第17話 おじさんに手をひかれて。
時間にすればまだ宵の口。どの家庭も夕食が終わったくらいの時間?
遅い所だとこれから晩御飯だっていうところもありそうなそんなまだふけ切らない夜。
商店街もついさっきお店を閉めたばっかりで片付けの最中のような物音も聞こえる。
カツン カツン
そんな商店の間にある煉瓦が敷き詰められた路を歩くと流石にこの時間だと靴音が響く、かな。
あたしは女の子女の子とした歩みでクマのぬいぐるみを抱いて。
まるで迷子にでもなったの? と、側から見るとそう思われるような、そんな状態。
通りすがる人に時々怪訝な目で見られたりもするけどそんなことはお構いなしになるべく堂々として歩いてた。
「ねえイリス」
「なあに? デルタ」
「ボク、いつまでじっとしていればいい?」
はうあうあう。
もうぬいぐるみのフリしてるのに飽きたの?
「ごめん、もうちょっとね。怪しい人に声かけられるかもだからその時にはちゃんと大人しくしておいてね」
と、デルタの頭を撫でながら囁くように諭す
にしても。
もうそろそろだと思うんだけどなー。
こんな可愛い娘がこうして一人で歩いてるんだもの。人攫いさんにとっては格好の餌食だと思うのに。
ふきゅう。
もくろみが甘かったかなぁ?
そんな風に思いながらポクポクと歩く。
自分を囮にするのなんて、いいアイデアだと思ったんだけどなぁ。ちょっと自信無くなってきた。
商店街の端から端まで歩いてもう一回来た道を戻る。
うん。向こうの端まで歩いたら今日はもう終わりにしよう。
流石に横道の狭い路にまで入るのはちょっと怖い。
はう?
怖いって言うのはやっぱり、あれ、だよ。
暗い夜道は怖いでしょう? なんとなく。
まだ大通りは人気もまばらにあるし街灯だってある。でも、狭い路地だと、ねえ。
帰る前にちょっとだけ、あそこの角曲がってみようかな。そんな風に思って歩く。
少しだけならね? 勇気もなんとか絞って出せる。
結局大通りでは怪しい人からの声もかからなかった。
怪しくない人からもかからなかったから、ふにゃぁだけど。
もう。こんな風だから子供が攫われたりするんだ! とか。ちょっと理不尽に腹を立てて。
あたしは勇気を振り絞って角の細い路地に入っていった。
ちょっと薄暗くて薄気味悪いそこに。
「なあお嬢ちゃん。こんな夜更けに一人で歩いてると危ないよ」
はう!
背後からそう声をかけられて振り返る。
鉄の鎧を身に纏ったおじさん? なんだろう。警護署の人?
「あたし、ちょっと、迷子になっちゃったの」
なるべく子供っぽい声音でそう話す。
「そっか。じゃぁおじさんが安全な所に連れていってあげるから、一緒においで」
そう手を伸ばしてあたしの手を握る。
ゾクっとして。一瞬振り払おうかと思ったけど我慢した。
あたしの手を引っ張ってズンズン歩くそのおじさんになんとかついて行く。
クマぬいのデルタはちゃんとぬいぐるみのフリをしてくれてた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます