第16話
「おはよう!大星!」
教室に入って自分の席に座ると、隣の席から我に向かって話しかける声がした。
この声は確か……
「あぁ、おはよう、えーと……河田」
「河井だよ!?河井龍二!名前くらい覚えろよな!」
あー、間違えてしまった。
そうだ、河井龍二。
昨日はゴブリンロードの一件の印象が強すぎて、それ以前の記憶が薄れてしまっていた。
すまんな河井よ。
「あ、あぁ、すまん。もう忘れない」
「本当だろうな……。まぁいいや!大星!明日の探索者適正検査楽しみだなぁ!」
声がでかい……って、え?
「今何て?」
「本当だろうな……」
「その後だよ」
「え?明日の探索者適性検査楽しみだなって」
「そ、そうか」
「ん?どうかしたのか?」
やばい、完全に忘れていた。
小学校に入ったらすぐそういうものがあるのは知っていたが、これまた昨日の印象が強すぎて忘れていた。
そんな時、朝礼のチャイムが鳴り、先生が教室に入ってくる。
「じゃ、またな」
「ああ」
*
学校が終わった後、我はすぐに家に帰った。
小学校も一年生の最初の内は四時間授業。
家に帰ってもまだ昼食前である。
今日、我が家に帰ると葵のお母さん。涼香さんが居た。
昼食前だったこともあって葵も一緒に内にきてお昼ご飯を食べる事になった。
「「「「いただきます」」」」
今日のお昼ご飯はサンドイッチだ。
中身は卵で、一緒に入っているハムとツナが良い味を引き出している。
うん、うまいな。
「そういえば空人、葵ちゃん。明日は探索者適性検査だけど、空人と葵ちゃんは探索者になりたいとかはないの?」
探索者か……。
本来なら我にとっては探索者が最も適した職業なのだろう。
我もダンジョンに興味がないわけではない。
しかし、女神の罠がまだ残っている可能性もまだまだ十分にある。
だから……
「今のところは考えてないかな」
「そっか……」
我がそう答えると、母さんは少し残念そうな様子だった。
母さんは元探索者だ。
もしかしたら我にも探索者になって欲しいという思いが少しあったのかもしれない。
「葵ちゃんは?」
「私は……」
葵が少し思案顔になる。
ぶっちゃけ言うと、葵には才能があると思う。
少し小学校の子供たちのステータスをチラ見したが、葵はかなり優秀な部類だった。
なにより、あの葵の強すぎるともいえる精神力だ。
確実に葵は探索者の才能を持っている。
「私は、少し興味あるかも、です」
「そっか」
母さんが少しうれしそうな声で言う。
存外に、母さんも分かりやすいな。
それにしても葵が探索者。
もしかして……
*
お昼ご飯を食べ終わったら、我の部屋で葵と遊んできたらと言われた。
部屋に入り、母達の目が無くなったところで、我は葵に気になっていたことを尋ねた。
「葵、もしかして、葵が探索者に興味を持ったのって昨日の一件が理由だったりするか?」
「うん、そう」
「それまたどうして?」
「んー……秘密」
「なんだよそれ」
確かに葵は探索者に向いている。
だが、ダンジョン探索は危険な仕事だ。
先日のゴブリンロード。
あいつは前世で言うところの英雄には及ばないものの、並みの騎士よりは遥かに強かった。
そして、葵のあのステータスの上昇具合、レベルの上限は未だ分かっていないと言われている、が、少なくとも百や二百では無いのは確かだ。
葵がレベルを上げ続ければいつかは単独でもゴブリンロードを倒せるようになるだろう。
このレベルシステムははっきり言って異常だ。
ある程度の努力さえすれば前世で言う英雄クラスにもなる事が出来る。
それなのにこの世界の戦闘のプロ、つまり探索者であっても、未だに全てのダンジョンを攻略出来てはいない。
それはつまり、この世界にはゴブリンロードよりも強いモンスターがゴロゴロいるという事だ。
もしかしたら全盛期の我でさえ苦戦するような相手が居ないとも――
「危険だぞ」
「そうだね」
「死ぬかもしれないんだぞ」
「そうかもね」
葵は何でもない事かのように言う。
「ホントは空人も一緒にって、思ってたんだけどね……」
「……」
「分かってるよ、無理なんでしょ、それも」
「……あぁ、すまん」
あのクソ女神さえいなければ……。
……いや、あのクソ女神が居なかったら我はこの世界には来ていないか。
この世界に来させてくれたことだけは感謝しても……いややっぱ無理だわ。絶対。
その後は明日の探索者適性検査等の他愛もない話をして、葵と涼香さんは帰っていった。
そして翌日、とうとう探索者適性検査が始まる。
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