いよいよ大詰めです
第49話 治療 (ウォール)
翌朝一番で俺たちは王都に向かう列車に乗った。
王都が封鎖され、そのことが地方にも伝わったことにより、王都に向かう列車には俺たち以外乗客はいなかった。
列車の中では、魔術研究会のメンバーが新しい魔法を覚えようと必死になっている。
「王都に着いたらすぐに重症者の治療にあたってもらうから、そのつもりでいてくれ」
「わかりました。それで、重症者は何人くらいおられるのですか?」
「それが、少なくとも百人、今も増え続けているようだ」
「そんなに、ですか……」
今朝入った殿下からの連絡によると、王都ではかなりの勢いで病気が広がっているとのことだった。
患者数は千人を超えているようだ。
このまま増え続ければ、俺たちだけでは対処が間に合わない。
王都にいる魔術師たちにも新しい魔法を覚えてもらって治療にあたらせるとしても、今の時代において魔術師は閉職だ、王都にもそれほどの魔術師がいるわけではないだろう。
そうなると、病気が広がり過ぎると、治療が間に合わなくなる可能性が高くなる。
新しい魔法を組み込んだ魔道具ができれば、問題は解決するが、それができるまでには一月以上かかるだろう。
困った事態になりそうだ。
困った事態といえば、朝からアカシアの機嫌が悪い。
朝からと言ったが、正確には昨日の夜、教会の隠し部屋に行ってからだろう。
何がそんなに気に入らなかったのだろう。
王都に着くまで時間があることだし、少し話を聞いて、宥めることにしよう。
俺は、研究会のメンバーと少し距離を置いて座っているアカシアの所に行くと、その前の席に座った。
「アカシア、どうしたんだい?」
「ウォールと話なんかしたくありませんわ。向こうに行ってくださいませ」
アカシアは不機嫌そうに横を向いてしまった。
これは、かなりご機嫌斜めである。
「何か、僕が気に障ることをしたかな? 理由を聞かせてもらえないだろうか」
「にぶちんのウォールに言っても仕方がないことですわ。少し一人にしてくださいな」
アカシアに拒否され、俺は仕方がなく、魔術研究会のメンバーたちの方へ移動した。
そのまま、列車は昼過ぎには王都に到着した。
「ウォール、こっちだ」
「レイ、わざわざ、迎えに来てくれたのか?」
列車から降りると、殿下の側近の一人、レイ・インディアン・シルバーグが待ち構えていた。
「すまないが、殿下からの指示だ、このまま救護所に向かって治療にあたってくれ」
「そのつもりだったが、そんなに切迫詰まっているのか?」
「そうだな。既に重症者が救護所に入りきらなくなっている」
「そんなにか! すぐに行こう」
俺たちはレイの案内で、すぐに救護所に向かい、治療を始めた。
幸い、新しい魔法は、その病気に効果があり、目に見えて症状が改善された。
俺たちは次々に患者を治療していくが、ここで、魔術ランクの差が如実に示された。
俺とカリンさんが診る患者の数と、魔術研究会の他のメンバーが診る数に大きな隔たりが出てきたのだ。
俺たち二人の方が、他の四人より多く患者を診ていた。
一人当たりにすれば、倍以上の差が出ていることになる。
でも、まあ、これはランクの差を考えれば仕方がないことだ。
だが、そのせいでカリンさんは、みんなから『聖女』と崇められ始めていた。
ちなみに、俺は『大賢者』だ。
人から褒め称えられることなどなかったので、気恥ずかしい思いをすることになった。
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