でもちょっと道具使うのに必死だったというか……ささやいてくれたらもっと良かったのになって思ったんだけど」
「あ~~確かになぁ、姫宮さんの感想も分かる。でも俺は道具使うのも好きだからなぁ」
「次、レヴィアちゃんがASMRやるなら……どんなのが良い?」
三波くんは腕を組んで、唸りこんだ。いっぱい考えてるのが伝わってきて、それでも彼は一つだけ答えてくれた。
「デートシチュ、かなぁ。甘々の彼女のささやきとか。疑似的でもレヴィアたんの彼氏気分味わえたらも~最高だね」
「――ふぅん」
手を筒みたいに丸めて、口元に添える。
スムーズに、バレないように、彼の耳元まで寄って行って……ささやく。
「きょうへぃ、くん」
彼がバッと勢いよく振り返る、より前に私はパッと離れる。
そしてからかうように笑って
「こぅいぅのが……良いの?」
首を傾げて魅せた。
三波くんは耳を抑えて、さっきみたいに目を丸めていた。
今度は大笑いしなかった。
▼ 早乙女 ▲
「は?」
たまたまだった。
たまたま弁当を作れなくて、たまたま購買に行ったけど売り切れてて、たまたま学外のコンビニに行って、たまたま普段じゃ寄らない場所で食べようと思った。
それだけだった。
「は?」
教室のある校舎とは、反対の校舎の裏。
うちと同じクラスの男女がいた。
三波君と姫宮さんが、二人きりで、肩を並べてご飯を食べてた。
「は?」
姫宮さんが三波君に身を寄せた。
すぐにパッと離れたけど……三波君の顔は教室じゃ見たことない、驚いた顔をしていて―――――それ見た瞬間。
「はぁぁああああああああああああああああああ~~~~~~~~~~~~~?」
ぶぢゅううううう‼ と、ストローから牛乳が吹き出す。
そうして、うち……
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